発売日: 2017年6月9日
ジャンル: インディーフォーク、オルタナティブロック
Big Thiefの2作目「Capacity」は、デビュー作「Masterpiece」で注目を集めたバンドが、さらに深い内面世界を掘り下げ、成熟したサウンドを展開した作品だ。フロントウーマンのエイドリアン・レンカーによる詩的で暗示的なリリックが中心となり、愛や家族、痛み、そして複雑な人間関係に迫るこのアルバムは、フォークロックとオルタナティブロックの間を行き来しながら、静かでありながらも深く感情を揺さぶる内容になっている。
エイドリアンの繊細なボーカルは一層感情的に響き、彼女の語る物語は優しくも鋭い感情が宿る。バンド全体の演奏もさらに洗練され、楽曲ごとに微妙なニュアンスを巧みに表現している。曲の構成やアレンジはシンプルでありながらも、緻密に計算されており、心に残る美しいメロディと共に、リスナーを豊かな音の旅へと誘う。「Capacity」は、エイドリアンが過去の経験や家族、自己の内側をさらけ出しながら、Big Thiefの音楽性をさらに深化させた傑作である。
トラックごとの解説
1. Pretty Things
アルバムの幕開けを飾る「Pretty Things」は、穏やかなギターとエイドリアンの切ない歌声が印象的な楽曲。テーマは愛と自己表現で、複雑な人間関係の中に隠れた感情が静かに語られている。
2. Shark Smile
「Shark Smile」は、軽快なビートとキャッチーなギターリフが印象的で、ロードトリップのような雰囲気を持つ一曲。歌詞には、恋人たちの危険で切ない関係が描かれ、疾走感と儚さが交錯する。
3. Capacity
アルバムのタイトル曲「Capacity」は、心の痛みと強さをテーマにしたトラック。シンプルなギターとエイドリアンの優しい歌声が、リスナーに深い安らぎを与えつつも、歌詞には鋭いメッセージが込められている。
4. Watering
「Watering」は、鋭いギターと独特なリズムが際立つ楽曲で、バンドのダークな一面を表している。人間の影の部分や苦悩が描かれ、アルバム全体の中でも特にインパクトの強い一曲。
5. Coma
「Coma」は、静かで内省的な曲調が特徴で、エイドリアンの囁くようなボーカルが心に響く。夢の中にいるような幻想的なサウンドが、リスナーを別世界へと連れ出す。
6. Great White Shark
「Great White Shark」は、ゆったりとしたビートと優しいメロディが心地よい楽曲。タイトルに反して穏やかで温かみのあるサウンドが印象的で、癒しを感じさせる。
7. Mythological Beauty
「Mythological Beauty」は、エイドリアンが母親との関係や家族の絆について歌った曲。彼女の個人的な経験が織り交ぜられ、リスナーにとっても共感を呼ぶ感動的な一曲である。
8. Objects
「Objects」は、シンプルなビートとギターリフが特徴の曲で、軽やかなリズムと共に日常の一コマが描かれる。エイドリアンの柔らかな歌声が、普通の瞬間に潜む美しさを感じさせる。
9. Haley
「Haley」は、アコースティックギターが中心のフォークバラードで、親しい人に対する優しい感情が歌われている。シンプルなメロディと歌声が心地よく、アルバムの中でも特に穏やかな雰囲気が漂う。
10. Mary
アルバムのハイライトである「Mary」は、ピアノの伴奏が美しいバラード。エイドリアンの詩的な歌詞が際立ち、静かながらも感情が深く込められている。愛と友情についての深い洞察が描かれ、特に印象的な一曲。
11. Black Diamonds
アルバムを締めくくる「Black Diamonds」は、ノスタルジックでメランコリックな曲調で、過去と向き合うエイドリアンの内面が表現されている。アルバム全体の余韻を残しながら静かに終わる。
アルバム総評
「Capacity」は、Big Thiefがデビューアルバム「Masterpiece」からさらなる成長を遂げ、繊細で詩的な表現を極めた作品だ。エイドリアン・レンカーの内省的な歌詞と感情豊かなボーカル、バンドの緻密なアンサンブルが見事に調和し、リスナーを感情の深淵へと誘う。人間関係や家族の絆、内面の痛みといったテーマが、心に残るメロディとともに描かれ、まるで一つの物語を読み解くような体験ができるアルバムである。Big Thiefは「Capacity」を通じて、インディーフォークとオルタナティブロックの枠を超えた音楽的な成熟を示し、ファンにとっても、また新たなリスナーにとっても、忘れがたい作品となった。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Stranger in the Alps by Phoebe Bridgers
感情的で内省的なリリックが特徴のアルバム。エイドリアンの詩的な表現と共鳴し、Big Thiefのファンにも響く作品。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
家族や愛についての深い洞察が込められたフォークアルバム。繊細で静かなサウンドが「Capacity」と共通している。
Punisher by Phoebe Bridgers
内面の葛藤や人間関係を描く、リリカルでダークなインディーフォークアルバム。Big Thiefのファンにとっても共感できる要素が多い。
A Deeper Understanding by The War on Drugs
メランコリックなメロディと広がりのあるサウンドが特徴の一枚。心の深部に訴えかける音楽性が、Big Thiefのファンにもおすすめ。
Are We There by Sharon Van Etten
個人的な痛みと成長がテーマのアルバム。内省的なリリックと温かみのあるサウンドが、「Capacity」と似た情緒を持っている。
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