1. 歌詞の概要
「Call Your Girlfriend」は、スウェーデンのシンガー・ソングライター、ロビン(Robyn)が2010年にリリースしたアルバム『Body Talk』に収録されたエレクトロポップ・ナンバーであり、恋愛における“もう一人の女”の視点を描いた作品です。タイトルの通り、彼女は恋人に「今の彼女に別れを告げて」と促しながら、その行為に罪悪感を感じないようにと語りかけます。
多くの失恋ソングとは異なり、「Call Your Girlfriend」は、三角関係の中で“選ばれた側”の女性の目線で描かれています。この立場の女性はしばしば非難の対象になりがちですが、ロビンはその感情にあえて寄り添い、誠実かつ堂々とした態度で「正しい別れ方」を提案します。そこには、単なる略奪愛や激情ではない、冷静で思慮深い愛の形が映し出されています。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲はロビンと、プロデューサーのカスティー(Klas Åhlund)による共作であり、『Body Talk』三部作の中でも特に感情の描写が研ぎ澄まされた楽曲として知られています。エレクトロニックでありながらも繊細なサウンドスケープ、ミニマルでありながらエモーショナルな展開は、まさにロビンのアーティスティックな成熟を象徴する仕上がりです。
特筆すべきは、この曲がリリースされた当時に、多くの批評家やリスナーたちから“共感”と“反発”の両方を引き起こしたという点です。なぜならこの曲は、恋愛における“倫理”や“所有”といったテーマに無言で切り込んでいるからです。しかもロビンは、これを悲劇的なバラードとしてではなく、アップテンポのダンスチューンとして表現しています。この対比が、曲のメッセージをさらに複雑かつ印象的なものにしています。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下は「Call Your Girlfriend」の印象的な一節とその和訳です:
“Call your girlfriend, it’s time you had the talk”
「彼女に電話して、ちゃんと話し合う時よ」
“Give your reasons, say it’s not her fault”
「理由を話して、彼女のせいじゃないって言って」
“But you just met somebody new”
「でもね、あなたは新しい誰かに出会ったの」
“Tell her not to get upset, second guessing everything you said and done”
「彼女には怒らないように言って、あなたの言動を疑うようなことはしないでって」
“And then you let her down easy”
「それから、やさしく彼女を振ってあげて」
引用元:Genius Lyrics
この歌詞の中では、「彼女を傷つけないように、誠実に、でも確実に別れを告げてほしい」という一貫したメッセージが語られています。主人公は自分が“奪った”とは考えておらず、「それでもあなたは私を選んだんでしょう?」というある種の肯定が含まれています。
4. 歌詞の考察
「Call Your Girlfriend」は、恋愛における“正しさ”の概念を再定義するような挑戦的な作品です。多くのラブソングが「失われた愛」「報われない愛」「裏切られた痛み」をテーマにする中で、この曲は「新しい愛に向かう決断とその倫理」にスポットを当てています。
歌詞の主人公は、“彼”に新しい恋人(つまり自分)のもとへ来るよう促すわけですが、その方法にも配慮と責任が求められています。ただ奪うだけではなく、別れの相手を尊重し、きちんと別れを告げるべきだという姿勢には、恋愛における道徳観すら垣間見えます。
一方で、サビの “You just met somebody new” というラインは、非常に率直かつ冷静な事実の提示であり、感情の爆発ではなく、愛の移り変わりを淡々と受け入れる大人の視点を感じさせます。このバランス感覚こそが、ロビンの歌詞が他のポップソングと一線を画す所以です。
また、アップテンポなトラックとの対比によって、リスナーはこの複雑な感情を“踊りながら受け止める”ことになるわけですが、それはまさにロビンが「Dancing On My Own」でも示した「悲しみと身体性の融合」の延長線上にある手法と言えるでしょう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Dancing On My Own by Robyn
前作と対になるような楽曲で、こちらは恋人を奪われる側の視点から描かれている。両曲を対照的に聴くことで、ロビンの感情のレンジの広さが分かる。 - Green Light by Lorde
新しい恋に向かって前進しようとする感情を、ダンサブルに表現した現代的ポップの傑作。ロビンの影響が色濃く反映されている。 - Two Weeks by FKA twigs
欲望と主張が入り混じった、強い女性像を描くエレクトロポップ。大胆かつ繊細な感情の描き方が共通する。 - Run Away With Me by Carly Rae Jepsen
ロマンティックな逃避行をテーマにしたシンセ・ポップ。開かれた愛と欲望が清々しく描かれている。
6. 特筆すべき事項:フェミニズムと恋愛の狭間で
「Call Your Girlfriend」は、恋愛ソングでありながら、同時にフェミニズム的視点も内包した作品です。女性同士が対立する構図ではなく、「いまの彼女」にも配慮を示しながら物語が進む点は特に重要です。そこには、単なる奪い合いではなく、女性同士の共感や倫理が浮かび上がってきます。
また、ロビン自身がインタビューでこの曲について「堂々と新しい恋を受け入れる女性像を描きたかった」と語っているように、依存的な恋愛ではなく、自己を保ったまま他者と関係を築こうとする姿勢が強く表現されています。恋愛において“選ばれる”ことをただ受け身に待つのではなく、自ら関係性を形成する主体として行動する――そんな力強い女性像がここにはあります。
**「Call Your Girlfriend」**は、恋愛における道徳、主導権、そして配慮という複雑なテーマを、見事に3分半のポップソングに凝縮した傑作です。その旋律に身を任せながら、歌詞の奥行きに気づいた瞬間、リスナーはきっと「これがただのラブソングではない」ことを実感するでしょう。悲しみの美しさ、欲望の正しさ、そして新しい関係を始める勇気を描いたこの楽曲は、現代の恋愛観を映し出すミラーのような存在です。
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