発売日: 1973年4月
ジャンル: ソウル、サザンソウル、R&B
概要
『Call Me』は、アル・グリーンが1973年に発表した5作目のスタジオアルバムであり、
彼のキャリアの中でも最も完成度が高く、成熟した傑作と称される作品である。
ウィリー・ミッチェルとの黄金コンビはさらに研ぎ澄まされ、
Hiスタジオのスムースなグルーヴ、タイトなホーンセクション、
そしてグリーンの柔らかくも深いソウルフルな歌声が完璧に融合している。
本作は、愛の歓びと痛み、孤独と希望――
それらを一つ一つ丁寧にすくい上げるような構成となっており、
グリーンは叫びではなく、囁きと微笑みの中にこそ真実の感情を宿すことを証明した。
“サザンソウル”の枠組みを超えて、
ポピュラー音楽全体における永遠の名盤として位置づけられている。
全曲レビュー
1. Call Me (Come Back Home)
アルバムタイトル曲。
別れた恋人への切実な想いを、
柔らかなリズムとメロディに乗せて、静かに、しかし熱く歌い上げる。
2. Have You Been Making Out OK
恋人とのすれ違いをテーマにしたメロウなバラード。
心配と寂しさがじんわりと滲む。
3. Stand Up
アップテンポでファンキーなナンバー。
立ち上がれ、と優しく、しかし力強く背中を押すメッセージソング。
4. I’m So Lonesome I Could Cry
ハンク・ウィリアムズのカントリークラシックをカバー。
孤独と絶望を、ソウルのフィルターを通して深く情感豊かに描いている。
5. Your Love Is Like the Morning Sun
ポジティブで温かいミディアムチューン。
愛を朝日のような救済にたとえた、幸福感に満ちた一曲。
6. Here I Am (Come and Take Me)
アルバム随一のアップビートなラブソング。
グリーンの軽やかなファルセットと、Hiサウンドの軽快なリズムが完璧に絡み合う。
7. Funny How Time Slips Away
ウィリー・ネルソン作のバラードをカバー。
時間の流れと失われた愛を静かに見つめる、胸を打つ名演。
8. You Ought to Be with Me
グリーン節全開のスウィートなラブソング。
包み込むような優しさと切なさが心を温める。
9. Jesus Is Waiting
アルバムを締めくくるゴスペルナンバー。
宗教的高揚感と個人的祈りが交錯し、静かな力強さを持ったクライマックスを迎える。
総評
『Call Me』は、アル・グリーンの音楽が
愛と信仰、孤独と赦しというテーマを、
かつてないほど豊かに、かつ繊細に描き出したアルバムである。
ここにあるのは、爆発的なエネルギーではない。
むしろ、静かににじむ感情、
ふとした瞬間に心を掴む声の震え――
**究極の”静かなるソウル”**なのである。
ウィリー・ミッチェル率いるHiスタジオ・サウンドも円熟の域に達し、
過剰な装飾を排しながら、
グリーンのボーカルを最も美しく引き立てるアレンジが施されている。
『Call Me』は、ソウルミュージック史のみならず、
20世紀ポピュラー音楽全体における至高の一作といって過言ではない。
おすすめアルバム
- Al Green / I’m Still in Love with You
本作と並び称される、愛と成熟の極致。 - Marvin Gaye / Here, My Dear
個人的な愛と苦悩を赤裸々に描いた、深遠なるソウル作品。 - Otis Redding / The Soul Album
情熱と繊細さを兼ね備えた、サザンソウルの名盤。 -
Aretha Franklin / Amazing Grace
ゴスペルとソウルの融合を極めた、アレサの金字塔。 -
Curtis Mayfield / Superfly
ファンクと社会派ソウルを融合させた、知性と情熱の傑作。
歌詞の深読みと文化的背景
『Call Me』が生まれた1973年――
アメリカは依然としてベトナム戦争の終結に向けて揺れており、
水面下では社会不安や人種間の緊張が続いていた。
だがアル・グリーンは、
社会的メッセージを前面に押し出すのではなく、
あくまで個人の愛と救済、心の癒しをテーマに選んだ。
「Call Me」では、失われた愛への呼びかけと再生を、
「Jesus Is Waiting」では、
この世の苦しみを超えた”救い”への祈りを、
グリーンは決して叫ぶことなく、
そっと、しかし揺るぎない声で歌い上げる。
『Call Me』は、
時代の荒波の中でも、人は愛し、癒され、信じることができる――
そんな静かな希望を湛えた、
永遠のソウルアルバムなのである。
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