アルバムレビュー：Buzz by Steps

発売日: 2000年10月30日
ジャンル: ダンス・ポップ、エレクトロ・ポップ、アダルト・コンテンポラリー

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
6. 制作の裏側

概要

『Buzz』は、Stepsにとって三作目のスタジオ・アルバムであり、
ティーン・ポップから大人のエレクトロ・ポップへと移行を図った重要作である。

1999年の『Steptacular』までに築かれた明快なユーロポップのイメージを踏襲しつつも、
本作ではより洗練されたアレンジやエモーショナルな歌詞を導入し、
サウンド面でもビジュアル面でも「成熟」と「変化」を打ち出した作品となった。

プロデューサー陣には、Greg Fitzgerald、Mark Topham、Karl Twiggらに加えて、
『Spice Girls』の成功を手掛けたSteve Macも参加し、
2000年代初頭のUKポップの“次のステージ”を切り開く意欲作として完成された。

当初はやや評価が分かれたが、近年ではStepsがアイドル性を保ちつつ“アーティスト”に進化した証明として再評価が進んでいる。

全曲レビュー

Stomp

アルバムのリードシングルで、Jackson 5「Different Kind of Lady」のディスコグルーヴを引用したパーティアンセム。
歌詞は単純だが、そのぶんビートの強さとサビの反復性が際立つ。
Stepsにおける“踊って忘れる”系統の最高到達点のひとつ。

It’s the Way You Make Me Feel

ストリングスを中心とした美麗なバラード。
ABBAの影響を色濃く感じさせる構成で、感情のゆらぎを繊細に表現した成熟した楽曲。
クラシカルなアレンジとポップスのバランスが秀逸。

You’ll Be Sorry

ファン人気の高いトランス寄りのエレポップ。
サビの爆発力が圧倒的で、夜のクラブと青春の回想の両方に似合う楽曲。
“謝っても遅いよ”というフレーズの潔さも印象的。

Buzz

アルバムタイトルにもなった本曲は、テクノロジーと恋愛感情を重ね合わせたユニークな一曲。
電子音と人間味のあるヴォーカルが交差し、Stepsの新機軸を象徴するアートポップ的側面も。

Here and Now

R&B色を持ったアダルト・ポップ。
リリックは自分自身との対話を描いており、グループにとって新しい内面的アプローチが試みられている。
Stepsが単なる「楽しさ」だけでなく、感情の深みへと踏み込んだことを示している。

Summer of Love

ラテンポップ的な要素を大胆に取り入れたパワフルなダンスチューン。
“夏の情熱”と“失われた純真”のコントラストが効いた構成で、
サウンドの多様化が本作で本格化したことを示す分岐点的楽曲。

Never Get Over You

切ない失恋を歌ったミッドテンポの楽曲。
個人の声が際立ちやすい構成となっており、グループとしてのハーモニーよりも“ソロ的表現”が目立つ珍しい楽曲。

Happy Go Lucky

タイトルの通り、明るく屈託のないポップソング。
前作までのユーロポップ感を踏襲しつつ、アレンジにY2K的なモダンさが加わり、古さを感じさせない。

Buzzz

エレクトロとロック要素を組み合わせた異色のトラック。
ギターのリフと歪みの効いたシンセ音が交差し、Stepsにしては異例ともいえる実験性が光る一曲。

総評

『Buzz』は、“アイドルポップ”という定型を超えるための挑戦が詰まったアルバムである。
グループとしての結束力と、各メンバーの個性をどのように調和させるかという課題に対して、
本作は音楽的成熟という答えを出そうとした。

とはいえ、Stepsらしい“踊れるポップ”の楽しさや、“みんなで歌える”ハーモニーは健在であり、
それを新しいプロダクションと融合させたことで、後の再結成や現在の活動にもつながる重要な土台となった。

もし『Step One』が無邪気なデビューであり、『Steptacular』がポップの祝祭だったとすれば、
『Buzz』はその後ろに広がる人生の“光と影”を意識した作品である。
そしてそれは、2000年代という時代の幕開けにふさわしい変化だったのだろう。

6. 制作の裏側

『Buzz』は、ロンドン、ストックホルム、マイアミなど複数の都市にまたがってレコーディングされた。
特にスウェーデンの制作チーム（A-TeensやAce of Baseにも関わる）によるトラックは、
北欧ポップ特有のメロディアスで透明感のある音像をStepsに提供した。

また、当時はメンバー個々のソロパートの増加や、リードヴォーカルの交代制導入など、構成面でも試行錯誤が行われていた。
これにより、ファンは単なるグループとしてでなく、“それぞれの声”に耳を傾けるようになっていったのだ。

このアルバムを境に、Stepsは「ダンスグループ」から「聴かせるアーティスト」へと進化を始める。
その起点が『Buzz』なのである。