1. 歌詞の概要
「Bringin’ On the Heartbreak」は、Def Leppardが1981年にリリースしたセカンド・アルバム『High ’n’ Dry』に収録された楽曲であり、彼らの初期を代表する名バラードである。歌詞のテーマは、愛がもたらす痛みと失望をストレートに描いている。恋愛において裏切られたり、想いが届かなかったりする中で生じる“心の痛み”を、ドラマティックに歌い上げているのだ。
サビで繰り返される「You got the best of me, you’re bringin’ on the heartbreak」というフレーズは、愛に全力を注いだにもかかわらず、結果として傷つけられてしまう切ない感情を端的に表している。叙情的な表現でありながら、どこかアリーナ・ロック的な力強さをも併せ持ち、バンドが後に展開する“ポップ・メタル”の萌芽が感じられる。
2. 歌詞のバックグラウンド
『High ’n’ Dry』はDef Leppardが国際的な注目を集めるきっかけとなった作品であり、プロデューサーには後に彼らの黄金期を支えるロバート・ジョン・“マット”・ラングが起用された。このアルバムは、それまでのニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル（NWOBHM）的な荒削りな音から、より洗練されメロディックなサウンドへと進化を遂げた作品である。
「Bringin’ On the Heartbreak」はシングルとしてリリースされ、当初は大ヒットには至らなかったものの、1984年にMTVで再び取り上げられた際にリバイバル的な人気を獲得。アメリカの若い世代を中心に浸透し、バンドが大きく飛躍する足掛かりとなった。特にパワーバラードとしての完成度は、後のBon JoviやSkid Rowといった80年代のアメリカン・ハードロック勢に強い影響を与えたとされている。
また、この曲はDef Leppardが「ハードロックとメロディアスなバラードを両立できるバンド」であることを世界に知らしめた作品であり、その後の『Pyromania』『Hysteria』につながる方向性を決定づける役割を果たした。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（歌詞引用元：Def Leppard – Bringin’ On the Heartbreak Lyrics | Genius）
Gypsy, sittin’ lookin’ pretty
ジプシーのように、美しく座っている君
Broken rose with laughin’ eyes
笑う瞳を持つ壊れた薔薇
You’re a mystery, always runnin’ wild
君は謎めいていて、いつも奔放に駆け抜けている
Like a child without a home
まるで家を持たない子供のように
You got the best of me
君は僕のすべてを奪った
You’re bringin’ on the heartbreak
君は心の痛みをもたらしている
Can’t you see?
わからないのか？
You’re bringin’ on the heartbreak
君は心を痛めつけている
歌詞は寓話的なイメージを用いながら、愛に翻弄される感情を直接的に描き出す。特にサビの繰り返しは、切ないフラストレーションをストレートに表現している。
4. 歌詞の考察
「Bringin’ On the Heartbreak」は、Def Leppardが持つ叙情性とハードさを融合させた代表的な楽曲である。歌詞の核心は「全てを捧げたのに裏切られる痛み」であり、それは恋愛における普遍的なテーマであると同時に、聴く者の心にダイレクトに訴えかける力を持っている。
冒頭の「ジプシー」「壊れた薔薇」というイメージは、愛する人の自由さや危うさを象徴し、同時にその魅力に抗えない語り手の心情を映している。愛に振り回され、最終的に心を傷つけられるという物語はシンプルでありながら、誰もが共感できる普遍的な感情である。
また、音楽的には静と動のコントラストが際立っている。バラード的に始まるが、サビで爆発的に広がる展開は、感情の爆発をそのまま音楽にしたかのようである。後の「Foolin’」や「Hysteria」にも通じる、Def Leppard特有の劇的なアレンジの原型がここにある。
この曲はまた、「ハードロックのバンドが感情的なバラードを歌う」ことを一般化した先駆的な存在でもあり、その後の80年代の“パワーバラード”ブームを切り開いたといえる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Foolin’ by Def Leppard
愛に翻弄される切なさを描いた『Pyromania』の代表曲。 - Too Late for Love by Def Leppard
『Pyromania』収録の叙情的ナンバー。ドラマティックな展開が共通する。 - Love Bites by Def Leppard
『Hysteria』収録のバラード。愛の痛みと美しさを極限まで表現した名曲。 - I Remember You by Skid Row
80年代後期のハードロックを象徴する切ないバラード。Def Leppardの影響を受けたスタイル。 - Every Rose Has Its Thorn by Poison
80年代パワーバラードの代表曲。愛と痛みをストレートに描いている。
6. 「Bringin’ On the Heartbreak」の象徴性
「Bringin’ On the Heartbreak」は、Def Leppardのキャリア初期において最も重要な楽曲のひとつである。この曲によって彼らは単なるハードロック・バンドから「感情をドラマティックに表現できる存在」へと進化した。MTV時代の幕開けと重なり、映像とともにこの曲が若い世代に広がったことも大きい。
さらに、この曲は80年代ロックにおける「パワーバラード」というジャンルの礎を築いた先駆的作品であり、その後の数多くのバンドに影響を与えた。Def Leppardが世界的な大成功を収める前段階で、この楽曲が未来を切り開く大きな役割を果たしたのは間違いない。
結果として「Bringin’ On the Heartbreak」は、Def Leppardの叙情性とパワーを最も鮮やかに融合させた名曲として、今なおライブで愛され続ける永遠のクラシックである。
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