
発売日: 2003年2月17日
ジャンル: インディーポップ、フォークロック、オルタナティブポップ
概要
『Bright Yellow Bright Orange』は、The Go-Betweensが再結成後に発表した2作目のアルバム(通算8作目)であり、過去と現在を繋ぐ穏やかで色彩感覚に富んだ小品集である。
2000年の復活作『The Friends of Rachel Worth』に続く本作では、よりアコースティック寄りで、よりパーソナルな手触りのサウンドが追求されている。
タイトルにある“明るい黄色、明るいオレンジ”という言葉が示すように、アルバム全体には希望と記憶、陽光と陰影が同居する、柔らかな色彩感が漂っている。
オーストラリアのバンドながら、イギリス的な詩情とヨーロッパ的な叙情性を備えた彼らは、本作においても都市と自然、孤独と親密さ、失われたものと日常の美しさを静かに歌い上げている。
制作は主にブリスベンで行われ、音数は必要最低限に絞られており、ソングライティングそのものの美しさが前面に出た作品となっている。
また、バンドはこの時期に再び5人編成となり、グラント・マクレナンとロバート・フォースターの作家性が、最も穏やかに交差したアルバムとも言える。
全曲レビュー
1. Caroline and I
フォースターによるアルバムの幕開け。
“彼女と私はいつも同じ軌道を描いていた”という詩的な表現が、友情や羨望、時の流れを滲ませる。
メロディは軽快だが、内側には静かな痛みがある。
2. Poison in the Walls
マクレナンによる柔らかなバラードで、過去の記憶と空間の感情的記録を描く。
“壁に染みついた毒”という表現は、忘れられない思い出や人間関係の名残を象徴している。
アコースティック・ギターとオルガンが優しく寄り添う。
3. Mrs. Morgan
短く、ナレーションのようなフォースターの詩が際立つ。
この曲では“音楽というより物語”としての機能が重視されており、イメージの断片が聴き手の中でゆっくりと浮かび上がってくる。
4. In Her Diary
マクレナンの美意識が存分に発揮された、アルバム屈指の名曲。
“彼女の日記の中に自分の名前がある”という、かすかな愛と希望の描写が切ない。
柔らかいコード進行と穏やかなハーモニーが、春の午後のような空気感を醸す。
5. Too Much of One Thing
フォースターらしい皮肉とユーモアの効いた歌詞。
“何事も過ぎれば毒”というテーマを、軽妙なリズムとともに描き出す。
カラフルな言葉遊びが耳に心地よい。
6. Crooked Lines
マクレナンによるやや哀愁を帯びた中速ナンバー。
“人生はまっすぐではなく、曲がりくねっている”という人生観が、静かなギターのストロークに乗せて語られる。
7. Old Mexico
フォースターの旅情と妄想が織り交ぜられた一曲。
実在しないかのような“オールド・メキシコ”の情景は、どこかノスタルジックで幻想的。
まるで小説の一編のような描写が魅力。
8. Make Her Day
マクレナンによる、温かな愛情がにじむラブソング。
彼女を笑顔にするためにできることを、ひとつひとつ丁寧に並べていくようなやさしい構成。
ベースラインが控えめながらも曲全体を支えている。
9. Something for Myself
フォースターの自己省察的な詩が光るナンバー。
“たまには自分のために何かを”という内向きな視点が、聴く者の心にも穏やかな波紋を広げる。
ギターの音色が特に美しい。
10. Unfinished Business
アルバムの最後を飾るのは、マクレナンによる“未完の物語”。
終わらない感情、整理されない思いを抱えながら、それでも今日を生きるという静かな決意が滲む。
“これからも続く何か”を感じさせる余韻が美しい。
総評
『Bright Yellow Bright Orange』は、The Go-Betweensが歳月とともに獲得した穏やかさと余白の美学を、最高のかたちで体現したアルバムである。
フォースターとマクレナン、それぞれの書く曲は対照的でありながらも、ここでは驚くほど有機的に連なっており、まるで2人の人生がゆるやかに交差する1冊の詩集のようである。
派手さもドラマもない。
だが、その分だけ聴き手の日常に深く染み込むような、“自分の感情にそっと寄り添ってくれる音楽”が詰まっている。
本作は、青春の焦燥を超えた先にある“人生の静けさ”を美しく音にした、Go-Betweens後期の隠れた傑作といえる。
おすすめアルバム(5枚)
-
Kings of Convenience / Riot on an Empty Street (2004)
静寂とメロディの美学。穏やかな会話のような音楽。 -
Iron & Wine / Our Endless Numbered Days (2004)
アコースティック・ギターと詩的表現の融合。内省的で温かな作品。 -
Tindersticks / Waiting for the Moon (2003)
ダークな叙情と淡い希望の同居。フォースター的語り口に共通点。 -
Nick Drake / Pink Moon (1972)
繊細さと親密さの極致。影と光が交差するソロ作品。 -
Belle and Sebastian / Dear Catastrophe Waitress (2003)
ポップと憂い、ストーリーテリングの妙がGo-Betweensと響き合う。
コメント