Breakthru by Queen(1989)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Breakthru」は、1989年にリリースされたQueenの13作目のアルバム『The Miracle』に収録された楽曲であり、情熱的な恋の高揚感と、新たな関係へと突き進む意志を描いた爽快なラブソングである。

冒頭の夢見るようなバラード・セクションから一転、突然炸裂するアップテンポのロックパート──この構成が象徴するように、楽曲は「静」から「動」への移行、すなわち内に秘めていた感情が一気に解き放たれる“突破(Breakthru)”の瞬間を音楽そのものに刻んでいる。

歌詞の内容はシンプルながらも非常にエモーショナルで、愛に傷ついた過去を乗り越え、再び誰かを信じて踏み出そうとする姿が描かれている。語り手は、目の前の“あなた”に強く引き寄せられながら、「もう一度愛を信じたい」という決意を込めて、「僕を通り抜けてくれ(Make a breakthrough)」と歌い上げるのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Breakthru」は、主にロジャー・テイラーとフレディ・マーキュリーによって書かれた楽曲である。もともとはロジャーが制作した別のバラード「When Love Breaks Up」の断片を、アルバム用に再構築したことから始まっており、冒頭の静かな部分がその原型として残っている

そこから続く本編は、全員の共作として完成され、結果的にQueenらしい躍動感と壮大さ、そして感情の爆発を具現化したような構成となった。これは、1980年代後半のQueenがシンセサイザーやサンプラーなどの新しい技術を駆使しながらも、バンドとしての一体感と“曲としての起伏”に再び重きを置くようになった流れの中で生まれた成果である。

また、この曲のミュージックビデオは、実際に走行中の列車の上で撮影されており、まさに「突き抜ける」ようなスピード感とパワーが映像と共に視覚化されている。特にフレディのエネルギッシュなパフォーマンスと、列車が疾走するダイナミズムは、楽曲のメッセージと完全にシンクロした象徴的な演出となっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下は象徴的なフレーズを抜粋する(引用元:Genius Lyrics):

When love breaks up / When the dawn light wakes up / A new life is born
愛が壊れたとき 夜明けが目覚めたとき
新たな人生が生まれるんだ

Somehow I have to make this final breakthrough… now!
どうしても僕は最後の突破口を見つけなきゃならない…今すぐに!

If I could only reach you / If I could make you smile
もし君に届くことができたなら もし君を笑わせることができたなら

If I could only melt your heart / We’d never be apart
もし君の心を溶かせたなら もう二度と離れたりしないだろう

This time I gotta break thru
今回は絶対に突破しなきゃならないんだ

この歌詞から伝わるのは、「過去の喪失を越えて、新たな愛に向かう決意」であり、それは恋愛だけに限らず、人生そのものの“再起”や“変革”のメタファーとしても読むことができる。

4. 歌詞の考察

「Breakthru」は、単なるラブソングの枠を超えた、“再生”と“覚醒”の歌である。過去に傷つき、壊れてしまった関係。その痛みを抱えながらも、誰か新しい存在に心を動かされ、そしてもう一度、愛を信じてみようとする。この楽曲が訴えかけるのは、**“変化を恐れず、自分の殻を打ち破る勇気”**なのである。

フレディ・マーキュリーのボーカルは、まさに“突破の瞬間”を体現している。序盤の繊細で内省的な語り口から、サビでは爆発的な感情へと転じるその様は、感情の波動を音楽そのものに託す表現力の極致とも言える。

また、「If I could only melt your heart(もし君の心を溶かせたなら)」という一節には、Queenらしいロマンティシズムが宿っている。愛とは、相手を変えることではなく、互いの心を開くこと。そのプロセスにおいて人は何度も「突破」を経験しなければならない──それがこの曲に込められた普遍的なテーマである。

(歌詞引用元:Genius Lyrics)

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Don’t Stop Me Now by Queen
     感情とスピードが交差する、自由と喜びの爆発を描いた名曲。

  • You’re the Voice by John Farnham
     内に秘めた声を外に解き放つ、“自己解放”をテーマにしたパワフルなアンセム。

  • I Want to Break Free by Queen
     束縛からの解放と、新しい自分への変化を描いた、もうひとつの“突破”の歌。

  • Invincible by Pat Benatar
     困難を力に変えて突き進む意志を歌い上げた、エネルギッシュなロックチューン。

  • Alive and Kicking by Simple Minds
     諦めない姿勢と“まだ終わっていない”というメッセージが胸を打つ再生の楽曲。

6. 音楽が“壁を超える”瞬間:Queenが刻んだ突破の哲学

「Breakthru」は、Queenが1980年代という困難な時代を経て、**再び自らの音楽的アイデンティティと向き合った末に生まれた“突破の証”**である。

当時、バンドは内部的にも個々の人生においても、さまざまな転機を迎えていた。そんな中で、過去の失敗や痛みを背負いながらも、「今こそ前に進む時だ」と歌うこの曲には、自己更新と再起動の精神が強く刻まれている。

その象徴が、スローなイントロから一気にテンポアップするあの瞬間だ。まさに、何かが動き出すその刹那を、音楽で“体験させる”構造こそがこの曲の革新性であり、聴く者に鮮烈なインパクトを残す理由である。

愛の中で迷ったことがある人、人生に停滞を感じている人、新たなスタートを切ろうとしている人──「Breakthru」は、そんなすべての人に向けて、“突破口は必ずある”と背中を押してくれる楽曲である。そしてそれは、ただの応援歌ではなく、Queenというバンド自身が体現してきた“変わることを恐れない精神”そのものでもある。

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