アルバムレビュー：Boz Scaggs by Boz Scaggs

発売日: 1969年8月
ジャンル: ブルースロック、ソウル、サザンロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
制作の裏側（Behind the Scenes）
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概要

『Boz Scaggs』は、ボズ・スキャッグスが1969年に発表したブルースロック／ソウル色濃厚なソロアルバムであり、彼のキャリアにおける最初の大きな飛躍を象徴している。

サンフランシスコの伝説的なレーベル「Atlantic Records」からリリースされ、南部メンフィスのスタックス・レコード直系のミュージシャンたちと共に制作された本作は、アメリカ南部の深いブルース感覚と洗練されたロックセンスを見事に融合している。

ボズ・スキャッグスは、スティーヴ・ミラー・バンドの初期メンバーとして知られるが、バンド脱退後、自らの音楽的ルーツに立ち返る形でこのアルバム制作に臨んだ。

特筆すべきは、スタックスの看板ギタリストだったスティーヴ・クロッパーをプロデューサーに迎え、またベースにはドナルド・”ダック”・ダン、ドラムにはアル・ジャクソン・ジュニア、さらに若き日のデュアン・オールマンもギターで参加している点である。

デュアン・オールマンのスライドギターが炸裂する「Loan Me a Dime」など、本作は彼の存在感を世界に知らしめる場にもなった。

当時、サイケデリック・ロック全盛の時代において、ここまでルーツ色の強いアルバムは異彩を放ち、後のボズ・スキャッグスのソウル志向、AOR的洗練路線へと繋がる布石となったのだ。

全曲レビュー

1. I’m Easy

軽快なギターリフと陽気なグルーヴが心地よいオープナー。
リラックスしたボーカルスタイルが、のちのAOR路線を予感させる。

2. I’ll Be Long Gone

サザンソウルの香り漂うミッドテンポナンバー。
孤独と希望をテーマにした歌詞が、ボズの柔らかな声で優しく響く。

3. Another Day (Another Letter)

リズムセクションがタイトに引き締める、感傷的なバラード。
別れと未練を題材にした歌詞が胸に迫る。

4. Now You’re Gone

ブルージーなギターとソウルフルなオルガンが絡み合う佳曲。
失恋をテーマにした叙情的な歌詞が印象的である。

5. Finding Her

リズム＆ブルース色濃厚な楽曲。
恋人を探し求める旅路を描いた、ロードムービー的情景が浮かぶ。

6. Look What I Got

跳ねるようなリズムとハンドクラップが楽しいナンバー。
一種の勝者の誇りをテーマにしており、前向きなエネルギーに満ちている。

7. Waiting for a Train

ジミー・ロジャースのカバー。
原曲のカントリーブルースを、ボズ流にソウルフルに再構築している。

8. Loan Me a Dime

デュアン・オールマンのスライドギターが冴え渡る、10分を超えるブルース大作。
経済的困窮を訴えるリアルな歌詞と、じわじわと熱を帯びる演奏が圧巻である。

9. Sweet Release

アルバムを締めくくる、ゴスペル風味のミディアムテンポバラード。
救いと再生をテーマにした歌詞が、じんわりと心に沁みる。

総評

『Boz Scaggs』は、ただのソロデビュー作ではない。
それは、ボズ・スキャッグスというアーティストが、自身の音楽的出自――ブルース、ソウル、サザンロック――を真摯に掘り下げ、形にした最初の証明なのである。

特に「Loan Me a Dime」は、本作最大のハイライトであり、後年デュアン・オールマンを語る際にも欠かせない名演として広く認識されている。

アルバム全体を通して、サウンドの肉厚さと演奏者たちの息づかいが生々しく伝わってきて、聴く者をアメリカ南部の湿った空気へと誘うかのようだ。

後年の『Silk Degrees』（1976年）の洗練されたポップ路線を思えば、このデビュー作の土臭さと生々しさは驚きでもあり、また彼の表現の振れ幅の広さを理解する上でも重要な作品だといえるだろう。

ソウルやブルースの熱気を愛するリスナーにはもちろん、アメリカン・ロックのルーツを探る旅に出たい人にもぜひ手に取ってほしい1枚である。

制作の裏側（Behind the Scenes）

レコーディングはアラバマ州マッスル・ショールズの有名スタジオ「Muscle Shoals Sound Studio」で行われた。
ここは、アレサ・フランクリンやウィルソン・ピケットらソウルの巨星たちを支えた場所でもあり、その空気がアルバム全体に漂っている。

制作を指揮したスティーヴ・クロッパーは、ギターだけでなく、アレンジやプロダクション面でも大きな役割を果たした。

また、当時若干22歳だったデュアン・オールマンは、本作での圧巻のプレイにより、スタジオ・ミュージシャンとしての地位を確立し、後の「オールマン・ブラザーズ・バンド」結成への足がかりともなったのだ。

彼らの息づかいが、いまなお録音から立ち上ってくるかのように感じられる作品である。