
発売日: 1971年11月
ジャンル: ブルースロック、ソウル、フォークロック
概要
『Boz Scaggs & Band』は、ボズ・スキャッグスが1971年に発表した3作目のソロアルバムであり、初めて自身のバンドと正式にクレジットを共有した作品である。
サンフランシスコの自由な空気と、南部ソウル、ブルース、フォークの感覚が、より自然体で融け合った本作は、前作『Moments』での内省的な雰囲気を引き継ぎながら、バンドの一体感によってさらに肉厚なサウンドを獲得している。
レコーディングには、トワ・サンテ(Tower of Power)のホーン・セクションや、地元サンフランシスコの精鋭たちが参加。
当時、アメリカ西海岸の音楽シーンは、ポスト・ウッドストック世代の成熟期に差し掛かっており、『Boz Scaggs & Band』は、その時代の空気を瑞々しく切り取った一作と言える。
商業的な大ヒットには至らなかったものの、ボズ・スキャッグスのキャリアにおける重要な過渡期として位置づけられる作品である。
全曲レビュー
1. Monkey Time
クールなホーンリフが印象的なダンサブルなナンバー。
カーティス・メイフィールドの名曲をボズ流にソウルフルに解釈している。
2. Hercules
メンフィスソウルとロックが交錯するグルーヴィーな一曲。
重厚なリズム隊と、たたみかけるようなボーカルが生き生きと響く。
3. I Can’t Hold On
柔らかなギターとピアノが絡み合うバラード。
離れていく恋人への未練と諦念を、哀愁を帯びたメロディに乗せて描いている。
4. I’ll Be The One
牧歌的なフォークロック風ナンバー。
「君のために歌い続ける」という素朴な誓いが、温かなアコースティックサウンドとともに胸に迫る。
5. Another Day (Another Letter)
前作からの再録曲。
バンドの演奏により、よりファンキーかつ躍動感あふれる仕上がりとなっている。
6. Runnin’ Blue
疾走感あるリズムとブルースフィーリングを併せ持つミドルテンポ曲。
若さと自由を讃えるような、爽快なエネルギーに満ちている。
7. Keep On Dancin’
タイトル通り、踊り続けることをテーマにした陽気なファンクナンバー。
ブラスとリズムセクションが絶妙に絡み合い、身体を自然に揺らしたくなる。
8. Look What I Got
こちらもセルフカバー。
よりソウルフルな味付けが施され、当時のライブ感を強く感じさせるアレンジになっている。
9. Flames Of Love
エレクトリックピアノとサックスがリードするロマンチックな楽曲。
愛を情熱の炎に喩える直球の歌詞が、ストレートに響いてくる。
10. Why Why
シンプルなブルースナンバーで締めくくられる。
問いかけるようなリリックと、土臭いギターサウンドが、どこか原点回帰を思わせる。
総評
『Boz Scaggs & Band』は、バンドとのコラボレーションによる「人肌感」がアルバム全体に満ちている。
それは単なる「バックバンド」ではなく、ボズ・スキャッグス自身がバンドの一員として音楽を楽しみ、呼吸し合うような自然体の表現である。
楽曲は全体的にカジュアルで、荒削りな面もあるが、それがかえって70年代初頭特有の、オープンな音楽シーンの空気をよく伝えている。
特に、「Monkey Time」や「Keep On Dancin’」に代表される軽快なソウル・グルーヴと、バラードの温もりのコントラストが心地よい。
この後、ボズ・スキャッグスはさらに洗練を深め、1976年の大ヒット作『Silk Degrees』へと至るわけだが、
この『Boz Scaggs & Band』には、飾らない”生のボズ・スキャッグス”が刻まれているのだ。
カジュアルに聴き流しても楽しいし、じっくり耳を傾ければ、演奏の隙間に宿る温かな息づかいを感じ取ることができるだろう。
おすすめアルバム
- Little Feat / Sailin’ Shoes
ルーツ感覚と遊び心が共存するアメリカンロックの名作。 - Van Morrison / His Band and the Street Choir
バンドとの自然な一体感と、ソウルフルな響きを味わえる。 - The Band / Stage Fright
ルーツロックの深みを知りたいリスナーにおすすめ。 - Tower of Power / East Bay Grease
本作にも参加したブラス隊の代表作。 - Leon Russell / Carney
土臭さと洗練が絶妙に共存するサウンド。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Boz Scaggs & Band』の制作は、サンフランシスコとマッスル・ショールズという二つの音楽的潮流を融合させる試みでもあった。
当時のサンフランシスコは、サイケデリックブーム後の多様化と成熟を迎えており、ボズもその影響を大きく受けている。
また、Tower of Powerのホーンセクションが本格参加したことで、サウンドに厚みとダイナミズムが加わった。
バンドメンバーには、ジャズやR&Bに通じたミュージシャンも多く、ジャンル横断的な自由なアンサンブルが可能だったのだ。
この時期のボズ・スキャッグスは、まだ商業的成功とは無縁だったが、地に足の着いた音楽探求を続けており、
その誠実な歩みが、やがて次作以降の大きな飛躍に繋がっていくのである。
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