Blue by Elastica（1995）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.10

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. 衝動と理性、そのせめぎ合いの記録
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1. 歌詞の概要

「Blue」は、Elasticaのセルフタイトル・アルバム『Elastica』（1995年）に収録された楽曲のひとつであり、ブリットポップの文脈においても彼女たちのパンク的側面が際立つ一曲である。2分にも満たない短いランタイムの中に、感情の暴走、恋愛における混乱、そして衝動的な拒絶と欲望の交錯が詰め込まれており、まるでパンクのスピリットそのもののような爆発力を感じさせる。

タイトルの「Blue」という言葉は多義的である。直訳すれば「青」だが、英語圏では憂鬱、落ち込み、孤独などの感情を表す色でもあり、さらに“性的”あるいは“不穏”なニュアンスを孕む場合もある。この楽曲においても、それらすべての意味が交差するような情緒が、短く激しいサウンドの中に込められている。

恋愛の中で感じる違和感や自己矛盾、時には暴力的なまでの欲求や逃避――そうした感情のうねりが、歌詞や音のテンションにあらわとなっており、聴き手に強い没入感を与える構造になっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

Elasticaは、当時の男性主導的なロックシーンの中で、女性の欲望や怒り、諦観を自らの言葉で語るという先鋭的なスタンスをとっていた。特にフロントウーマンであるJustine Frischmannは、性的にも感情的にも自立した視点からリリックを書き続け、90年代のフェミニズム的潮流とも共鳴していた。

「Blue」は、恋愛における従属や期待といった古い構造を拒否しつつ、それでもなお沸き起こる衝動や欲求を否定しきれない、“感情の矛盾”をそのままサウンドに焼き付けたような曲である。

楽曲の構造は非常にシンプルで、ギターリフが反復される中に突発的なフレーズが飛び込んでくる。これはWireやBuzzcocksなど、Elasticaが多大な影響を受けたポストパンク／ニューウェーブバンドの特徴を思わせるものであり、そのミニマリズムの中に鋭さと不安定さが宿っている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

You do me wrong, you do me right
あなたは私を傷つけて、同時に癒してくる

この矛盾に満ちたフレーズは、恋愛や性愛の中にある「支配と依存」「愛と嫌悪」の二重構造を的確に描いている。相手に傷つけられながらも、なぜか離れられない――その心理の複雑さを、ひとつの短文で鮮やかに切り取っている。

I don’t want this
私はこんなもの、望んでいない

この叫びのような否定は、恋愛に巻き込まれていく自分自身への反発でもあり、感情の抑えがきかなくなる状況に対する恐れでもある。欲しいと思った瞬間に、自分が壊れていくような感覚。それを素直に叫べるのがElasticaの強みである。

But I need this
でも、私はこれを求めてる

ここでの“need”は、情欲にも似た渇望だ。理性では「No」と言っていても、身体や心の奥底ではそれを必要としてしまっている。こうした逆説が、曲全体に張り詰めた緊張感を生み出している。

※歌詞引用元：Genius – Blue Lyrics

4. 歌詞の考察

「Blue」は、恋愛に対してクールな距離を取ろうとする一方で、どうしようもなく惹かれてしまう自分自身の感情を描き出した曲である。その意味でこれは、**「自己分裂の歌」**と言ってもよい。
Elasticaのリリックは一貫して「支配されることへの反発」と「自由への希求」に満ちているが、「Blue」ではそれが特に露骨で、爆発的に表現されている。

興味深いのは、こうした感情を“整った”言葉で語らず、断片的で衝動的なラインの積み重ねで伝えていることだ。まるで感情の破片をそのままマイクに叩きつけるようなスタイルは、Justine Frischmannのリリック術の中でも特に原始的でパワフルである。

恋愛や性を語るとき、そこに“矛盾”や“恥”があるのは当然だ。だがそれを覆い隠すのではなく、むしろそのまま提示してしまうことで、「Blue」は聴き手の中にある不安定さや欲望を照射してくる。
そしてその照射は、なぜか心地よい。まるで自分の中の“理性と衝動の衝突”を、誰かに代弁してもらったかのように。