Before You Go by Lewis Capaldi(2019)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

Before You Go“は、スコットランド出身のシンガーソングライター、**Lewis Capaldiルイス・キャパルディ)**が2019年にリリースした楽曲であり、デビューアルバム『Divinely Uninspired to a Hellish Extent』のデラックス・エディションに収録されました。前作「Someone You Loved」の大ヒットに続くこの楽曲では、突然失われた大切な人への想いと、残された者が抱える後悔と問いかけが、痛烈なまでに美しく描かれています。

タイトルの「Before You Go(君が行ってしまう前に)」というフレーズは、すでにその人物がこの世を去った後であることを前提としています。それゆえにこの楽曲は、「もしもあのとき、自分が何かしていれば、彼/彼女は救えたのだろうか?」という、愛する人を失った者が必ず抱える感情を、そのままの言葉で歌にしたような作品です。

喪失の感情が、怒りでも美化でもなく、ただありのままに綴られている点が非常に印象的で、聴く人の心の奥にある痛みや後悔を静かに呼び起こす力を持っています


2. 歌詞のバックグラウンド

Lewis Capaldiはこの曲について、「自死によって大切な人を失った経験をもとに書かれた」と語っています。具体的には、彼の叔母が自ら命を絶った出来事が背景にあり、それによって残された家族、特に母親が感じた苦しみを見つめたことで、本作のテーマが形作られました。

彼は「誰かが命を絶つとき、周囲の人間は『もっと何かできたのではないか?』『あの時あの言葉をかけていれば』と、自責の念に駆られる」とし、その感情を“音楽という形で吐き出すこと”がこの曲の目的だったと述べています。

だからこそ、この曲の歌詞は非常にパーソナルでありながら、自死や心の闇と向き合ったことのある人たち全てに共鳴する普遍性を持っています。


3. 歌詞の抜粋と和訳

Lyrics:
I fell by the wayside like everyone else
I hate you, I hate you, I hate you but I was just kidding myself

和訳:
「僕も他の人と同じように、無力なまま立ち尽くした
君を憎んでる、憎んでる、そう思ってたけど、自分を騙してただけなんだ」

Lyrics:
Our every moment, I start to replace
‘Cause now that they’re gone, all I hear are the words that I needed to say

和訳:
「一緒に過ごした瞬間を、何度も思い返す
もう君がいない今になって、あのとき言うべきだった言葉ばかりが浮かんでくる」

Lyrics:
So, before you go
Was there something I could’ve said to make your heart beat better?

和訳:
「だから——君がいってしまう前に
何か言葉をかけていれば、君の心は少しでも軽くなっただろうか?」

Lyrics:
If only I’d have known you had a storm to weather
和訳:
「君があんな嵐の中にいたと、あの時に気づけていたなら」

(※歌詞引用元:Genius Lyrics)

繰り返される「Was there something I could’ve said?(何か言えたことはあっただろうか?)」というフレーズには、答えのない問いを繰り返し続ける人間の弱さと、愛する者を失った者の止まらない思考が刻まれています。


4. 歌詞の考察

“Before You Go”は、Lewis Capaldiの作品の中でも、最も痛切で、同時に優しさに満ちた曲のひとつです。喪失、後悔、自責という重いテーマを扱いながら、それでも聴き手を絶望に突き落とすのではなく、「その痛みを理解している」という共感の光を投げかけてくれるような楽曲でもあります。

✔️ “言えなかった言葉”の持つ重み

この曲の核は、「もっと早く気づいていれば、何かできたかもしれない」という後悔です。けれど、語り手はそれを悔やむしかない現実に向き合いながら、あくまでも責めるのではなく、静かに問いかけている。この静けさこそが、かえって心に突き刺さるのです。

✔️ “心の嵐”に気づけない現実

「storm to weather(耐えなければならない嵐)」という比喩は、心の苦しみや孤独がどれほど見えにくく、同時に破壊的であるかを象徴しています。語り手が「知っていたら…」と何度も口にすることで、見えなかった苦しみへの悔しさと、語り手自身の無力感が浮かび上がります。

✔️ 愛と赦しの視点

曲の最後では、怒りや自責から少しずつ離れ、「あなたを本当に愛していた」という気持ちが残るように感じられます。それは、亡くなった人に対する赦しと、残された自分自身への赦しの兆しとも読み取れるのです。


5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Supermarket Flowers” by Ed Sheeran
     → 母親の死を悼む視点から、家族への想いを描いたバラード。

  • “1-800-273-8255” by Logic ft. Alessia Cara & Khalid
     → 自殺防止ホットラインの番号をタイトルにした、命の大切さを訴える楽曲。

  • Let It Go” by James Bay
     → 関係の終わりと、自分を手放すことの痛みを歌った名曲。

  • “Youth” by Daughter
     → 心の傷とその後の空虚さを繊細に綴ったインディーバラード。

  • “Ghostin’” by Ariana Grande
     → 死別と新しい恋の間で揺れる感情を描いた複雑で美しい一曲。


6. 『Before You Go』の特筆すべき点:沈黙の中にある“問い”を音楽にした曲

この曲の魅力は、感情を誇張することなく、むしろ“言葉にならない思い”をそのまま残す構成にあります。

  • 💭 「何かできたのでは」という問いを、聴き手自身にも投げかける構造
  • 💔 静かで情緒的なアレンジが、感情の揺らぎを繊細に表現
  • 🧠 心の健康、特に“見えない苦しみ”への理解を促す社会的意義
  • 🌌 死別や別れを経験した人にとって、“その痛みを共有できる”居場所のような存在

結論

Before You Go“は、愛する人を失った後に残される、どうしようもない思いを、真正面から描いた希少なバラードです。

この曲には、答えはありません。問いだけが残り、その問いをずっと抱えながら生きていく——そのこと自体が、悲しみの中で人が人として立ち続ける方法なのだと、ルイス・キャパルディは静かに教えてくれているのです。

そして、誰かを救えなかったという悔しさのなかで、聴き手は「今、誰かに何かできるかもしれない」と感じるかもしれない。
そのわずかな光を照らす音楽こそが、“Before You Go”の真の力です。

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