
発売日: 1983年11月
ジャンル: ヘヴィメタル、ハードロック
概要
『Bark at the Moon』は、Ozzy Osbourneが1983年に発表したソロ3作目のスタジオアルバムであり、ギタリストのJake E. Leeを迎えた最初の作品である。
ランディ・ローズの死によって大きな喪失を経験した後、オジーは本作で新たなバンド体制を築き直し、そのキャリアを再び軌道に乗せることに成功した。
このアルバムは、80年代メタルの典型的なサウンドを象徴する作品のひとつであり、ドラマチックなシンセサイザーの導入、鋭利なギターリフ、そしてオジー独特の声質によって彩られている。
同時期のメタルシーンでは、Judas PriestやDioといったバンドがシンフォニックかつ劇的な要素を取り入れていたが、オジーも本作でそうした潮流に応答するかのように進化を遂げた。
また、表題曲「Bark at the Moon」はオジーのキャリアにおける代表曲のひとつとして知られ、MTV全盛期のロック・アイコン像を強く印象づけた。狼男に扮したオジーのビジュアルは、音楽だけでなく映像文化と結びついた80年代メタルの象徴でもあった。
全曲レビュー
1. Bark at the Moon
オープニングを飾るタイトル曲。
Jake E. Leeによる攻撃的なリフとシンセが絡み合い、スピード感ある展開が繰り広げられる。
歌詞は狼男の伝承をモチーフにし、怪奇的で幻想的なイメージを強調している。アルバムの顔であり、オジーのライブでも欠かせない楽曲となった。
2. You’re No Different
ミドルテンポで進行する、やや内省的なナンバー。
「お前も自分と変わらない」というメッセージを繰り返す歌詞は、自己防衛的でありながらもリスナーへの共感を誘う。メロディアスな展開により、アルバムの陰影を広げている。
3. Now You See It (Now You Don’t)
ファンキーさを帯びたリズムと、ねじれるようなギターが印象的な曲。
歌詞は人間関係における欺瞞や裏切りをテーマにしており、オジーのユーモラスで皮肉な一面が感じられる。
4. Rock ‘n’ Roll Rebel
反骨精神を掲げた楽曲。
「自分は宗教家でも政治家でもない、ただのロックンロール・レベルだ」という歌詞は、オジーのスタンスを明快に表明している。メタルのイメージに絡んだ悪魔崇拝の噂を意識的に否定する内容とも解釈できる。
5. Centre of Eternity
荘厳なオルガンのイントロで幕を開ける、ドラマティックな楽曲。
クラシカルな要素とメタルの融合は、当時のヨーロピアン・メタルの潮流を取り入れたものと言える。永遠や死後の世界を題材にした歌詞は、オジーの神秘性を高めている。
6. So Tired
アルバム唯一のバラードであり、弦楽アレンジが施された異色の楽曲。
愛の疲弊や別れを描いた歌詞は、オジーの脆さを見せる瞬間でもある。重厚なナンバーの中に置かれることで、アルバム全体の緩急を際立たせている。
7. Slow Down
その名の通り「スローダウン」を呼びかけるナンバー。
キャッチーでリフレインの多い構成は、シンプルながらライヴ映えする。メッセージ性よりもエネルギーを優先した一曲といえる。
8. Waiting for Darkness
終曲を飾るダークで幻想的な楽曲。
陰鬱なメロディと哲学的な歌詞が相まって、アルバム全体を不穏さと神秘性で締めくくる。オジーの「光と闇」の二面性を象徴するような楽曲なのだ。
総評
『Bark at the Moon』は、Ozzy Osbourneがランディ・ローズの死を乗り越え、新たな創造力を模索した記念碑的な作品である。
Jake E. Leeの加入は音楽的刷新をもたらし、より80年代的でシンフォニックなサウンドを形作った。その一方で、オジー自身のアイデンティティは揺らぐことなく、独特の歌声とキャラクターで強烈な存在感を放っている。
本作がリリースされた1983年は、MTVを中心とした映像メディアがロックを牽引する時代であった。狼男に扮した「Bark at the Moon」のPVは、単なる音楽以上にオジーを“ロック・モンスター”として確立する役割を果たした。このビジュアル戦略は、アリス・クーパーやKISSの演劇性とも共鳴しつつ、80年代メタルのショーマンシップを象徴するものだったといえる。
音楽的には、Judas Priestのメカニカルなサウンドや、Dioの神秘的世界観と並ぶ形で、本作はメタルの「劇場性」を拡張した。プロデューサーのBob DaisleyとMax Normanの手腕により、ギターとシンセが分厚く重ねられたサウンドは、従来のヘヴィメタルに近未来的なニュアンスを加えた。
ファン層への訴求も広範囲である。長年のブラック・サバス時代からのファンには「Rock ‘n’ Roll Rebel」のような反骨精神が響き、メロディアスな「So Tired」はより広いロックリスナーへ開かれている。さらに「Bark at the Moon」のスピード感は、若年層のMTV世代をも魅了した。
オジーのキャリア全体から見ても、『Bark at the Moon』はソロ活動を継続させる分岐点であり、後の『The Ultimate Sin』や『No More Tears』へとつながる重要なステップであった。悲劇から立ち上がり、新たなメタルの物語を紡ぎ始めた、その証となる作品なのだ。
おすすめアルバム
- Judas Priest – Screaming for Vengeance (1982) 攻撃的なリフとメロディが融合した名盤で、同時代のメタル進化を示す。
- Dio – Holy Diver (1983) 神秘的な世界観と圧倒的なヴォーカルで、本作と並び語られる80年代メタルの金字塔。
- Black Sabbath – Heaven and Hell (1980) オジー脱退後のサバスだが、メロディアスかつ荘厳なメタル像が本作と通じる。
- Iron Maiden – Piece of Mind (1983) 同年リリースの名盤。シアトリカルな要素とメタルのダイナミズムが共振する。
- Ozzy Osbourne – No More Tears (1991) 後年の代表作で、より洗練されたサウンドとダークな叙情性が結実している。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Bark at the Moon』は、ジェイク・E・リーがギタリストとして本格参加した最初の作品である。
しかし作詞作曲のクレジットに関しては、当初オジーのみの名義とされ、リーやベーシストのBob Daisleyの貢献が十分に反映されなかった。この問題は後年まで論争となり、業界における契約や権利の難しさを象徴する事例となった。
また、サウンド面ではシンセサイザーの導入が大きな特徴である。これは当時のメタル・プロダクションにおける新潮流を反映しており、重厚なギターと壮大な音響効果を融合させることで、より劇的なサウンドスケープを実現している。
さらに、表題曲のミュージック・ビデオは高額な予算を投じて制作され、特殊メイクによる狼男姿のオジーが強烈な印象を残した。音楽と映像が不可分となった80年代において、この戦略は大きな成功を収め、オジーの“ショーマン”としての地位を確立させたのだ。
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