発売日: 2010年6月14日(UK)
ジャンル: インディーロック、パワーポップ、ダンス・パンク
概要
『Barbara』は、We Are Scientistsが2010年に発表した3作目のスタジオ・アルバムであり、
メンバーの入れ替わりと音楽的模索を経てたどり着いた、バンドの“らしさ”が再構築された快作である。
前作『Brain Thrust Mastery』(2008年)ではシンセやエレポップ寄りのサウンドにシフトしていたが、
今作ではギターロックの初期衝動とポップセンスを両立させた、“原点回帰”と“再出発”が共存する作品となっている。
元Razorlightのドラマー Andy Burrows が本作に参加し、躍動感のあるリズムと柔軟な演奏が全体に瑞々しさをもたらした。
また、アルバムタイトル『Barbara』に特別な意味はなく、**We Are Scientistsらしい“語感と響き重視のナンセンス美学”**が反映されている。
全曲レビュー
1. Rules Don’t Stop
シンプルなギターリフと疾走するドラムが爽快なオープニングチューン。
「ルールなんて無意味だ」というタイトル通り、バンドの自由な姿勢と再起への決意が感じられる。
わずか2分半で駆け抜けるパンキッシュな好スタート。
2. I Don’t Bite
ギターのカッティングと跳ねるリズムが気持ち良い。
“噛みつかないよ”というフレーズが、恋愛における警戒心と本音の間で揺れる主人公の心情をポップに描く。
3. Nice Guys
リードシングル。
“良い人は最後まで勝てない”というロック的アイロニーを、軽妙なメロディとキャッチーなコーラスで包み込む。
ギターロックとしても完成度が高い。
4. After Hours(再収録なし)
※前作収録のヒット曲とは別。
本作には「After Hours」の再演はないが、代わりに似た質感を持つ曲がいくつか存在する。
4. Jack & Ginger
本作中で最もドラマチックな展開を持つ楽曲。
情景描写の巧みさと、“Jack”と“Ginger”という名前の甘美さが青春映画の一場面のようなイメージを喚起する。
5. Pittsburgh
控えめなテンポの中に、孤独と希望が交錯する静かな名曲。
“ピッツバーグ”という地名が象徴するように、遠く離れた誰かへの思いが淡く描かれている。
6. Ambition
皮肉混じりのラブソング。
“野心”というタイトルながら、内容は恋愛関係での諦念と再評価を歌っており、
ギターのアルペジオとミニマルなアレンジが印象的。
7. Break It Up
ポップパンク調の軽快なナンバー。
「壊してしまえ」という直接的な言葉の裏にあるのは、感情の整理と決断の痛み。
シンガロング向きのキャッチーなサビがライブ映えする。
8. Foreign Kicks
シンセがわずかに加わり、異国感を演出。
“異文化との接触”を比喩に、恋愛のズレや距離感を知的に描写している。
9. You Should Learn
恋人や友人への“忠告ソング”のような構成。
説教臭さを排しつつ、軽妙なフレーズと柔らかいボーカルで包む大人の視点が新鮮。
10. Central AC
ラストトラックは、ややダウナーなギターロックで締めくくられる。
“セントラル空調”という日常的なモチーフが、感情の空調=調整と冷却のメタファーとして機能。
エモーショナルながらもクールな余韻を残す終幕。
総評
『Barbara』は、We Are Scientistsが“原点を思い出しながら、新たなバンド像を再構築した”節目の作品である。
シンプルでタイトな楽曲が並び、どれも平均3分以内に収まるなど、
短くても濃密なメロディとリリックを重視する姿勢が貫かれている。
また、前作のシンセポップ寄りの方向性からは少し距離を置き、
ギター・ドラム・ベースという基本構成で“ロックバンド”の核に立ち返ったような手触りが心地よい。
決して深刻にならず、だけど空虚にもならない。
軽やかさの中に“ちょっとの痛み”を込めるセンスこそが、彼らの真骨頂なのだと改めて証明する一枚である。
おすすめアルバム
- The Cribs『Ignore the Ignorant』
ポップなギターと英国らしい皮肉が効いたロックバンド。空気感が近い。 - OK Go『Of the Blue Colour of the Sky』
ポップロック×リズムへのこだわりという意味で共鳴。 - Tokyo Police Club『Champ』
短くても鋭いギターロック。言葉選びのセンスも似ている。 - Razorlight『Razorlight』
歌詞の直接性とメロディ志向のバランスが近似。 -
The Wombats『This Modern Glitch』
インディー・ロックにおける“ポップであること”への誠実な挑戦。
ファンや評論家の反応
『Barbara』は、前作で新機軸を打ち出した後に**“本来のWe Are Scientistsらしさ”を再提示した作品**として、
ファンからは高く評価されている。
批評家からは「やや保守的だが、楽曲の完成度は高い」「初期のファンにとって嬉しい一枚」といった意見が多く、
特に「Rules Don’t Stop」「Nice Guys」はライブ定番として愛され続けている。
We Are Scientistsは、どれだけ時代が進んでも、“あの頃の気まずさ”を鳴らす術を忘れない。
『Barbara』は、その静かな証明である。
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