1. 歌詞の概要
「Bad Reputation（バッド・レピュテーション）」は、Joan Jettが1980年に発表したソロ・デビュー・アルバム『Bad Reputation』に収録された、彼女の代表曲でありロックンロール史に残る不屈のアンセムである。Joan Jett & The Blackheartsとしてのリリース以前のソロ名義の楽曲だが、のちのバンド活動と精神的には深くつながっており、以後のすべてのキャリアを象徴する“宣言”とも言える作品である。
歌詞の核にあるのは、「世間がどう思おうと、私は私」という強烈な意志の表明である。社会の目や噂、他人の評価といったものに対して、全面的な拒絶を突きつけるその語り口は、フェミニズムの先駆であり、DIY精神の体現者でもあったJoan Jettの生き方そのものだ。
一見すればただの反骨精神に見えるこの歌詞は、実のところ極めてストイックで、自己肯定と解放の哲学に根ざしている。他人の期待を裏切るのではなく、自分の真実を貫くこと——それが「Bad Reputation」が伝える普遍のメッセージである。
2. 歌詞のバックグラウンド
Joan Jettは1970年代、The Runawaysというティーンエイジャーのガールズ・ロックバンドで頭角を現したが、その活動には常に“女性だから”という枠組みがつきまとった。パンクやハードロックを志向するその姿勢は、音楽業界やメディアからしばしば“過激”“男勝り”“不良”といった偏見で語られた。
The Runaways解散後、Joan Jettは大手レーベルからの契約をすべて断られ、自らのレーベルBlackheart Recordsを設立するに至る。こうした経験から生まれたのが、「Bad Reputation」である。まさに、レコード会社、メディア、社会、すべての“権威的なもの”に対して放たれた実弾のような曲なのだ。
プロデュースには、Sex PistolsのプロデューサーでもあったKenny Lagunaが参加し、パンクの荒々しさとポップのキャッチーさが融合したサウンドに仕上がっている。リリース当時こそ商業的な成功は限定的だったが、後年になるほどその評価は高まり、映画『Shrek』『Freaks and Geeks』や様々なCMなどでも使われ、Joan Jettの代名詞的存在となった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（引用元：Genius Lyrics）
I don’t give a damn ’bout my reputation
私の評判なんて、どうでもいいわ
You’re living in the past, it’s a new generation
あんたたちは過去に生きてるのよ、これは新しい世代なの
A girl can do what she wants to do
女の子だって、好きなことをやっていいのよ
And that’s what I’m gonna do
だから私はそうするの
And I don’t give a damn ’bout my bad reputation
悪い評判なんて、気にしない
この歌詞は、一貫して「私は私でいる」と言い切る姿勢に貫かれている。性別への固定観念をはねのけ、時代の壁を突き破っていく。特に「A girl can do what she wants to do」というフレーズは、ロックシーンにおける女性の立場を再定義した象徴的な一節であり、多くのアーティストたちにインスピレーションを与えた。
4. 歌詞の考察
「Bad Reputation」は、Joan Jettの生き方そのものを凝縮したような楽曲であり、そのメッセージは現代においてもなお新鮮で切実だ。彼女が拒絶しているのは単なる批判ではなく、“自分らしくあることを否定する社会の構造”であり、“型に嵌めようとするまなざし”である。
この曲は、フェミニズム、パンク、DIY、アウトサイダー文化といった複数の文脈で語ることができる。特に注目すべきは、Joan Jettが一貫して「反抗」を手段ではなく、生存の選択として扱っている点だ。「自分の評判よりも、自分の本質を守る」という姿勢は、アーティストとしてだけでなく、一人の人間としての誠実さと尊厳に満ちている。
そして、「評判なんて気にしない」という言葉は、すべての“はみ出し者”に向けた励ましでもある。LGBTQ+の人々、女性、マイノリティ、表現者——あらゆる「枠外にいる人」にとって、この曲は「あなたのままでいていい」という肯定の詩なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- You Don’t Own Me by Lesley Gore
女性の自立を早くから高らかに歌い上げた、1960年代の先駆的フェミニスト・ソング。 - Rebel Girl by Bikini Kill
フェミニズム・パンクの代表曲。Joan Jettはこのバンドを積極的に支援していた。 - Just a Girl by No Doubt
ジェンダー規範への抵抗をポップに、力強く表現した90年代フェミ・アンセム。 - Fight Like a Girl by Zolita
現代の女性アーティストによる、ポップで過激な自己肯定ソング。 - Gloria by Patti Smith
聖女と娼婦、伝統と反逆を再定義したロックの女神の宣戦布告。
6. ロックの自由を生きる「アウトサイダーの女神」
「Bad Reputation」は、Joan Jettのキャリアにおけるマニフェストであると同時に、すべての“不適合者”たちのためのロック・アンセムである。彼女が伝えたのは、誰にどう思われようと自分を貫いていいというシンプルで、しかし強烈なメッセージだった。
40年以上を経た今も、この曲はライブで絶大な盛り上がりを見せ、フェスでもバーでもCMでも鳴り響いている。それは「ロックとは何か」を超え、「生き方とは何か」という問いに対する答えを持っているからだろう。
Joan Jettにとって、“悪評”とは敗北ではない。それはむしろ、誇りだった。
だからこそ、「Bad Reputation」は不屈の人々に寄り添い続け、これからも永遠に鳴り響く。ロックンロールは死なない。評判よりも魂の叫びが、未来をつくる。
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