
発売日: 2008年
ジャンル: エレクトロ・ダブ、ラテン・ベース、ダンスホール、バスク・ヒップホップ、サウンドシステム・ミクスチャー
概要
『Asthmatic Lion Sound Systema』は、Fermin Muguruza(フェルミン・ムグルサ)が2008年にリリースしたソロアルバムであり、彼の音楽的・政治的活動をさらに加速させる「モバイルな音のゲリラ部隊」として設計された、ポータブルなサウンドシステム・アルバムである。
“ぜんそく持ちのライオン”というユニークなメタファーは、病んだ時代にあっても吠えることをやめない抵抗者=音楽家を象徴しており、ムグルサ自身がワールドツアーの中で集めた文化的素材を元に、ラップ、ダブ、クンビア、レゲトン、ジャングルなどを自在にミックス。
音楽そのものが「移動する抵抗」として鳴らされる、旅と連帯と戦いの記録である。
録音はメキシコ、バルセロナ、ジャマイカ、バスク、ベネズエラなど複数の都市を跨いで行われ、地球規模の反資本主義的ネットワークがこの一枚に集結している。
全曲レビュー
1. Alerta Bihotza!
“心臓に警報を!”というタイトルのハードなオープニング。
スラップベースとドラムマシンの破裂音が、都市の騒乱をそのまま音に変える。
2. Hitza Har Dezagun (2008 Recut)
過去作の名曲をよりラテンベース寄りにリビルド。
スパニッシュ・ヒップホップとの融合がなされ、クラブ対応の政治アジテーションとして再生。
3. Haizearen Orrazia
“風の櫛”と名づけられた叙情的なトラック。
ドラムンベース調のリズムと哀愁あるメロディが交差する、都市の孤独を描く詩的な一編。
4. Black is Beltza (Syndicate Version)
映画『Black is Beltza』に繋がる、ビート+映像的音響設計の楽曲。
サンプルの多用とナレーションにより、抗議と歴史の断片が折り重なる。
5. Dub Manifesto Revisited
『FM 99.00 Dub Manifest』のセルフ・リミックス。
ルーツ・ダブをより重くディジタルに寄せ、破壊力と深度を同時に強化している。
6. Sound Systema Attack!
タイトル通りのフロア仕様キラーチューン。
ベネズエラのゲットー・ベースとのコラボで、ノイジーかつ祝祭的。
音の“爆音的自己紹介”とでも呼ぶべき1曲。
7. Mexican Medicine
メキシコ・ツアー中に生まれた、カラフルなメスティソ音楽とスカの融合。
「音楽は薬、だが政府は毒」というテーマをユーモラスに描く。
8. Euskal Herria Soundscape
フィールド録音とエフェクトで構成されたインストゥルメンタル。
故郷バスクの“音の風景”を描いた、感傷と政治の中間地点。
総評
『Asthmatic Lion Sound Systema』は、Fermin Muguruzaが単なる音楽家ではなく、「音を通じて連帯を広げる移動型アクティビスト」であることを明確に示したアルバムである。
この作品は、固定された国境やジャンル、言語といったあらゆる“境界線”を音で突き破っていく。
そのうえで、サウンドシステムという移動可能なメディアを通じて、“現地の声”と“世界の闘い”を瞬時に接続する方法論を実践している。
「病める世界に咆哮するライオン」は、息を切らしながらも止まらない。
その咆哮は、音楽という武器を携え、今日も世界のどこかで鳴り響いているのだ。
おすすめアルバム(5枚)
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El Hijo de la Cumbia / Freestyle de Ritmo
クンビア・ベースの音楽的レジスタンス。ラテンの民衆感覚とビートの融合が共通。 -
M.I.A. / Kala
グローバル・ゲットーから鳴らされたミクスチャー・アジテーション。思想的にも通じる。 -
Zion Train / Live as One
サウンドシステム文化の精神を現代に生かす英国ダブ・コレクティブ。 -
Bomba Estéreo / Estalla
トロピカル・エレクトロと政治性の融合。パーティーと闘争の狭間の美学。 -
Soom T / Free As A Bird
インド系スコットランド人シンガーによるダブ・ポリティクス。サウンドと思想の交差が明確。
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