1. 歌詞の概要
「Armageddon It」は、Def Leppardが1987年にリリースしたアルバム『Hysteria』に収録され、シングルとしても大ヒットを記録した楽曲である。タイトルは「Armageddon(ハルマゲドン/世界最終戦争)」と「I’m a getting it(俺は手に入れるぜ)」を掛けた言葉遊びになっており、シリアスな終末思想を想起させながらも、実際には性的欲望やロックの享楽を軽快に歌い上げている。
歌詞全体は挑発的でユーモラス。相手に「欲しいのか?」「手に入れたいのか?」と問いかけながら、自分たちの音楽やパフォーマンスをセクシュアルな快楽と重ね合わせる。ハードロック特有の性的比喩を満載しつつも、あくまでポップで親しみやすい形に仕上げられているのが特徴である。真面目な終末論ではなく、「世界が終わるなら楽しんでしまえ」という80年代的な快楽主義が表現されている。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Hysteria』はDef Leppardの最高傑作とされるアルバムであり、7曲ものシングルヒットを生んだ大成功作である。その中でも「Armageddon It」は、アルバムの明るくユーモラスな側面を象徴する楽曲だ。
制作当時、バンドはプロデューサーのロバート・ジョン・“マット”・ラングのもと、徹底的に緻密な録音作業を行っていた。数え切れないほどのギタートラックを重ね、ボーカルのハーモニーも入念に構築された結果、この曲は極めてキャッチーでありながら重厚なサウンドを獲得している。
シングルとしては1988年にアメリカでリリースされ、Billboard Hot 100で3位を記録。イギリスでも高い人気を誇り、アルバムの成功を決定づける原動力となった。ライブでも盛り上がり必至のナンバーとして定番化し、観客のシンガロングを誘発する楽曲として長年愛されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
(歌詞引用元:Def Leppard – Armageddon It Lyrics | Genius)
Are you getting it?
君は手に入れてるか?
Yes I’m a getting it
ああ、俺は手に入れてるさ
Ooh, do you want it?
おい、君も欲しいのか?
Yes I want it
そうさ、俺は欲しい
Gimme all of your loving
君の愛をすべてくれ
Every little bit
その一片まで全部
Gimme all that you’ve got
君が持っているものを全部くれ
Everything you’ve got to give
与えられるものすべて
タイトルや歌詞の「Armageddon It」は深刻な「ハルマゲドン」ではなく、「究極に楽しむ」「限界までやりきる」といったニュアンスの比喩である。
4. 歌詞の考察
「Armageddon It」は、Def Leppardが持つ「重厚さと軽妙さのバランス」を最もよく示す曲のひとつである。ハードロックの典型的なセクシュアル・イメージを多用しつつも、それを深刻にせず、ユーモアと遊び心に転化している。
「Are you getting it?」というフレーズのコール&レスポンスは、観客との一体感を前提にした仕掛けであり、ライブでの熱狂を前提に書かれていることがうかがえる。また「Gimme all of your loving」というフレーズはBluesやRock’n’Rollの伝統的なラブソングの言い回しを踏まえつつ、それを80年代のアリーナ・ロックらしい大仰さで表現している。
重要なのは、この曲が『Hysteria』の中で「暗さ」や「実験性」を持つ楽曲群と対照をなしている点である。バンドはこのアルバムで重いテーマや複雑なアレンジも取り入れたが、「Armageddon It」のようなシンプルで明快な快楽ソングを挿入することで、作品全体をバランスよく構成した。結果として、この曲はバンドの「大衆性」を象徴する存在となったのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Pour Some Sugar on Me by Def Leppard
同じ『Hysteria』収録の最大のヒット曲。セクシュアルで享楽的なエネルギーが共通する。 - Animal by Def Leppard
『Hysteria』の代表曲で、本能的な欲望を明快に歌い上げる。 - Rocket by Def Leppard
同アルバム収録の実験的なアンセム。リズム感の強さと祝祭感が共通。 - Panama by Van Halen
80年代ロックの享楽的側面を象徴する曲。スピード感とユーモアが響き合う。 - Livin’ on a Prayer by Bon Jovi
同時代のアリーナ・ロックを代表する楽曲。観客との一体感を重視した構造が似ている。
6. 「Armageddon It」が象徴するもの
「Armageddon It」は、Def Leppardが『Hysteria』で成し遂げた「ハードロックとポップの融合」の好例である。大規模なアリーナで映えるサウンド、シンプルでシンガロング可能な歌詞、そしてユーモラスな言葉遊び。これらはすべて、80年代後半のロックが目指した「大衆的祝祭」の象徴であった。
また、バンド自身の苦難を乗り越えて作り上げた『Hysteria』の中で、この曲は「悲壮感ではなく生命力」を前面に押し出す役割を担っている。ライブで観客と声を合わせて「Are you getting it?」と叫ぶ瞬間、そこには音楽が持つ純粋な快楽の本質が表れている。
結果として「Armageddon It」は、Def Leppardが世界的なモンスター・バンドへと変貌した80年代の頂点を象徴する一曲であり、今なおライブで絶大な人気を誇るアリーナ・ロックの金字塔なのである。
コメント