発売日: 2002年4月9日
ジャンル: ソウル、ブルース・ロック、R&B、アート・ロック
熱を持てるか——Neil Young、ソウルとブルースに託した熟年の葛藤
『Are You Passionate?』は、Neil Youngが2002年にリリースした24作目のスタジオ・アルバムであり、ブッカー・T&ザ・MG’sとの共演を通じて、サザン・ソウルやR&Bのフィーリングを大胆に取り入れた実験的かつ感情的な一作である。
Crazy HorseやPearl Jamとの轟音路線でもなく、『Silver & Gold』のアコースティックな安らぎでもない。
ここにあるのは、ソウル/ブルースの土壌にヤングならではの詩的視点と不安定な熱情を注ぎ込んだ、“熟年の心の闘争”とも言うべき音楽だ。
アルバム全体は“情熱”を問うテーマのもと、愛、怒り、虚無、暴力、再生といった人間の根源的な感情を、うねるようなリズムと柔らかなギターで紡いでいく。
異色作ではあるが、“Neil Youngというジャンル”の可能性を広げた勇敢な試みとも言える。
全曲レビュー
1. You’re My Girl
陽気なホーンとグルーヴで幕を開けるソウル・ナンバー。娘に向けた“父の愛”というテーマに、優しさと照れが入り混じる。
2. Mr. Disappointment
ねじれたギターと呟くようなヴォーカルが印象的なブルース・バラード。“がっかり男”という自嘲的なタイトルに、ヤングらしいユーモアと孤独が滲む。
3. Differently
柔らかなコード感が心地よい、R&B調のラヴソング。関係性を“違う風に”見直すことで再生を図ろうとする、大人の愛の視点。
4. Quit (Don’t Say You Love Me)
繰り返される「Quit」というフレーズが印象的なスロウ・ブルース。愛と諦めのあいだで揺れる複雑な感情がにじむ。
5. Let’s Roll
本作で最も異色かつ社会的なナンバー。9.11テロにおける乗客の反撃をテーマにしたこの曲は、勇気と怒りの狭間を鋭く捉えた“現代の民謡”でもある。
6. Are You Passionate?
タイトル曲は、ミディアム・テンポのソウル・チューン。情熱を問うその問いかけは、相手ではなくむしろ“自分自身”への内なる叫びのようにも聴こえる。
7. Goin’ Home
唯一Crazy Horseとの録音によるラウドな異質トラック。ギターの嵐とともに、“帰るべき場所”を探す永遠の放浪者の姿が浮かび上がる。
8. When I Hold You in My Arms
甘く切ないラヴソング。演奏はスロウながら、情熱的な想いが静かに火を灯している。
9. Be With You
サザン・ソウル的な温かさと教会音楽のような包容感。「君と一緒にいたい」というシンプルなフレーズが、長年のパートナーシップを感じさせる。
10. Two Old Friends
友情と時間の流れを歌う穏やかな一曲。老年になっても変わらぬ絆と、そこに生まれる静かな感謝が沁みる。
11. She’s a Healer
10分を超える長尺ジャム。繰り返されるフレーズと即興的な展開が、まるで“癒しの儀式”のように感じられる本作のラスト。
総評
『Are You Passionate?』は、Neil Youngというアーティストが“自分の情熱はまだ生きているのか”という問いに対し、ソウルという異なる言語を借りて答えようとした挑戦作である。
商業的にも批評的にも賛否が分かれたが、それは本作が“分かりやすいロック”ではなく、“揺れる感情のグルーヴ”に重きを置いた音楽だったからこそ。
ヤングはここでギターを“叫ばせる”のではなく、“語らせ”、時に“黙らせる”。
その選択は、歳月を重ねた表現者にしか許されない静かな革命だった。
おすすめアルバム
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Harvest Moon / Neil Young
愛と時の流れを穏やかに見つめた名作。本作の静けさと情熱に通じる。 -
Freedom / Neil Young
社会性と個人の感情が交錯する、もう一つの“内なる叫び”。 -
Back to Black / Amy Winehouse
現代ソウルとブルースの融合という点で、異なる世代の共振を感じさせる作品。 -
Green / Al Green
本作でヤングが取り入れたサザン・ソウルの本家。温もりとスピリチュアリティの源泉。 -
Time Out of Mind / Bob Dylan
老境における愛と孤独、時間の感覚を深く掘り下げたブルース・アルバム。
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