Andmoreagain by Love(1967)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Andmoreagain」は、1967年にリリースされたLoveの名作アルバム『Forever Changes』に収録された楽曲で、アーサー・リー(Arthur Lee)による繊細かつ詩的なソングライティングが際立つ一曲です。そのタイトルからして一筋縄ではいかない印象を受けますが、これは「and more again(さらにまた)」という言葉を一体化させた造語的な表現であり、反復や曖昧さ、あるいは情緒の揺れを象徴していると解釈できます。

この曲では、愛する人との関係性における微細な感情の揺れ、そしてその裏にある自己認識の曖昧さが描かれます。詩的で象徴的な言葉の選び方により、直接的な愛の告白というよりも、自己と他者の境界、共感や投影といった、もっと複雑で曖昧な感情が浮かび上がってきます。語り手は、相手を見ているようで自分を見つめており、相手を愛しているようで、自分自身と向き合っている――そんな二重構造が感じられるのです。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Andmoreagain」が収録されたアルバム『Forever Changes』は、Loveにとっても、1960年代のアメリカ音楽にとっても特別な存在です。当時、アーサー・リーは20代前半という若さながら、人生や死、時代の不安、自己の内面にある矛盾や混沌といったテーマに真剣に向き合い、それを詩的な言語と美しいアレンジで表現しました。

この楽曲の制作背景には、Loveが商業的プレッシャーから逃れ、アートとしての音楽に没入していった過程が関係しています。「Andmoreagain」は、当初バンドメンバーと一緒に録音される予定でしたが、結局はセッション・ミュージシャンによって演奏されることとなり、ストリングスとアコースティック・ギターの繊細なアレンジが施されています。このアプローチによって、曲全体に夢幻的で浮遊感のある雰囲気が加わり、歌詞の曖昧さや内省性をより深く引き立てる仕上がりとなっています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Andmoreagain」の印象的な歌詞を抜粋し、日本語訳を添えて紹介します。

引用元:Genius Lyrics – Love “Andmoreagain”

And if you see andmoreagain / Then you will know andmoreagain
そしてもし「andmoreagain」が見えたなら
君は「andmoreagain」を知ることになるだろう

For you can see you in her eyes / Then you feel your heart beating
彼女の目の中に自分を見つけたとき
君は自分の心臓が鼓動するのを感じるんだ

And when you’ve given all you had / And everything still turns out bad
君がすべてを捧げたのに
それでもすべてが悪い方向に進んでしまうとき

And all your secrets are your own / Then you feel your heart beating
秘密がすべて君のものになったそのとき
また心臓の鼓動を感じるんだ

この詩は、相手と一体化することで生まれる高揚感と、それが裏切られることへの痛みの両方を描いています。愛するという行為は自己投影であり、期待と不安が常に隣り合わせにある――その緊張感を「心臓の鼓動」で象徴している点が印象的です。

4. 歌詞の考察

「Andmoreagain」は、Loveが得意とする“象徴的で抽象的なラブソング”の典型であり、リスナーの心に柔らかく、しかし鋭く入り込んでくる作品です。タイトルからして一種の言葉遊びであり、何かが「繰り返される」こと、もしくは言葉では表現しきれない“もう一度”の感情を示しているように感じられます。

詩全体は、あえて明確な対象や状況を語らず、あくまでも感情の機微にフォーカスしています。その結果、聴き手はそれぞれの経験や感受性に応じて、この曲に対する個人的な物語を持つことができます。たとえば、ある人にとっては「未練」の歌であり、別の人にとっては「再生」の歌に聴こえるでしょう。

さらに注目すべきは、「彼女の目の中に自分を見る」というラインです。これは典型的な恋愛感情の描写であると同時に、アイデンティティの投影、つまり「愛することで自分自身を再認識する」という人間関係の本質的な側面を浮かび上がらせます。愛の対象は“他者”でありながら、“鏡”でもあるのです。

また、「秘密がすべて君のものになったとき、心臓の鼓動を感じる」という表現は、孤独の認識と、それでもなお生きているという実感を示しており、非常に深い人生観を感じさせます。自己を見つめ、誰にも共有できない感情を抱えながら、それでも自分の“鼓動”があることに気づく瞬間。この一節は、Loveの音楽が単なる愛の表現に留まらず、“生きることの詩”であることを明確に伝えてくれます。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “I’m Only Sleeping” by The Beatles
    現実と夢の境界が曖昧な中で内省を描いた曲。Loveの幻想性とよく重なります。

  • “The Bed Song” by Amanda Palmer
    関係の変化を物語形式で描いた、痛みを伴う繊細なラブソング。内面の吐露という点で「Andmoreagain」と通じるものがあります。

  • “The River” by Joni Mitchell
    恋と孤独、そして自己認識を透明感ある歌声で描いた名曲。感情の揺らぎを静かに描く点が共通。

  • “Song for Zula” by Phosphorescent
    愛に対する幻想と幻滅を詩的に描いた楽曲。抽象性と情熱のバランスが「Andmoreagain」によく似ています。

6. “Forever Changes”の中の静かな感情曲線

「Andmoreagain」は、アルバム『Forever Changes』の中でも、特に“情緒”に重きを置いた静かな小品といえます。ダイナミックな構成の「You Set the Scene」や政治的な批評性を持つ「A House Is Not a Motel」とは対照的に、この曲は私的で繊細な領域にとどまり続けます。

だからこそ、この曲が持つ美しさは、アルバム全体の中でとても貴重です。大きなメッセージではなく、小さな感情の機微こそが人間の本質であると、アーサー・リーは静かに語っているようです。そして、音数を抑えたアレンジは、まるでリスナーの内面を優しく撫でるように響きます。


**「Andmoreagain」**は、愛と自己、他者との関係性、心の鼓動と孤独――そういった曖昧で説明しがたい感情を、詩と音楽の力で結晶化させた楽曲です。聴くたびに意味が変わり、過去の記憶と現在の感情が静かに交差するこの曲は、『Forever Changes』というアルバムが単なる時代の産物ではなく、永遠に変化し続ける心の風景を映す鏡であることを、改めて証明してくれます。

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