アルバムレビュー：And Nothing Hurt by Spiritualized

アルバムレビュー

2024.12.042025.04.24

発売日: 2018年9月7日
ジャンル: スペースロック、ドリームポップ、サイケデリックロック

Spiritualizedの8枚目のスタジオアルバム『And Nothing Hurt』は、Jason Pierce（J. Spaceman）が約6年ぶりに完成させた作品であり、バンドの30年近いキャリアの中でも特にパーソナルで感情的な一枚である。Pierceは、このアルバムを一人で制作し、自宅スタジオで複雑なアレンジやオーケストレーションを丹念に構築した。結果として、親密でありながらも壮大なスケールを持つ音楽が生み出されている。

アルバムタイトルの「And Nothing Hurt（そして何も傷つかない）」は、Kurt Vonnegutの小説『スローターハウス5』から引用されており、Pierceが直面した人生の変化や孤独、そして希望の断片を反映している。音楽的には、スペースロックの伝統を受け継ぎつつも、アコースティックギターやストリングスを多用したシンプルなアレンジが印象的で、Pierceのキャリアの集大成的な作品となっている。

トラック解説

1. A Perfect Miracle
アルバムの幕開けを飾る美しいバラード。アコースティックギターとストリングスが優雅に絡み合い、Pierceの繊細なボーカルが愛と儚さを静かに語る。「愛が奇跡のように続くなら」という歌詞が心に残る。

2. I’m Your Man
ブルースの影響を感じさせる楽曲で、Pierceの自己犠牲的な愛をテーマにした歌詞が印象的。ホーンセクションとシンプルなリズムが、控えめながらも力強い印象を与える。

3. Here It Comes (The Road) Let’s Go
ロードムービーを思わせるような楽曲で、自由と旅のロマンを描いた内容。カントリーロックの要素が加わり、広がりのあるメロディーが心地よい。

4. Let’s Dance
軽快でポップなメロディーが印象的な楽曲。シンプルな構成ながらもリズムに躍動感があり、Pierceの遊び心が垣間見える。

5. On the Sunshine
サイケデリックなギターリフとエネルギッシュなリズムが融合した楽曲。スペースロックの要素が強く、アルバム全体の中で特にダイナミックな一曲。

6. Damaged
儚く美しいバラードで、孤独や喪失をテーマにした歌詞が胸を打つ。アコースティックギターと控えめなストリングスが、Pierceの歌声を引き立てている。

7. The Morning After
アルバム中で最もエネルギッシュなナンバー。グルーヴ感のあるビートとホーンセクションが曲を躍動的に進め、ライブでも盛り上がること間違いなしの楽曲。

8. The Prize
緩やかなテンポと深い感情が特徴の楽曲。ストリングスとピアノが織り成す叙情的なサウンドが印象的で、Pierceのボーカルが楽曲全体を包み込む。

9. Sail on Through
アルバムのフィナーレを飾る壮大なバラード。再生や希望をテーマにした歌詞が感動的で、ストリングスとコーラスが曲を盛り上げる。Pierceのキャリアの集大成ともいえる一曲で、心に残る余韻を残す。

アルバム総評

『And Nothing Hurt』は、Spiritualizedの音楽的進化とJason Pierceのソングライターとしての成熟を示すアルバムである。スペースロックの要素を取り入れつつ、より親密で内省的なトーンが際立つ本作は、Pierceの人生経験と哲学が色濃く反映されている。特に「A Perfect Miracle」や「Sail on Through」といった楽曲は、彼の音楽キャリアの集大成といえる感動的な瞬間を提供している。耳に優しく、心に深く響くこのアルバムは、Spiritualizedのファンのみならず、多くのリスナーにとって特別な体験をもたらす一枚だ。