アルバムレビュー：…And Justice for All by Metallica

アルバムレビュー

2024.12.08

発売日: 1988年9月7日
ジャンル: スラッシュメタル、プログレッシブメタル

Metallicaの4作目となる『…And Justice for All』は、彼らの音楽的成熟を象徴する複雑で深遠な作品である。このアルバムは、1986年の『Master of Puppets』に続く傑作であり、同時にクリフ・バートン（ベース）の死という悲劇を乗り越えたバンドの決意が込められている。新たにジェイソン・ニューステッドがベーシストとして加入したものの、制作において彼のベースラインはほぼ聞こえないほどミックスが控えめであり、これはアルバムの特徴的なサウンドの一部ともなっている。

『…And Justice for All』は、非常に複雑でテクニカルな楽曲構成が特徴で、スラッシュメタルとプログレッシブロックを融合させたようなアプローチが取られている。社会的、政治的なテーマが中心となる歌詞には、正義の不在や環境破壊、戦争、個人の自由などが描かれており、Metallicaの音楽が単なる音楽的刺激以上のものを提供することを証明している。

このアルバムは、ヘヴィメタルの可能性を広げ、後続のアーティストに多大な影響を与えた作品である。

1. Blackened

アルバムのオープニングを飾る楽曲で、環境破壊と終末論をテーマにしている。冒頭のリバースギターから始まり、ヘヴィでスピーディなリフが展開される。テクニカルな構成と複雑なリズムチェンジが印象的で、Metallicaの進化を感じさせる一曲。

2. …And Justice for All

アルバムのタイトル曲で、約10分にも及ぶ大作。正義の腐敗や不平等をテーマにした歌詞が、長大で緻密な楽曲構成とともに表現されている。特に中盤のリフの繰り返しは、重厚さとドラマチックな展開を際立たせている。

3. Eye of the Beholder

自由と検閲をテーマにした楽曲で、メッセージ性が強い。ダークでリズミカルなリフと複雑なドラムパターンが特徴的で、歌詞がリスナーに強い問いかけを投げかける。

4. One

アルバムの中でも最も有名な楽曲で、バンド初のミュージックビデオが制作された曲でもある。戦争による悲劇をテーマにしており、静かなアルペジオから始まり、次第に激しさを増していく構成が圧巻だ。ラストの怒涛のスラッシュパートは、Metallicaのライブでも最大の盛り上がりを見せる。

5. The Shortest Straw

社会の不公正や偏見をテーマにした力強い楽曲。タイトル通り「最も短い藁（くじ引きの負け）」が象徴する不条理が描かれている。ヘヴィなリフとスピード感あふれる演奏が特徴的だ。

6. Harvester of Sorrow

破壊と抑圧をテーマにしたダークでヘヴィな楽曲。ミドルテンポのリフが重厚感を生み出し、歌詞には抑圧された感情が反映されている。陰鬱な雰囲気がアルバム全体のトーンを引き締めている。

7. The Frayed Ends of Sanity

心理的な葛藤を描いた楽曲で、複雑なリズムとギターリフが際立つ。歌詞には狂気と理性の境界が描かれ、Metallicaの音楽的冒険心を感じさせる一曲。

8. To Live Is to Die

クリフ・バートンへのトリビュートとして制作されたインストゥルメンタル。感情的なギターソロとクラシカルなアプローチが特徴的で、バンドの敬意が伝わる荘厳な楽曲。

9. Dyers Eve

アルバムを締めくくるスピード感あふれる楽曲で、親への怒りや反抗をテーマにしている。全編にわたって激しいリフと怒涛のドラムが展開され、アルバム全体のクライマックスとして圧倒的なエネルギーを放つ。

アルバム総評

『…And Justice for All』は、Metallicaが音楽的な挑戦を極限まで追求した作品であり、その複雑さとテクニカルなアプローチがリスナーを圧倒する。このアルバムは、正義や自由、社会的不平等といった普遍的なテーマを音楽を通じて描き、メタルというジャンルの芸術性を押し広げた。ベースの音が小さいという批判もあるが、それを補って余りある音楽的深みと感情的な力強さが備わった名盤である。