1. 歌詞の概要
「Allison Road(アリソン・ロード)」は、Gin Blossoms(ジン・ブロッサムズ)が1992年にリリースしたメジャーデビューアルバム『New Miserable Experience』に収録された楽曲であり、アルバム中盤のハイライトとして多くのファンから愛されている。
軽やかなギタージャングルと透明感のあるメロディが印象的なこの曲は、旅や風景をモチーフにしながらも、実際には“人生の途中で見つけた心の居場所”について歌われた詩的な作品である。
「Allison Road」というフレーズは、アメリカのどこにでもありそうな地名であると同時に、“記憶と感情が交錯する個人的な場所”の象徴でもある。
歌詞では特定の物語は語られないが、断片的なイメージやフレーズのひとつひとつが、何か大切なものを思い出そうとするようなノスタルジックな雰囲気を醸し出している。
その“誰にでもあるけれど、誰にも説明できない風景”が、この曲の魅力をかたちづくっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Allison Road」は、Gin BlossomsのギタリストであるJesse ValenzuelaとRobin Wilsonによって書かれた楽曲で、タイトルは実在のアリゾナ州テンピにある通り「Allison Road」に由来している。
バンドの出身地でもあるテンピの風景を織り交ぜながら、抽象的な心象風景として再構成されたこの曲は、“実在の地名”を通して“心の地図”を描き出していると言えるだろう。
Robin Wilsonはインタビューで、この曲が“ある種の時間の中に取り残された感情”をテーマにしていることを語っており、明るいメロディとは裏腹に、失われた恋や過ぎ去った季節に対する郷愁がにじんでいる。
これは「Found Out About You」や「Hey Jealousy」と同様、Gin Blossomsの楽曲に通底する“光と影の同居”という感情構造と深く結びついている。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Allison Road」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“I got an angel on my shoulder / And a devil too”
「肩の上には天使が / でも悪魔も一緒に乗ってる」
“I was thinking ‘bout what I’d said / And how it all meant nothing”
「自分が言ったことを考えてた / 結局何も意味がなかったことを」
“On Allison Road”
「アリソン・ロードの道の上で」
“I lost my mind on Allison Road”
「僕は心をなくしてしまった / アリソン・ロードで」
“Time was gone for all he’d known / I took a ride with no direction home”
「彼の知っていたすべての時間は消えてしまっていた
僕は帰り道もわからずに車を走らせていた」
歌詞全文はこちらで確認可能:
Gin Blossoms – Allison Road Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Allison Road」は、文字通り“道”の歌でありながら、それは物理的な道ではなく、“精神の漂流”や“思い出の中にある風景”を指している。
「肩に天使と悪魔がいる」というラインからもわかるように、語り手は葛藤と混乱の中にあり、「自分の言葉が空虚だった」ことをどこかで悟っている。
その自己認識の瞬間が、“道の上”でふと訪れるという構造は、ロードムービーやビート詩のような感覚さえ漂わせる。
特に印象的なのは、「I lost my mind on Allison Road(アリソン・ロードで心を失った)」というリフレインである。
これは“ある出来事”を意味しているというよりは、“感情の決壊”を表す象徴的な表現であり、恋愛、時間、人生、あるいは記憶といった様々な解釈を受け止める余白を持っている。
そして「I took a ride with no direction home(帰るあてもなく車を走らせた)」というラインに至っては、もはやそれ自体が“心の旅”の核心であり、“帰れない場所”への憧憬や、“道の上にしか自分を感じられない状態”を表しているように感じられる。
このように「Allison Road」は、ストーリー性よりも“詩的な心象”で構成されており、それがかえってリスナーひとりひとりの記憶や想いを投影しやすくしている。
それは、どこにでもありそうな風景の中に、かけがえのない自分だけの“場所”を見出すような感覚なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Name by Goo Goo Dolls
個人のアイデンティティと記憶の場所を繊細に描いた90年代のバラード。 - Round Here by Counting Crows
都市と内面の空虚さを詩的に描いた、精神の“漂泊”のような楽曲。 - Let Her Cry by Hootie & the Blowfish
失ったものへの悔いや、黙って見守る愛の形を描いたアメリカーナ風バラード。 - Walk on the Ocean by Toad the Wet Sprocket
抽象的な風景の中に“心の居場所”を描く、感覚のバラード。 -
Half a World Away by R.E.M.
精神的に距離のある人間関係と、旅の孤独を繊細に描いたメロディ。
6. “道の名前が思い出を呼び起こすとき”
「Allison Road」は、“場所の名前”によって記憶や感情を呼び起こす、非常に文学的な構造を持った楽曲である。
この曲が多くのリスナーの心に残るのは、そこに描かれる風景が特別であるというより、「誰にでもそんな“道”がある」と感じさせる普遍性があるからだろう。
それは“かつて誰かと通った道”、“ひとりで歩いた夜の道”、“決断の前に立ち尽くした交差点”など、具体的でありながら曖昧な風景として私たちの記憶に重なる。
「Allison Road」は、その“記憶の風景”をそっと呼び戻すための、小さなポップソングであり、人生の途中で立ち止まる人々へのやさしい共感の歌なのである。
コメント