発売日: 1972年7月
ジャンル: グラムロック、ハードロック、アートロック
概要
『All the Young Dudes』は、Mott the Hoopleが1972年に発表した通算5作目のスタジオ・アルバムであり、バンドのキャリアにおける決定的な転機を示す名盤である。
本作は、商業的失速と解散寸前にあった彼らを、デヴィッド・ボウイが救済し、プロデュースとタイトル曲の提供によってグラム・ロックのアイコンへと押し上げた作品でもある。
それまでのMott the Hoopleは、ディラン直系の語り口とハードロック的演奏を組み合わせた個性的なロックバンドであったが、本作によって彼らのサウンドは洗練され、より演劇的で、ジェンダーや若者文化を意識した現代的なものへと変貌を遂げた。
タイトル曲「All the Young Dudes」はグラム・ロックのアンセムとして語り継がれるだけでなく、“時代に取り残された者たち”への賛歌として、音楽史に残るメッセージソングとなった。
全曲レビュー
1. Sweet Jane
ルー・リード(The Velvet Underground)の名曲を、よりロックンロール色の強いアレンジでカバー。
オープニングにふさわしい高揚感と、イアン・ハンターのしゃがれたヴォーカルが光る。
“スウィート・ジェーン”は都市の幻想と現実の狭間に生きる女性像として、Mottの世界観とも深く共鳴する。
2. Momma’s Little Jewel
ファンク風のグルーヴとピアノがリードするアートロック的楽曲。
母の“宝物”である少年がどのように変容していくかを描きつつ、ユーモラスかつアイロニカルな視点を提示。
イアン・ハンターの作詞力が冴える。
3. All the Young Dudes
本作の中心にして、Mott the Hoople最大の代表曲。
デヴィッド・ボウイの提供によるこの楽曲は、“クィアな若者たち”や“落伍者たち”への連帯の呼びかけとして、1970年代の反主流文化を象徴するアンセムとなった。
“オール・ザ・ヤング・デュード、時代を運べ!”というサビの高揚感は、今もって鮮烈である。
4. Sucker
ストレートなロックンロール・ナンバー。
ギターのリフが鋭く、男らしさやロックスター幻想を痛烈に戯画化したリリックが痛快。
バンドのラフな魅力が全開。
5. Jerkin’ Crocus
キャッチーでテンポの良いナンバー。
“ジャーキン・クローカス”という謎めいたフレーズが印象的で、性的メタファーとポップな明るさが絶妙に交差する。
軽快ながらひねりの効いた佳曲。
6. One of the Boys
タイトル通り、“俺たちの仲間”としての自意識を描いた青春賛歌。
だが同時にその“仲間意識”の空虚さも滲ませており、ハンターらしい二重性が冴える。
グラムとパンクの間にあるようなラフなエネルギーが魅力。
7. Soft Ground
ミック・ラルフスがヴォーカルをとる短めのナンバー。
サイケデリックでやや不穏な雰囲気を持ち、アルバム全体に陰影を与える。
8. Ready for Love / After Lights
前半はラルフスによるハードロック・バラード、後にBad Companyで再録されることになる名曲。
後半の“After Lights”はインストゥルメンタル的なブリッジとして、哀愁と静寂を添える。
9. Sea Diver
ピアノとストリングスによるバラードで、アルバムの余韻を深めるエンディング。
“海を潜る者”という孤高のメタファーが、ハンターの詩人としての資質を如実に物語る。
グラム・ロックという枠を超えた、深い感情の震えを持った楽曲。
総評
『All the Young Dudes』は、Mott the Hoopleが自己再定義に成功し、グラム・ロック時代の旗手として再誕した奇跡のようなアルバムである。
デヴィッド・ボウイのプロデュースによる音の洗練、バンドの叙情と攻撃性の絶妙なバランス、そして若者の疎外と希望を描いたテーマ性——
それらすべてがこの作品を“時代の声”たらしめた。
ここには、敗北感と連帯感、虚無と希望が同居しており、まさに“青春”の全貌が詰め込まれている。
そして“時代を運ぶ”若者たち=All the Young Dudesは、今もなお、音楽を通して世界を変えようとしている。
それこそがこのアルバムの真価であり、半世紀以上経った今でも、決して風化しない理由なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
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David Bowie – The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars (1972)
『All the Young Dudes』と並ぶグラム・ロックの金字塔。世界観も音像も密接に連関。 -
T. Rex – The Slider (1972)
グラム・ロックの美学とセクシャリティの象徴。Mottの華やかさと共鳴。 -
Lou Reed – Transformer (1972)
ボウイが手掛けたもうひとつの名盤。都市の詩とジェンダーの物語が交差する。 -
Roxy Music – Roxy Music (1972)
アートロック的グラムの源流。音の実験精神と耽美性において親和性が高い。 -
Ian Hunter – Ian Hunter (1975)
ハンターのソロ1作目。『All the Young Dudes』の続きとして聴くにふさわしい叙情とロックンロールの融合。
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