Alec Eiffel by Pixies(1991)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Alec Eiffel(アレック・エッフェル)」は、Pixiesが1991年に発表した4作目のスタジオ・アルバム『Trompe le Monde』に収録された楽曲であり、そのポップでキャッチーな響きとは裏腹に、知的で風刺的な歌詞を持ったユニークな楽曲である。

タイトルの“Alec Eiffel”とは、エッフェル塔を設計したフランスの建築技師ギュスターヴ・エッフェル(Gustave Eiffel)のことを指している。Pixies流のねじれたユーモアで彼の名をもじって“アレック・エッフェル”と呼び、19世紀の科学者や思想家たちの孤独や誤解をテーマにしている。

表面上は風変わりな人物をからかっているようにも見えるが、その裏には、時代に理解されなかった天才、孤立した発明家、そして現代における創造性の疎外といった深いテーマが込められている。

2. 歌詞のバックグラウンド

この曲が収録された『Trompe le Monde』は、Pixiesとしては最後のオリジナル・アルバムとなった作品であり、サウンド的にはより攻撃的かつ硬質な仕上がりになっている。それまでのアルバムに比べ、ギターはよりヘヴィに、そしてBlack Francisのボーカルはより直線的でパンキッシュな印象を与える。

「Alec Eiffel」はその中でも比較的ポップなナンバーで、シンセサイザーの導入や跳ねるようなリズムが特徴的だ。しかしその明るいサウンドとは対照的に、歌詞にはアイロニーや風刺が潜んでおり、Pixiesらしい“毒入りのキャンディ”のような魅力を放っている。

Black Francisはこの曲について、当初「科学者がいかに変人扱いされたかを歌いたかった」と語っている。エッフェル塔そのものが当初は醜悪な構造物として批判され、建築界からも嘲笑された事実を踏まえると、この曲は単なる風変わりな人物への言及ではなく、社会の中で誤解される“創造”の本質へのメタファーと読むことができる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Pixies “Alec Eiffel”

Pioneer of aerodynamics
空気力学の先駆者

They thought he was real smart Alec
彼は「嫌なやつ」扱いされたけど、本当はずば抜けて賢かった

The man who invented the Eiffel Tower
エッフェル塔を設計した男

Also a smart Alec
こいつもまた“おせっかい”な変人扱いされた

Alec Eiffel
アレック・エッフェル

He thought big / They called it a phallic
彼は壮大な構想を抱いたが、人々はそれを“男根”と揶揄した

They didn’t know he was panoramic
彼が“全体を見渡す視点”を持っていたことを、誰も知らなかった

4. 歌詞の考察

この楽曲の歌詞は、当時の社会における“理解されない天才”という存在に対する皮肉と哀愁に満ちている。

「smart Alec」という表現は、英語で「知ったかぶりな嫌な奴」という意味を持つが、ここではそれが皮肉的に使われており、“本当に頭が良い人間はむしろ煙たがられる”という社会のパラドックスが描かれている。ギュスターヴ・エッフェルがその建築物を通して壮大なヴィジョンを示したにもかかわらず、人々が彼を揶揄し、理解しようとしなかったという歴史は、創造者が常に孤独であるというPixiesの視点と通じている。

また、「phallic(ファリック/男根的な)」という語を使って、エッフェル塔の形状をめぐる風刺を挿入しつつ、実は「panoramic(全景的な)」視野を持っていたという対比がとても象徴的である。この一節には、視野の狭い人々がいかに天才を矮小化し、嘲笑するかという問題提起が込められている。

「Alec Eiffel」は、ただの建築家の話ではない。それは現代社会における創造性への誤解と軽視、そしてその中で孤立していく芸術家や思想家の姿を、軽快なリズムの裏にひっそりと忍ばせた、極めてPixiesらしい作品なのである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Uncontrollable Urge by Devo
    科学的アイロニーとニューウェイヴの融合。知的で突き抜けたテンションが「Alec Eiffel」と共鳴する。

  • Science Fiction/Double Feature by The Rocky Horror Picture Show
    サイエンスとポップ文化を繋げる歌詞のセンスは、Pixiesの風刺的な楽曲と親和性が高い。

  • Birdhouse in Your Soul by They Might Be Giants
    風変わりで知的、かつキャッチーなポップソング。エッフェルのような“変人天才”の気配を感じる。

  • Here Comes Your Man by Pixies
    同じくPixiesのポップ・サイドを代表する曲だが、背後には深いアイロニーがある。両者を聴き比べると、Pixiesの幅広さがより鮮明になる。

6. 創造と誤解、その境界を行き来する音楽

「Alec Eiffel」は、Pixiesが単にノイズや不条理を駆使するバンドではなく、歴史や思想、社会のメタ構造を捉える視点を持っていたことを示す好例である。

この曲は、風刺とユーモアに包まれながらも、鋭い文明批評の刃を内に秘めている。彼らのユニークさは、そうした視点をただ難解な形で提示するのではなく、リスナーが踊れるようなポップソングとして提示するバランス感覚にある。

Pixiesはこの曲で、誰もが笑い飛ばす“変人”の姿を通して、むしろ現代社会の方がいかに狭量であるかを逆照射する。そうして彼らはまたひとつ、ロックという表現形式の可能性を拡張してみせたのだ。

「Alec Eiffel」は、変わり者のための讃歌であり、未来を夢見る者たちへの静かなエールである。

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