発売日: 2019年10月25日（US）
ジャンル: アフロビーツ、ダンスホール、ハイライフ、アフロポップ
概要
『Akonda』は、Akonが2019年にリリースしたスタジオ・アルバムであり、アフリカ音楽への原点回帰と文化的ルーツの祝福を全面に押し出したアフロビーツ・アルバムである。
本作は、同年に発表されたスペイン語主体の『El Negreeto』に続く“グローバル四部作”の一環として位置付けられており、Akonの自伝的・文化的プロジェクトの中でも、最も“自分の出自”にフォーカスした作品である。
タイトルの『Akonda』は、Akon（アリーウネ・バダラ・アコン・ティアム）の本名と、「Afro-」を掛け合わせた造語と解釈でき、“アフリカのAkon”を象徴する人格＝音楽的分身として描かれている。
セネガル生まれのAkonがアメリカで成功したのち、アフリカのリズム、言語、メロディを自らの声で再統合した自己表現として、今作は非常に重要な位置を占めている。
全曲レビュー
Welcome to Africa
アルバムのイントロダクション的役割を果たす短いトラック。
アフリカ音楽のリズムや民族的なコーラスを取り入れ、今作のテーマである“帰郷”を鮮やかに提示する。
Scammers
ハイライフ調のビートとユーモラスなフックで、現代的な“スキャマー文化”に皮肉を込めたトラック。
タイトルは物議を醸すが、裏社会と若者文化の交錯を描いた鋭い視点が興味深い。
Take Your Place（feat. Kizz Daniel）
ナイジェリアの人気シンガーKizz Danielとのコラボで、恋愛をテーマにしたミディアム・テンポのラブソング。
甘くスムースな旋律が、Akonのボーカルと見事に融合する。
Low Key
本作中最も人気のあるナンバーのひとつ。
シンプルで中毒性のあるビートと、軽やかなヴォーカルが印象的なアフロビーツ・クラブトラック。
“控えめだけど本物の愛”というテーマも親しみやすい。
Bottom
恋愛の“駆け引き”を描いたダンスホール調のナンバー。
Akonの声の艶とグルーヴが活かされた一曲で、ダンス・シーンとの相性が良い。
Boogie Down
エネルギッシュなビートと繰り返しの効いたコーラスが耳を引くパーティーチューン。
アフロポップの定石を押さえながら、Akonのソウル感が加わっている。
Control（feat. Skales）
ナイジェリア出身のSkalesとの共演。
“愛の主導権”をテーマに、都会的で洗練されたビートの上で二人が軽快に掛け合う。
Kryptonite
“愛の中毒性”をスーパーヒーローの弱点にたとえたユーモアあるラブソング。
メロディアスでポップな構成が、アルバムの中で明るいアクセントとなる。
Pretty Girls（feat. Afro B）
Afrowaveの旗手Afro Bとの共演による洒脱なナンバー。
クラブとラジオの両方を意識した設計で、Akonの親しみやすさとグローバル感覚が光る。
Wakonda
タイトルとサウンドは、映画『ブラックパンサー』の“ワカンダ”文化からのインスパイア。
アフリカ文化の誇りと魅力をユーモラスに歌い上げるフィナーレにふさわしい一曲。
総評
『Akonda』は、Akonにとって**“アメリカン・ドリーム”の終着点ではなく、アフリカン・ルーツへの再接続”を示す文化的ステートメントであり、音楽的“帰郷”の記録でもある。**
アフロビーツというジャンルの勢いに乗っただけの作品ではなく、セネガル系移民として育ったAkonが、自らの原点に立ち返り、音楽と言語を通じて“二つの世界の橋渡し”をしようとする試みが強く感じられる。
従来のレゲトンやヒップホップを軸としたAkonの作品とは異なり、今作では生音や伝統的リズムの引用、アフリカ現地アーティストとの連携などを積極的に取り入れ、ラテンともアメリカとも違う“アフリカ的自己表現”を確立している。
ボーカルスタイルもより素朴でナチュラルになっており、「Low Key」「Take Your Place」のようなトラックでは、“スター”というより“ストリートの歌い手”としてのAkonの魅力が際立っている。
『Akonda』は、単なる音楽アルバムというよりも、ディアスポラの誇りを音楽で語るプロジェクトと捉えるべき作品である。
おすすめアルバム（5枚）
- Wizkid / Made in Lagos
洗練されたアフロビーツ・ポップの金字塔。Akonの路線と高い親和性を持つ。 - Burna Boy / African Giant
アフリカと世界をつなぐ現代的メッセージ・アルバム。『Akonda』の精神的後継。 - Mr Eazi / Life Is Eazi, Vol. 2
軽快でカジュアルなアフロビーツ。Akonの「Low Key」に通じる軽やかさが魅力。 - Tiwa Savage / Celia
ナイジェリア発の女性視点のアフロポップ作品。『Akonda』の文化的文脈を補完。 - Afro B / Afrowave 3
『Pretty Girls』の共演者による作品。AfrowaveのサウンドとAkonの方向性が交差。
歌詞の深読みと文化的背景
『Akonda』のリリックは、“愛、誇り、遊び心、そして文化の祝福”という4つの軸で成り立っている。
「Wakonda」や「Mama Africa」的な精神が裏に通底しつつ、英語と現地語（ナイジェリア系ピジンやヨルバ）を交えた表現により、“アフリカは遠くにあるのではなく、自分の中にある”という再定義が行われている。
また、Akonがこのアルバムであえて“説教”や“問題提起”に走らず、あくまで喜び、踊り、恋することを通してルーツを表現したという点も重要である。
これは“痛みではなく誇りで文化を語る”という新しいアフリカ系ポップの姿を示しており、『Akonda』はその代表的マイルストーンと言えるだろう。
Akonはこの作品を通して、「ルーツは過去ではなく、今を照らす光なのだ」と私たちに静かに教えてくれている。
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