
1. 歌詞の概要
「A Lifetime」は、Better Than Ezraが2001年にリリースした4枚目のスタジオ・アルバム『Closer』に収録された楽曲であり、後に2005年のセルフリリース盤『Before the Robots』において再録・再リリースされたバージョンによって、バンドにとってのセカンド・ブレイクともいえる成功を収めた作品である。
タイトルの「A Lifetime(ひとつの人生)」が示すように、この楽曲では“死”と“記憶”と“永遠性”をテーマに、1人の人物の死をきっかけに動き出す追悼の物語が描かれる。歌詞は、友人の遺灰を抱えて夜のドライブに出る——という象徴的な場面から始まり、ノスタルジックでありながらも決して感傷に溺れない、成熟した視線で構成されている。バンドのキャリアにおいても、深い内省とストーリーテリングの美学が見事に結晶した傑作とされる。
2. 歌詞のバックグラウンド
「A Lifetime」の背景には、バンドのフロントマンであるケヴィン・グリフィン(Kevin Griffin)の実際の体験と創作が混じり合っているとされており、曲中に描かれる追悼の儀式は、彼自身が親しい人物の死をどう受け止めるかを模索する過程で生まれた物語である。
具体的には、ある女性が他界し、残された友人たちが彼女の遺灰を持って、R.E.M.の「It’s the End of the World as We Know It」を車内で流しながら思い出の地に向かう——という、実際の友人グループの行動に着想を得たという。このような日常と儀式の交錯こそが、この楽曲のリアリティと詩情の源泉である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、楽曲の象徴的な部分を抜粋し、英語と和訳を併記する(出典:Genius Lyrics):
She called to say she wanted to see me die again
「彼女は電話をかけてきた
もう一度僕が死ぬのを見たいと」
So we took a drive to the countryside
And I took her ashes and we scattered them behind the sign
「それで僕らは田舎道を走った
彼女の遺灰を持って、あの標識の裏に撒いたんだ」
And we all fall down
It was the best thing we ever did
「そして僕らは皆、崩れ落ちた
あれは、僕たちがした中で最も美しいことだった」
ここで描かれるのは、喪失と回復の境界で生まれる「行為の儀式性」である。遺灰を撒くという行為は、単なる終わりではなく、“生者が死者と再び対話するための通路”として描かれている。そしてその行為によって、悲しみが“何かを取り戻す記憶”へと変わっていく過程が、実に静かに、しかし確かに伝わってくる。
4. 歌詞の考察
「A Lifetime」は、死というテーマを扱いながらも、極端に私的な感傷や宗教的な救済とは距離を置いている。代わりにこの曲が描くのは、“死をどう記憶として抱えていくか”という、より日常的で普遍的な問いである。語り手たちは、死者を忘れたくない。でも、ただ嘆くだけでは届かない。だから、彼らは行動する。車を走らせ、思い出の曲をかけ、遺灰を撒く。それが“生きている自分たちにできること”なのだ。
特筆すべきは、歌詞が描く「死者との再会」が、時間の断絶を超えた瞬間として描かれている点だ。ある種の幻想か、あるいは現実に起こった象徴的な出来事なのか。解釈は聴き手に委ねられているが、重要なのは「その瞬間に、誰かとつながったという感覚」であり、それがこの曲を“追悼”以上の“再生の歌”として成立させている。
さらに、“It’s the End of the World as We Know It”という引用が、物語にアイロニカルな輪郭を与えている。世界の終わりを陽気に歌ったR.E.M.の楽曲が、ここでは死者を偲ぶ儀式のBGMとして選ばれる。その皮肉と温もりが、まさにBetter Than Ezraらしい。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Into the Mystic by Van Morrison
死と旅、魂の移動を穏やかな表現で描くフォークロックの名曲。 - I Will Follow You into the Dark by Death Cab for Cutie
愛する人と“死の向こう側”に行くという比喩が、静かに胸に迫る。 - A Long December by Counting Crows
喪失を経た後の「再生の予感」を、冬というモチーフに託した楽曲。 - Lua by Bright Eyes
感情の深層にそっと降りていくような語り口が共鳴する。 - Elephant by Jason Isbell
死を目前にした人間関係の静かな記録と、それをどう記憶するかの苦悩を描いた傑作。
6. “追悼と再生の歌”としての「A Lifetime」
「A Lifetime」は、死を描きながらも、その中心には“生者”の物語がある。誰かがいなくなったあと、私たちはどうやってその不在と共に生きていくのか。どうすれば“死んだ人と一緒に笑える”ようになるのか。Better Than Ezraは、その問いに対して“答え”を提示しない。ただ一つの光景を提示する。それは、遺灰を手に夜の田舎道を走り、思い出の曲を流しながら、静かに泣き、そして笑う人たちの姿だ。
これは、人生の終わりではなく、「人生をもう一度生き直す」ための儀式の歌である。記憶と行動を重ね合わせることによって、人は死者と再びつながる。そして、その繋がりを確かに感じた瞬間、人はきっと“再び生きる”ことができるのだ。
「A Lifetime」は、死を美化することも、ドラマに仕立てることもせず、それでも確かに“美しい死後”を描くことに成功している楽曲である。それは人生の深みに触れた者にしか歌えない、静かな祈りであり、優しい約束なのだ。あなたが誰かを失ったとき、この曲はきっと、そっと寄り添ってくれるだろう。
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