発売日: 1996年10月28日
ジャンル: ポップ、アダルト・コンテンポラリー、ティーン・ポップ、ソフト・ロック
概要
『A Different Beat』は、アイルランドのボーイズグループ、ボーイゾーンが1996年に発表したセカンド・アルバムであり、彼らが単なる“アイドル・ポップ”から脱却し、より音楽的な成熟を目指した転機の作品である。
前作『Said and Done』でティーン世代の心を掴み、アイドルとしての地位を確立したボーイゾーンは、
本作でオリジナル楽曲の比率を増やし、演奏やアレンジの幅を広げることで、“ポップグループとしての進化”を明確に打ち出した。
タイトルの「A Different Beat」はまさにその姿勢を象徴するもので、
バラード一辺倒ではなく、アップテンポ、ソウル調、ロック寄りのアプローチも試みられている点が特徴である。
最大のヒット曲「Words(ビー・ジーズのカバー)」は全英1位を獲得し、以降のアルバムセールスも好調に推移。
ヨーロッパ全体での人気を盤石にしたと同時に、“90年代ボーイバンド戦国時代”における音楽的信頼性を高めた一作である。
全曲レビュー
1. Paradise
軽快なリズムとハーモニーが心地よいオープニング・ナンバー。楽園=恋人との時間というポップな世界観を、爽やかに歌い上げる。
2. A Different Beat
タイトル曲。民族パーカッションやスピリチュアルなコーラスが交錯する異色のダンス・ポップ。
“違った鼓動で生きる”ことを肯定する、グループ史上最も挑戦的な楽曲の一つ。
3. Melting Pot
ブルー・マンクスによる70年代の人種共存をテーマにした社会派ソングのカバー。
明るいポップサウンドに乗せて、当時のアイドルとしては意外性のあるメッセージ性を放つ。
4. Ben
マイケル・ジャクソンで知られる名バラードのカバー。少年期の孤独や優しさを丁寧に再現し、グループの繊細な一面を強調する。
5. Don’t Stop Looking for Love
80s風のソフトロックバラード。愛に迷いながらも前を向く姿勢を、シンプルなアレンジとハーモニーで表現する佳曲。
6. Isn’t It a Wonder
アルバムを代表するオリジナル曲。
恋愛の不確かさや感情の揺れを“ワンダー”として包み込み、ローナン・キーティングの柔らかい歌唱が光る。
7. Words
ビー・ジーズの名曲を原曲に忠実にカバー。
スローなテンポと厚みのあるボーカルが若干の哀愁を醸し出し、グループ最大級のヒットとなった。
8. It’s Time
前向きなメッセージが詰まったアリーナポップ調のナンバー。“今こそ動き出す時”という歌詞が、グループの姿勢を代弁しているようでもある。
9. Games of Love
軽快なグルーヴの中に、駆け引きやすれ違いといった恋の“遊び”を描いたナンバー。ファンとの距離を縮めるような親しみやすさがある。
10. Strong Enough
ストリングスを基調にした、自己肯定感を高めるバラード。
感情を抑えながらも芯の強さを表現する、後のローナンのソロ活動にも通じる要素が垣間見える。
11. Heaven Knows
グループ初期からの代表曲の再収録。宗教的なタイトルに反して、恋人に対する“奇跡のような想い”を描いたポップバラード。
12. Crying in the Night
アルバムの終盤に置かれた切ないラブソング。別れた後の孤独と再生の物語を、静かに描写するエンディングにふさわしい一曲。
総評
『A Different Beat』は、ボーイゾーンが“ティーン向けアイドルグループ”から“真っ当なポップグループ”へと歩み出す過程を記録した、重要なターニングポイントである。
前作で築いた“安心感のある甘いバラード路線”を踏襲しながらも、民族音楽風のアレンジ(「A Different Beat」)や社会的テーマ(「Melting Pot」)、
ソフトロックやダンス・ポップへのアプローチを交えることで、音楽的レンジを拡張した。
また、オリジナル曲の割合が増えたことで、“ボーイゾーンの音楽”がよりグループ固有のものとして確立され、
以後の作品におけるオーセンティックなポップアプローチの土台となっている。
本作の成功は、ローナン・キーティングのソロデビューにも弾みをつけ、
“アイドルのその先”へと続く可能性を証明した。
おすすめアルバム(5枚)
- Take That『Nobody Else』
UKボーイバンドの先駆者が“脱アイドル”を意識した時期の名作。テーマ性も共通。 - Westlife『Coast to Coast』
ボーイゾーンの音楽的後継者。甘いバラードとミディアムテンポ中心の構成が似ている。 - Bee Gees『One Night Only』
「Words」の原点であるグループ。ボーイゾーンとの世代を超えた接点。 - Backstreet Boys『Millennium』
アイドルから音楽性重視へ移行した米ボーイバンドの代表作。90年代後期の空気を共有。 -
Savage Garden『Affirmation』
ポップでありながら感情表現豊か。アルバムとしての統一感も共通。
後続作品とのつながり
『A Different Beat』は、次作『Where We Belong』(1998)へとスムーズに接続される。
そこではオリジナル曲が大半を占め、ボーイゾーンは“真のポップアーティスト”としての完成形に至る。
その礎を築いたのが本作であり、
“違う鼓動”で未来を見据えたグループの姿勢が、アルバム全体に静かに脈打っている。
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