発売日: 2006年10月3日
ジャンル: インディーフォーク / プログレッシブロック / バロックポップ
The Crane Wifeは、The Decemberistsがメジャーレーベル(Capitol Records)からリリースした初のアルバムであり、彼らのキャリアにおいて重要な転換点となった作品だ。このアルバムでは、日本の民話「鶴の恩返し」をモチーフにした壮大なタイトルトラックを中心に、文学的な物語性とプログレッシブな楽曲構成が際立っている。
フォーク、バロックポップ、そしてプログレッシブロックを融合した音楽スタイルは、The Decemberistsの持ち味である叙情性やストーリーテリングをさらに深化させており、ドラマチックな音楽体験を提供している。アルバム全体を通じて、喪失、愛、犠牲、そして欲望といった普遍的なテーマが力強く描かれている。
トラック解説
1. The Crane Wife 3
アルバムの冒頭を飾る叙情的なトラック。柔らかく穏やかなイントロから始まり、ルシンダの物語性豊かな歌詞が繊細に響く。タイトルトラックの一部でありながら、独立した楽曲としても完成度が高い。
2. The Island: Come and See / The Landlord’s Daughter / You’ll Not Feel the Drowning
プログレッシブロックの影響が色濃い12分を超える組曲形式の楽曲。3部構成で展開され、それぞれが異なる物語を語りつつも、全体として緻密に構成されている。フォーク的な叙情性とプログレ的な複雑さが見事に融合している。
3. Yankee Bayonet (I Will Be Home Then)
南北戦争中の恋人たちの視点から歌われるデュエット曲。ローラ・ヴィールがゲストボーカルを務め、二人の声が織りなすハーモニーが美しい。
4. O Valencia!
アルバムの中で最もポップでキャッチーな楽曲。ロミオとジュリエットを思わせる悲恋の物語が、エネルギッシュなメロディに乗せられて描かれている。
5. The Perfect Crime #2
ダンサブルでファンキーなサウンドが特徴的な楽曲。犯罪の計画をテーマにした歌詞がユニークで、アルバム全体のトーンに変化をもたらす。
6. When the War Came
悲壮感漂う楽曲で、第二次世界大戦中のレニングラード包囲戦をテーマにしている。激しいギターリフとメロイの力強いボーカルが印象的だ。
7. Shankill Butchers
アイルランドの紛争を題材にした暗く不穏なトラック。囁くようなボーカルと控えめなアコースティックアレンジが恐怖感を際立たせている。
8. Summersong
アルバムの中では比較的軽快で明るい楽曲。ノスタルジックな夏の記憶を描いた歌詞が爽やかな印象を与える。
9. The Crane Wife 1 & 2
アルバムのクライマックスを飾るタイトルトラックの前半部分。民話の物語が壮大なスケールで描かれ、繊細なアコースティックパートとドラマチックなエレクトリックパートが見事に融合している。
10. Sons and Daughters
アルバムを締めくくる楽曲で、希望と再生のメッセージが込められている。繰り返される「Hear all the bombs fade away」というフレーズが平和への祈りを象徴しており、力強い余韻を残す。
アルバムの背景: 民話と歴史を融合した文学的世界
The Crane Wifeは、日本の民話「鶴の恩返し」を中心に、さまざまな歴史的、文学的テーマを取り入れたコンセプチュアルな作品だ。The Decemberistsはこのアルバムで、フォークロックとプログレッシブロックを融合させ、彼らの音楽的レンジを大きく広げた。物語性の強い歌詞と、多層的な楽曲構成がリスナーを深く魅了する。
また、メジャーレーベルからのリリースというプレッシャーの中でも、バンドの独創性が失われることなく、むしろ洗練された形で表現されている点が評価されている。
アルバム総評
The Crane Wifeは、The Decemberistsの音楽的野心が最もよく表れたアルバムであり、彼らの代表作といえる。民話や歴史を背景にした壮大な物語と、複雑で美しい楽曲構成が見事に融合し、聴く者を圧倒する音楽体験を提供する。フォーク、バロックポップ、プログレッシブロックの要素を高い次元で組み合わせたこの作品は、The Decemberistsのファンだけでなく、物語性やドラマチックな音楽を求めるリスナーにとって必聴の一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Picaresque by The Decemberists
物語性豊かな楽曲が特徴の、バンドの原点を示す作品。
Hazards of Love by The Decemberists
さらに壮大なコンセプトを追求したアルバムで、The Crane Wifeのファンに響く一枚。
Illinois by Sufjan Stevens
フォークとクラシカルなアレンジが融合し、文学的な歌詞が特徴のアルバム。
In the Aeroplane Over the Sea by Neutral Milk Hotel
文学的で感情的な歌詞と、ドラマチックな音楽性が共通する名盤。
Funeral by Arcade Fire
壮大な楽曲構成と叙情的な歌詞が、The Crane Wifeの持つスケール感に通じる。
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