発売日: 2005年3月22日
ジャンル: インディーフォーク / バロックポップ / アメリカーナ
The Decemberistsの3作目となるPicaresqueは、バンドの持ち味である物語性豊かなソングライティングと多彩なアレンジが一層進化を遂げたアルバムである。アルバムタイトルの「ピカレスク」とは、悪党を主人公とした文学形式を指し、その名の通り、アルバムには波乱万丈な物語が詰め込まれている。
コリン・メロイの文学的な歌詞と、アコーディオン、チェロ、ハープシコードなど多様な楽器が生み出すユニークなサウンドが融合し、聴く者を異国の物語世界へと誘う。本作は、The Decemberistsがインディーミュージック界で一躍注目を集めるきっかけとなった重要な作品であり、彼らの独特な音楽スタイルを確立したアルバムだ。
トラック解説
1. The Infanta
アルバムの幕開けを飾る壮大なトラック。スペインの王女をテーマにしたこの楽曲は、ドラマチックなアレンジとリズミカルな展開が特徴で、華やかで力強いイントロダクションとなっている。
2. We Both Go Down Together
悲劇的な恋愛を描いた物語調の楽曲。裕福な若者と下層階級の恋人が運命を共にするというドラマチックな歌詞が印象的で、ストリングスを多用したアレンジが感情を引き立てる。
3. Eli, The Barrow Boy
フォーク色が濃厚なバラードで、哀愁漂うメロディとミニマルなアレンジが特徴。亡くなった恋人を悼む車輪売りの物語が詩的に描かれており、アルバムの中でも特に叙情的な一曲。
4. The Sporting Life
軽快でユーモラスなトラック。スポーツでの失敗談を描いた歌詞が可笑しさを誘い、ブラスセクションとリズミカルな演奏が楽しい雰囲気を作り出している。
5. The Bagman’s Gambit
冷戦時代のスパイの物語を描いた、アルバムの中でも特にドラマチックな楽曲。静かなアコースティック部分から徐々に盛り上がる構成が圧巻で、バンドの物語性と音楽的スケールの大きさを感じさせる。
6. From My Own True Love (Lost at Sea)
海で恋人を失った女性の悲しみを歌う切ないバラード。メロイの柔らかなボーカルとストリングスが楽曲に深い感情を与えている。
7. Sixteen Military Wives
政治的なテーマを扱った皮肉の効いた楽曲。軽快なメロディとブラスセクションが、社会風刺的な歌詞と対照を成し、アルバムの中でも特に印象的なトラックだ。
8. The Engine Driver
孤独と自己探求をテーマにしたフォークバラード。メロイの語りかけるようなボーカルとアコースティックギターが、シンプルながらも心に響く。
9. On the Bus Mall
若い男性売春夫たちの生活を描いた、静かで深い感情に満ちた楽曲。控えめなアレンジが歌詞を際立たせ、アルバムの中でも特に内省的な一曲となっている。
10. The Mariner’s Revenge Song
アルバムの中でも特に際立つ12分の物語音楽。復讐をテーマにしたこの曲は、シャンティ風のアレンジとドラマチックな展開が特徴で、まるでミュージカルを聴いているかのような没入感を提供する。
11. Of Angels and Angles
アルバムの締めくくりを飾る静かなバラード。シンプルなアコースティックギターの伴奏に、メロイのボーカルが寄り添うように響き、アルバム全体を美しくまとめている。
アルバムの背景: 文学的な野心と音楽的進化
Picaresqueは、The Decemberistsがその物語性と音楽的多様性を極限まで発揮した作品であり、バンドの文学的野心を明確に示している。このアルバムでは、階級や愛、喪失といったテーマが、歴史や神話を背景に描かれており、歌詞が一編の短編小説のように感じられる。また、ブラスセクションやストリングスなど、より洗練されたアレンジが取り入れられており、音楽的にもバンドの進化を感じさせる。
アルバム総評
Picaresqueは、The Decemberistsの独創性と物語性が頂点に達したアルバムであり、バンドの代表作といえる。聴き手を物語の世界に引き込む歌詞と、緻密に計算された音楽アレンジが見事に融合し、唯一無二の音楽体験を提供する。フォークやバロックポップ、アメリカーナの要素が絶妙にブレンドされたこのアルバムは、音楽好きにとって必聴の一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Castaways and Cutouts by The Decemberists
バンドの原点を示すデビューアルバムで、物語性とサウンドの魅力が詰まっている。
Her Majesty the Decemberists by The Decemberists
Picaresqueの直前にリリースされた作品で、同様の物語性と洗練されたアレンジが楽しめる。
Funeral by Arcade Fire
叙情的な歌詞と多彩なアレンジが特徴で、Picaresqueと響き合うインディーロックの名盤。
Illinois by Sufjan Stevens
フォークとバロックポップを融合し、物語性を重視したアルバムで、Picaresqueのファンにおすすめ。
The Crane Wife by The Decemberists
コンセプトアルバムとして、物語性とドラマチックな楽曲構成が際立つ作品。
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