
発売日:2021年10月22日
ジャンル:インディーロック、サイケデリックロック、オルタナティブロック、アメリカーナ、ジャムロック、ドリームポップ
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Regularly Scheduled Programming
- 2. Love Love Love
- 3. In Color
- 4. Least Expected
- 5. Never in the Real World
- 6. The Devil’s in the Details
- 7. Lucky to Be Alive
- 8. Complex
- 9. Out of Range, Pt. 2
- 10. Penny for Your Thoughts
- 11. I Never Could Get Enough
- 総評
- おすすめアルバム
- 1. My Morning Jacket – It Still Moves(2003)
- 2. My Morning Jacket – Z(2005)
- 3. My Morning Jacket – Evil Urges(2008)
- 4. My Morning Jacket – Circuital(2011)
- 5. Jim James – Regions of Light and Sound of God(2013)
概要
My Morning Jacketの『My Morning Jacket』は、2021年に発表された通算9作目のスタジオ・アルバムであり、バンド名をそのまま冠したセルフタイトル作品である。ケンタッキー州ルイヴィル出身のMy Morning Jacketは、1990年代末からアメリカーナ、サザンロック、インディーロック、サイケデリック、ソウル、ファンク、ジャムバンド的な即興性を横断しながら、独自のスケール感を持つロックを作り上げてきた。Jim Jamesのリヴァーブに包まれた高揚感のあるヴォーカル、広大なギター・サウンド、ライブでの長尺展開、そしてアメリカ南部的な土臭さと宇宙的な浮遊感の共存が、彼らの大きな特徴である。
本作は、2015年の『The Waterfall』以来、約6年ぶりとなる新作として発表された。My Morning Jacketはその間、活動休止に近い期間を経験し、Jim Jamesはソロ活動や社会的メッセージ性を持つ作品に取り組んだ。バンドとしては、2010年代後半に一度距離を取り、それぞれが個人としての時間を過ごした後、再び集まることになった。そのため『My Morning Jacket』には、バンドが自分たちの存在理由を改めて確認するような感覚がある。タイトルをセルフタイトルにしたことも、単なる形式ではなく、「これが現在のMy Morning Jacketである」という再提示の意味を持つ。
My Morning Jacketのキャリアを振り返ると、2003年の『It Still Moves』では、広大なアメリカーナ/サザンロック的世界を完成させ、2005年の『Z』では、より実験的で洗練されたインディーロックへと進んだ。2008年の『Evil Urges』では、ファンク、ソウル、R&B、プログレ的な要素を大胆に取り入れ、2011年の『Circuital』では、バンドの原点に立ち返りながら円環的な精神性を示した。『The Waterfall』では、自然、癒やし、精神的な回復、関係の変化がテーマとなり、バンドはより瞑想的で開かれた音へ向かった。
『My Morning Jacket』は、こうした過去の要素を一つに束ねながら、過度に実験的でも、過度に懐古的でもない作品になっている。アメリカーナ的なギターの温かさ、サイケデリックな音響、ファンク的なリズム、インディーロックの親しみやすいメロディ、ジャムバンド的な広がりが、バンドの自然な呼吸として現れている。セルフタイトルでありながら、初期の再現ではなく、長いキャリアを経たバンドが、自分たちの音楽的言語を改めて整理したアルバムといえる。
本作の大きな主題は、再生、つながり、精神的な開放、愛、そして未来への希望である。Jim Jamesの歌詞には、社会的な不安や個人的な孤独を背景にしながらも、他者とつながること、意識を開くこと、愛を信じることへの願いが繰り返し表れる。My Morning Jacketは、時に壮大でスピリチュアルな言葉を使うバンドだが、本作ではそれが過剰な理想主義ではなく、混乱した時代においてなお希望を失わないための方法として響く。
音楽的には、アルバム全体に開放感がある。ギターは空間を大きく使い、キーボードは柔らかい色彩を加え、リズム隊は安定したグルーヴを作る。曲によってはストレートなロックとして進み、別の曲ではサイケデリックな浮遊感やダンス的な反復が前面に出る。Jim Jamesの声は、相変わらず大きなリヴァーブに包まれ、個人の声でありながら、空間全体に溶け込むように響く。この声の質感が、My Morning Jacketの音楽に宗教的ともいえる高揚感を与えている。
本作は、2020年代初頭のアメリカン・ロックにおける重要な位置を占める。ロックがメインストリームの中心からやや退いた時代において、My Morning Jacketは、アルバム単位で大きな精神的風景を作るバンドとして存在感を保っている。『My Morning Jacket』は、時代の流行に合わせるのではなく、バンドが長年磨いてきた音楽性を、現在の精神状態に合わせて再び鳴らした作品である。
全曲レビュー
1. Regularly Scheduled Programming
アルバム冒頭の「Regularly Scheduled Programming」は、本作のテーマを象徴するオープニングである。タイトルは、テレビやラジオで使われる「通常番組」という意味の表現であり、日常、メディア、習慣、現代社会の反復を連想させる。ここでは、人々が情報や娯楽に流され、自分自身の感覚を失っていく状態への問題意識が込められている。
音楽的には、ゆったりとしたテンポで始まり、Jim Jamesの声が広い空間の中に浮かび上がる。サウンドは穏やかでありながら、どこか不穏な感触を持つ。ギターとキーボードは柔らかく広がり、曲全体に夢から覚める直前のような浮遊感がある。
歌詞では、現代人が「通常番組」のように繰り返される生活や情報に囲まれ、本当の自分や愛の感覚を忘れてしまうことが示唆される。My Morning Jacketの音楽には、しばしば意識の覚醒というテーマが現れるが、この曲でも、社会的な眠りから目を覚ます必要が歌われている。
冒頭曲として、この曲はアルバム全体の方向性を明確にする。『My Morning Jacket』は単なるロック・アルバムではなく、現代の閉塞感の中で、感覚を取り戻し、再び人とつながることを求める作品である。「Regularly Scheduled Programming」は、その目覚めの呼びかけとして機能している。
2. Love Love Love
「Love Love Love」は、タイトル通り、愛を中心に据えた楽曲である。非常に直接的な言葉が三度繰り返されることで、曲はスローガンのような明快さを持つ。しかしMy Morning Jacketにおける愛は、単なるロマンティックな感情ではなく、世界に対する態度、精神的な開放、他者とのつながりを意味する。
音楽的には、明るく開放的なロック・ナンバーである。ギターは伸びやかに鳴り、リズムは前向きで、Jim Jamesのヴォーカルは高揚感を伴って響く。ライブでの合唱を想定したような大きなコーラス感があり、アルバム序盤に強い光をもたらしている。
歌詞では、恐れや分断ではなく、愛を選び取ることの重要性が歌われる。これは単純な楽観ではない。現代社会に不安や怒りがあるからこそ、愛という言葉を繰り返し掲げる必要がある。My Morning Jacketは、愛を抽象的な理想としてではなく、暗い時代を越えるためのエネルギーとして提示している。
「Love Love Love」は、本作の中でも最も明快なメッセージを持つ曲であり、バンドの肯定的な精神性がよく表れている。重さや複雑さよりも、ここではロックの開放感と共同体的なエネルギーが重視されている。
3. In Color
「In Color」は、色彩、知覚、世界の見え方をテーマにした楽曲である。タイトルは「カラーで」という意味を持ち、白黒の世界から色のある世界へ移行するような感覚を示している。これは、意識が開かれること、愛や経験によって世界が豊かに見え始めることの比喩として読むことができる。
音楽的には、ミドルテンポの穏やかなロックで、広がりのあるギターと温かいメロディが特徴である。曲全体に柔らかい光があり、My Morning Jacketの持つドリーミーな側面がよく表れている。激しいロックではなく、ゆっくりと視界が開けていくような曲である。
歌詞では、世界をどのように見るかが重要になる。現実そのものが変わらなくても、心の状態や愛の有無によって、世界の見え方は変わる。灰色に見えていた日常が、色を取り戻す瞬間がある。この曲は、その内面的な変化を音楽的に表現している。
「In Color」は、アルバムの中で穏やかな希望を担う楽曲である。「Love Love Love」が外向きの愛の宣言であるなら、「In Color」はその愛によって世界の見え方が変わる内面的なプロセスを描いている。
4. Least Expected
「Least Expected」は、予期しない出来事、人生の不確実性、そして予想外の変化をテーマにした楽曲である。タイトルは「最も予想していなかったもの」という意味であり、人生が計画通りには進まないこと、思いがけない形で道が開けることを示している。
音楽的には、リラックスしたグルーヴと柔らかいサウンドが特徴である。My Morning Jacketらしい空間的なギターと、穏やかなリズムが曲を支える。曲調には軽やかさがあるが、歌詞には人生の不可解さを受け入れるような落ち着きがある。
歌詞では、予想していなかった瞬間に何かが起こることが示唆される。それは出会いかもしれず、別れかもしれず、精神的な気づきかもしれない。人は自分で人生をコントロールしているつもりでも、実際には偶然や予期しない出来事に大きく左右される。この曲は、その不確実性を否定するのではなく、受け入れようとしている。
「Least Expected」は、本作の再生のテーマと深く関係している。My Morning Jacketが長い沈黙の後に再び集まったこと自体も、ある意味で予期しない再会だった。曲は、人生の計画不能性を穏やかに肯定する。
5. Never in the Real World
「Never in the Real World」は、現実と幻想、夢と日常の境界を扱った楽曲である。タイトルは「現実世界では決して」という意味を持ち、理想や夢が現実の中では成立しにくいことへの苦みを含んでいる。一方で、My Morning Jacketの音楽は常に現実を少し超えた場所へ向かおうとするため、このタイトルにはバンド自身の美学も反映されている。
音楽的には、やや陰影のあるサイケデリック・ロックである。ギターとキーボードが空間を広げ、Jim Jamesの声は現実から少し離れた場所で響いているように感じられる。曲には夢幻的な質感があるが、同時に現実への失望もにじむ。
歌詞では、現実世界ではうまくいかないこと、理想が壊れてしまうこと、しかしそれでも別の次元で何かを信じたいという思いが表れる。My Morning Jacketは、現実逃避として幻想を描くのではなく、現実が厳しいからこそ、想像力や音楽が必要なのだと示している。
「Never in the Real World」は、アルバムの中でやや暗い内省を担う曲である。愛や希望を歌う本作において、この曲は現実の重さを思い出させる。その重さがあるからこそ、他の曲の光も単なる楽観ではなくなる。
6. The Devil’s in the Details
「The Devil’s in the Details」は、細部に潜む危うさをテーマにした楽曲である。英語の慣用句「悪魔は細部に宿る」をそのままタイトルにしており、大きな理念や計画があっても、実際には細かな部分に問題や真実が隠れていることを示している。
音楽的には、グルーヴ感があり、ややファンクやサイケデリックの要素も感じられる。リズムは粘り、ギターとキーボードが曲に不穏な動きを加える。My Morning Jacketの持つジャムバンド的な反復性が生きており、曲全体に少し怪しげな雰囲気が漂う。
歌詞では、見かけ上はうまくいっているものの内部に潜む問題が示唆される。社会、関係、自分自身の心。どんなものにも細部があり、その細部を見落とすと、やがて大きな破綻につながる。Jim Jamesの歌詞は抽象的だが、この曲では現代社会への警戒感も感じられる。
「The Devil’s in the Details」は、アルバムの明るい精神性に影を加える重要曲である。愛や希望を掲げるだけでは不十分であり、細部に潜む悪や矛盾にも目を向ける必要がある。My Morning Jacketのサイケデリックな側面と批評的な視点が結びついた楽曲である。
7. Lucky to Be Alive
「Lucky to Be Alive」は、本作の中でも特に生命への感謝を直接的に表す楽曲である。タイトルは「生きていて幸運だ」という意味であり、シンプルながら、アルバム全体の再生と肯定のテーマを強く示している。長い活動期間、バンドの休止状態、社会的混乱を経て発表された本作において、この言葉は非常に重い。
音楽的には、軽快で親しみやすいロック・ソングである。リズムは弾み、メロディも明るく、曲全体に開放感がある。深刻なメッセージを重苦しく表現するのではなく、生命の喜びを身体で感じさせるような音作りになっている。
歌詞では、生きていること自体への感謝が歌われる。ただし、それは苦しみを知らない人間の楽観ではない。むしろ、困難を経たからこそ、生きていることが幸運として感じられる。My Morning Jacketの音楽には、ライブで共有される祝祭性があるが、この曲はその祝祭性をアルバム内で明確に示している。
「Lucky to Be Alive」は、暗い時代においても生を肯定する楽曲である。大きな哲学ではなく、今ここにいること、音楽を鳴らせること、誰かと同じ時間を共有できることへの喜びが、素直に表現されている。
8. Complex
「Complex」は、物事や人間関係の複雑さを扱った楽曲である。タイトルは「複雑な」「複合体」という意味を持ち、簡単には整理できない感情や状況を示している。My Morning Jacketの歌詞には、シンプルな愛や希望のメッセージがある一方で、世界の複雑さへの認識も常に存在する。この曲はその側面を担っている。
音楽的には、やや落ち着いたテンポで、サウンドには陰影がある。ギターとキーボードが重なり、曲全体に緩やかな揺れが生まれる。派手な展開よりも、感情が整理されないまま流れていくような質感が重要である。
歌詞では、人間や関係が単純な善悪や正解で割り切れないことが示唆される。愛している相手にも矛盾があり、自分自身にも矛盾がある。社会の問題も、個人の問題も、単純な解決を拒む。この曲は、その複雑さに対して苛立つのではなく、受け止めようとしている。
「Complex」は、本作の中で成熟した視点を示す楽曲である。愛を信じることは、世界を単純に見ることではない。むしろ、複雑さを理解したうえで、それでもつながりを求めることが重要なのだと示している。
9. Out of Range, Pt. 2
「Out of Range, Pt. 2」は、タイトルからして続編的なニュアンスを持つ楽曲である。「範囲外」「届かない場所」を意味する言葉が使われており、通信、感情、理解、距離の問題が示唆される。My Morning Jacketの作品では、物理的な距離と精神的な距離がしばしば重なり、この曲でもその感覚が強い。
音楽的には、サイケデリックで広がりのあるサウンドが特徴である。ギターやキーボードが空間を大きく取り、曲には浮遊感がある。タイトル通り、何かが届かない場所から響いているような感覚がある。
歌詞では、誰かに届かない、あるいは自分自身が通常の範囲から外れているという感覚が漂う。これは孤独であると同時に、解放でもある。範囲外にいることは、社会から切り離されることかもしれないが、同時に既存の枠組みから自由になることでもある。
「Out of Range, Pt. 2」は、My Morning Jacketの宇宙的・サイケデリックな側面をよく示す曲である。地上の問題を扱う他の曲に対して、この曲は意識を少し遠くへ飛ばし、アルバムに広大な空間を与えている。
10. Penny for Your Thoughts
「Penny for Your Thoughts」は、相手の内面を知りたいという呼びかけをタイトルにした楽曲である。この表現は「何を考えているのか教えて」という意味で使われる。つまり曲の中心には、他者の心への関心、会話、理解への欲求がある。
音楽的には、比較的コンパクトで親しみやすい曲である。メロディは柔らかく、サウンドも穏やかで、アルバム終盤に人間的な温かさをもたらしている。Jim Jamesの声は、ここでは壮大な祈りというより、誰かにそっと語りかけるように響く。
歌詞では、相手が何を考え、何を感じているのかを知りたいという願いが示される。現代社会では、多くの言葉や情報が飛び交っていても、本当に相手の心を理解することは難しい。この曲は、シンプルな会話への欲求を通じて、つながりの重要性を示している。
「Penny for Your Thoughts」は、本作の大きなテーマである愛とコミュニケーションを、最も日常的な形で表現した曲である。壮大なメッセージではなく、相手の考えを聞くこと。そこからつながりは始まる。
11. I Never Could Get Enough
アルバムを締めくくる「I Never Could Get Enough」は、満たされない欲求、愛への渇き、音楽や人生への尽きない衝動を歌った楽曲である。タイトルは「私は決して十分に得ることができなかった」という意味で、何かを求め続ける人間の根源的な感覚を示している。
音楽的には、ゆったりとした広がりを持ち、終曲にふさわしい余韻がある。ギターとキーボードは空間を大きく使い、Jim Jamesの声はアルバム全体を包み込むように響く。曲は派手なクライマックスに向かうのではなく、求め続ける感覚をそのまま残して終わる。
歌詞では、愛、経験、感覚、人生そのものへの欲求が表れる。満たされないことは苦しみである一方で、生きる力でもある。人は十分に満たされたら動かなくなるかもしれない。何かを求め続けるからこそ、歌い、旅をし、人とつながろうとする。この曲は、その永続する渇きを肯定的に描いている。
終曲として、この曲はアルバムの結論を提示する。愛を求め、世界を色彩で見ようとし、悪魔の細部に注意し、生きている幸運を感じても、人間はまだ完全には満たされない。しかし、その満たされなさこそが、次の歌へ、次のつながりへ向かう力になる。『My Morning Jacket』は、この開かれた渇望の中で幕を閉じる。
総評
『My Morning Jacket』は、My Morning Jacketが長いキャリアと一時的な距離を経た後、自分たちの音楽的本質を再確認したアルバムである。セルフタイトルという形式が示す通り、本作にはバンドの主要な要素が幅広く含まれている。アメリカーナの温かさ、インディーロックのメロディ、サイケデリックな空間性、ジャムバンド的な広がり、ファンクやソウルのグルーヴ、そしてJim Jamesのスピリチュアルな歌声が、一つの成熟した形で鳴っている。
本作の中心にあるのは、再生とつながりである。「Regularly Scheduled Programming」では現代の惰性的な意識からの目覚めが促され、「Love Love Love」では愛が力強く掲げられ、「Lucky to Be Alive」では生きていることへの感謝が歌われる。一方で、「Never in the Real World」「The Devil’s in the Details」「Complex」では、現実の厳しさや世界の複雑さも見つめられる。つまり本作は、単純な楽観のアルバムではない。暗さや複雑さを知ったうえで、それでも愛と生命を肯定する作品である。
音楽的には、過去のMy Morning Jacket作品に比べて大きな革新を打ち出すアルバムではない。しかし、それは欠点ではなく、むしろ本作の性格を示している。ここでバンドは、自分たちが積み重ねてきた音楽的語彙を、無理なく現在形で鳴らしている。『Z』のような鮮烈な転換や、『Evil Urges』のような大胆な変化とは異なり、『My Morning Jacket』は、長く続いてきたバンドが自分たちの核を再確認する作品である。
Jim Jamesの歌詞は、抽象的でスピリチュアルな傾向が強く、物語性よりも感覚やメッセージを重視する。そのため、Jason IsbellやLucinda Williamsのような細密な人物描写とは異なるが、My Morning Jacketの音楽においては、その抽象性が大きな空間を生む。愛、意識、生命、現実、複雑さといった言葉が、サウンドの広がりと結びつき、聴き手を個人的な物語よりも大きな精神的風景へ導く。
アルバム全体の構成も、バンドの再始動を感じさせる。前半は愛と目覚めを強く打ち出し、中盤では現実の複雑さや不穏さを見つめ、後半では生命への感謝、他者との対話、満たされない渇望へと進む。これは、混乱した時代を生きる人間が、再び感覚を開き、他者とつながり、生きることを肯定しようとする流れとして聴くことができる。
日本のリスナーにとって本作は、My Morning Jacketの入門作としても機能する。初期のよりカントリー/サザンロック寄りの音や、『Z』の実験性に比べると、本作はバンドの特徴を比較的バランスよく含んでいる。広がりのあるロック、温かいメロディ、サイケデリックな空気、ライブ的な高揚感があり、彼らの現在地を知るには適した作品である。
一方で、My Morning Jacketの最高傑作としては、『It Still Moves』や『Z』を挙げる評価も多いだろう。本作はそれらのような時代を変える衝撃よりも、長い活動を経たバンドの成熟と再確認に価値がある。新しい地平を切り開くアルバムというより、過去と現在をつなぎ、これからも続いていくためのアルバムである。
総じて『My Morning Jacket』は、混乱の時代において、愛、生命、意識、つながりを再び信じようとする作品である。世界は複雑で、現実は厳しく、細部には悪魔も潜む。それでも、生きていることは幸運であり、誰かの考えを聞くことには意味があり、愛を繰り返し歌う価値がある。My Morning Jacketは本作で、その信念を広大なロック・サウンドとして鳴らしている。
おすすめアルバム
1. My Morning Jacket – It Still Moves(2003)
My Morning Jacketの初期を代表する大作であり、アメリカーナ、サザンロック、サイケデリック、広大なリヴァーブ・サウンドが最も雄大な形で結実した作品である。『My Morning Jacket』の温かさや広がりの原点を理解するうえで重要であり、バンドのスケール感を最も自然に味わえるアルバムである。
2. My Morning Jacket – Z(2005)
バンドの評価を決定的に高めた代表作であり、初期のアメリカーナ色から一歩進んで、より実験的で洗練されたインディーロックへ向かった作品である。サイケデリックな音響、ポップな構成、リズムの多様性が際立ち、『My Morning Jacket』における洗練された側面の源流として聴くことができる。
3. My Morning Jacket – Evil Urges(2008)
ファンク、ソウル、R&B、プログレ、ハードロックを大胆に取り入れた意欲作である。『My Morning Jacket』よりも実験性が強く、賛否を生みやすい作品だが、バンドがジャンルの枠を超えて音楽的な可能性を広げようとする姿勢が明確に表れている。
4. My Morning Jacket – Circuital(2011)
バンドの原点回帰と成熟が同居した作品であり、円環、帰還、精神的な再接続をテーマにしたアルバムである。『My Morning Jacket』の再確認的な性格と近く、長いキャリアの中でバンドが自分たちの中心へ戻ろうとする姿勢を理解するうえで関連性が高い。
5. Jim James – Regions of Light and Sound of God(2013)
My Morning Jacketの中心人物Jim Jamesによるソロ作品であり、彼のスピリチュアルな感性、内省的な歌詞、ソウルやサイケデリックへの関心がより個人的な形で表れている。『My Morning Jacket』に流れる愛、意識、精神的な開放のテーマを理解するうえで重要な作品である。



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