アルバムレビュー:It Still Moves by My Morning Jacket

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2003年9月9日

ジャンル:インディーロック、サザンロック、アメリカーナ、サイケデリックロック、フォークロック、オルタナティブ・カントリー

概要

My Morning Jacketの『It Still Moves』は、2003年に発表された通算3作目のスタジオ・アルバムであり、バンドの初期キャリアを代表する大作である。ケンタッキー州ルイヴィルを拠点に結成されたMy Morning Jacketは、1999年の『The Tennessee Fire』、2001年の『At Dawn』で、広大なリヴァーブ、フォーク/カントリー由来の素朴なメロディ、サイケデリックな残響、Jim Jamesの幽玄なヴォーカルを特徴とする音楽性を築いていた。『It Still Moves』は、その初期スタイルを最も雄大なスケールで完成させた作品であり、後の『Z』での洗練や実験へ向かう直前の、My Morning Jacketの土と空と残響が最も豊かに鳴っているアルバムである。

タイトルの『It Still Moves』は、「それは今も動いている」と訳せる。ここでの「it」が何を指すのかは明確ではない。愛、記憶、自然、音楽、人生、故郷、霊的な力、あるいはアメリカという巨大な風景そのものかもしれない。重要なのは、動き続けているという感覚である。本作には、道、空、森、夜、川、町、心の変化が広がっており、音楽は固定された場所に留まらず、常に遠くへ伸びていく。静かな曲であっても、そこには何かがゆっくり流れ、揺れ、動いている感覚がある。

My Morning Jacketの初期作品を語るうえで欠かせないのが、Jim Jamesの声である。彼のヴォーカルは、深いリヴァーブに包まれ、山間の倉庫や体育館、教会、広い谷に反響しているように響く。その声は、個人の感情を歌っているにもかかわらず、どこか人間を超えた空間へ拡散していく。『It Still Moves』では、この声の特性が最も大きなスケールで活かされている。彼の歌は、近くで囁くというより、遠くから届く光や風のように聴こえる。

音楽的には、本作はアメリカーナ、サザンロック、フォークロック、サイケデリックロックを大きく包み込んでいる。Neil Young & Crazy Horseの長いギターのうねり、The Bandの土着的な温かさ、Lynyrd Skynyrd以降の南部ロックの広がり、The Flaming LipsやMercury Revに通じる宇宙的な浮遊感、さらにジャムバンド的なライブの伸縮性が混ざり合う。しかし、My Morning Jacketはそれらを単なる引用として用いるのではなく、独自の音響空間へ溶かし込んでいる。特に、ギターの残響、ドラムの大きな鳴り、ベースのゆったりした重心、そしてJim Jamesの声が一体となることで、本作には非常に広い「場」が生まれている。

『It Still Moves』は、2000年代初頭のインディーロックの中でも独特の位置にある。同時期には、Wilcoが『Yankee Hotel Foxtrot』でアメリカーナを音響実験へ拡張し、The Flaming Lipsがサイケデリック・ポップの新しい形を示し、The StrokesやInterpolが都市的なロックの再興を担っていた。その中でMy Morning Jacketは、より土着的で、南部的で、広大な自然やライブ的な高揚を感じさせる方向へ進んだ。彼らは都市のクールさではなく、山や道や夜空を思わせるロックを鳴らした。これは、2000年代のインディー・シーンにおいて非常に重要な対照軸だった。

本作の長さも重要である。全体は70分を超え、曲によっては長い展開を持つ。コンパクトなインディーロック・アルバムというより、ひとつの大きな旅のような作品である。楽曲は、短く鋭く終わるよりも、時間をかけて広がり、余韻を残す。これは、ライブ・バンドとしてのMy Morning Jacketの本質とも結びついている。彼らの音楽は、スタジオで完結するというより、演奏され、空間に放たれ、聴き手の身体とともに伸びていく。

歌詞の面では、Jim Jamesは具体的な物語を細かく描くタイプではない。Lucinda WilliamsやJason Isbellのように地名や人物を精密に積み上げるのではなく、より感覚的で抽象的な言葉を用いる。愛、孤独、心の解放、別れ、祈り、自然とのつながりが、断片的なフレーズとして現れる。『It Still Moves』の歌詞は、明確なストーリーよりも、音の中で立ち上がる感情や風景を重視している。そのため、聴き手は曲の意味を読むというより、曲の中に入って感覚することになる。

本作は、My Morning Jacketのキャリアにおいて、初期の集大成であると同時に、次の段階への入口でもある。『Z』では、よりコンパクトで実験的な音響設計が導入されるが、その前に『It Still Moves』では、バンドの原始的な魅力が最大化されている。広大なリヴァーブ、長いギター、南部的な土の匂い、サイケデリックな空間、Jim Jamesの霊的な声。本作は、それらが最も大きな形で鳴ったアルバムである。

全曲レビュー

1. Mahgeetah

アルバム冒頭の「Mahgeetah」は、『It Still Moves』の世界を開くにふさわしい、My Morning Jacket初期の代表曲である。タイトルの意味は明確ではないが、その響き自体が異国的で、どこか呪文のような印象を与える。曲は明るく開放的でありながら、単純なポップソングではなく、広大な空間へ向かって少しずつ広がっていく。

音楽的には、ギターのきらめきと大きなドラム、安定したベース、Jim Jamesのリヴァーブに包まれた声が中心である。曲は冒頭から自然に前へ進み、サビに向かって大きく開ける。ロックの推進力とサイケデリックな浮遊感が同時にあり、My Morning Jacketの魅力が非常に分かりやすく示されている。

歌詞では、誰かに向けた呼びかけや、心の中の迷い、関係の揺れが示唆される。しかし、言葉は明確な物語を語るのではなく、音の中で感情の輪郭を描く。Jim Jamesの歌詞において重要なのは、具体的な説明よりも、声の響きと言葉の断片が作る気分である。この曲でも、意味は開かれており、聴き手はその開放感の中に自分の感情を重ねることができる。

「Mahgeetah」が優れているのは、バンドのスケール感を最初から提示しながら、重くなりすぎない点である。明るいギターと大きなリヴァーブによって、曲は地上を走ると同時に空へ浮かぶ。これは『It Still Moves』全体の基本的な感覚でもある。土の匂いがありながら、常に上方へ抜けていく音である。

アルバムの入口として、この曲は非常に効果的である。My Morning Jacketはここで、聴き手を広い風景へ連れ出す。音はすでに動いており、その動きはアルバム全体を通じて止まらない。

2. Dancefloors

「Dancefloors」は、タイトルが示す通り、踊る場所、身体の解放、夜の祝祭を連想させる楽曲である。しかしMy Morning Jacketの「ダンスフロア」は、クラブ的な人工空間というより、南部の酒場、ライブハウス、古いホール、あるいは広い場所で人々が音に身を任せるような空気を持っている。曲全体には、ロックンロールの身体性とアメリカーナの温かさがある。

音楽的には、ホーンを含むアレンジが印象的で、バンドのサウンドに祝祭感を加えている。ギター主体の曲が多い本作の中で、この曲はリズムと管楽器の勢いによって、より開かれた雰囲気を作る。Jim Jamesの声は、ここでも深い残響をまといながら、踊る身体を遠くから見守るように響く。

歌詞では、音楽に身を任せること、夜の中で日常から離れること、誰かと同じ空間を共有することが示唆される。ダンスフロアは、単なる娯楽の場所ではない。そこでは人々が一時的に孤独を忘れ、身体を通じてつながることができる。My Morning Jacketの音楽にある共同体的な感覚は、この曲にもよく表れている。

この曲は、『It Still Moves』の中で比較的軽やかな位置を持つが、その軽やかさは重要である。アルバム全体は長く、広大で、時に内省的だが、「Dancefloors」は身体的な楽しさを持ち込む。My Morning Jacketの音楽は、精神的な浮遊だけでなく、ライブ会場での身体の反応にも根ざしていることを示している。

「Dancefloors」は、バンドの祝祭性を表す楽曲である。広いリヴァーブの中で、踊ること、集まること、音に揺れることが肯定される。本作における陽の側面を担う一曲である。

3. Golden

「Golden」は、『It Still Moves』の中でも特に美しく、穏やかな楽曲である。タイトルの「Golden」は、黄金色、夕暮れ、光、祝福、過ぎ去る時間の美しさを連想させる。My Morning Jacketの代表的なバラードの一つであり、Jim Jamesのフォークソングライターとしての資質が非常に明確に表れている。

音楽的には、アコースティック・ギターを中心にした素朴なフォークロックである。大きなロックの展開ではなく、メロディと言葉、声の余韻が中心に置かれている。Jim Jamesの声は柔らかく、遠くから差し込む光のように響く。曲全体には、朝や夕方の静かな空気がある。

歌詞では、人生の一瞬の輝きや、時間の中で失われていくものへのまなざしが感じられる。黄金色の瞬間は美しいが、永遠には続かない。だからこそ、その瞬間は大切になる。Jim Jamesは、直接的な物語ではなく、光や感覚を通じて、人生のはかなさと美しさを描いている。

この曲は、My Morning Jacketの音楽にあるスピリチュアルな感覚を、最も穏やかな形で示している。大きな宗教的言葉を使わず、ただ光のようなメロディで、世界の美しさを感じさせる。これはThe BandやNeil Youngのフォーク的な伝統にも通じるが、Jim Jamesの声の残響によって、より夢幻的な響きになっている。

「Golden」は、本作の中で静かな核心の一つである。広大なロック・アルバムの中に置かれたこの小さな黄金色の曲は、アルバム全体に温かい中心を与えている。

4. Master Plan

「Master Plan」は、人生の計画、運命、愛と選択をめぐる楽曲である。タイトルは「大きな計画」「全体の設計図」を意味し、人間が自分の人生をどこまで理解し、コントロールできるのかという問いを連想させる。My Morning Jacketの歌詞において、運命や宇宙的な力への感覚はしばしば現れるが、この曲もその流れにある。

音楽的には、ミドルテンポのフォークロック/サイケデリックロックであり、ギターとキーボードが柔らかく空間を作る。曲は大きく爆発するというより、ゆったりと揺れながら進む。Jim Jamesの声は、問いかけるように響き、曲に内省的な雰囲気を与えている。

歌詞では、人生に本当に「計画」があるのか、あるいは人は偶然の中を進んでいるのかが問われる。自分では何かを選んでいるつもりでも、より大きな流れに導かれているように感じることがある。この感覚は、タイトルの「Master Plan」によって象徴されている。ただし、曲は明確な答えを与えない。むしろ、不確かさを抱えたまま進むことを受け入れている。

この曲の魅力は、スケールの大きな問いを、親しみやすいメロディの中に置いている点である。My Morning Jacketは哲学的な言葉を重く語るのではなく、ロックの広がりの中で自然に響かせる。人生の計画について考えることが、サイケデリックな空間の中で、感覚的な問いとして立ち上がる。

「Master Plan」は、『It Still Moves』の中で、バンドの内省的な側面を担う曲である。動き続ける世界の中で、人は自分の道を理解しようとする。しかし、その全体像は見えない。その見えなさが、この曲の深みになっている。

5. One Big Holiday

「One Big Holiday」は、My Morning Jacketの代表曲の一つであり、『It Still Moves』の中でも最も強烈なロック・アンセムである。タイトルは「ひとつの大きな休日」と訳せるが、曲の中には単なる休暇の楽しさではなく、日常からの脱出、音楽による解放、仲間と共にどこかへ向かう高揚感がある。

音楽的には、冒頭のギターリフから圧倒的なエネルギーがある。南部ロック的なギターの力強さ、ジャムバンド的な伸び、クラシック・ロックの高揚感が一体となっている。ドラムは大きく鳴り、ギターは空間を切り開き、Jim Jamesの声はその上を遠くへ飛んでいく。ライブでの爆発力を強く感じさせる楽曲である。

歌詞では、若いバンドが旅に出ること、音楽を鳴らすこと、現実の制約から一時的に抜け出すことが描かれる。これはMy Morning Jacket自身のバンド生活とも重なる。地方から出て、ツアーをし、音楽によって世界を広げる。その感覚が、曲の大きな推進力になっている。

この曲の重要な点は、ロックの根源的な喜びを非常に素直に鳴らしていることである。複雑な実験や深い内省もMy Morning Jacketの魅力だが、「One Big Holiday」では、ギター、ドラム、声が一体となって、ただ前へ進む快感がある。これはロック・バンドとしての彼らの身体的な核である。

「One Big Holiday」は、『It Still Moves』の中心的な山場であり、バンドの初期を象徴する名曲である。アルバム全体の広大さの中で、この曲は最も直接的に空へ向かって開かれる。My Morning Jacketのライブ的な魅力を知るうえで欠かせない楽曲である。

6. I Will Sing You Songs

「I Will Sing You Songs」は、本作の中でも特に長く、静かで、瞑想的な楽曲である。タイトルは「私はあなたに歌を歌う」という非常にシンプルな約束を示す。しかし、この曲における歌うことは、単なる娯楽ではなく、慰め、祈り、記憶の共有、愛の行為として響く。My Morning Jacketの精神的な側面が深く表れた楽曲である。

音楽的には、ゆったりとしたテンポで始まり、長い時間をかけて空間が広がっていく。ギターは控えめに鳴り、リズムは急がず、Jim Jamesの声が深い残響の中で浮かび上がる。曲は大きな劇的展開よりも、持続する感情を重視している。そのため、聴き手は時間の感覚を少しずつ失い、曲の中に沈み込んでいく。

歌詞では、誰かに歌を届けることが中心にある。歌は、言葉で説明できない感情を伝える手段であり、離れた相手とのつながりを保つ方法でもある。Jim Jamesの声が遠く響くことで、その「あなた」は目の前にいる相手であると同時に、遠く離れた誰か、あるいは聴き手自身にも感じられる。

この曲は、My Morning Jacketの音楽観を示す重要な楽曲である。音楽は、単なる商品でもパフォーマンスでもなく、誰かに向けて差し出されるものだという感覚がある。歌うことは、孤独な世界の中で他者とつながるための行為である。長い反復と広い残響が、そのつながりの距離と深さを表している。

「I Will Sing You Songs」は、『It Still Moves』の中で最も静かな大曲の一つである。派手なギターの爆発は少ないが、アルバムの精神的な広がりを支える非常に重要な楽曲である。

7. Easy Morning Rebel

「Easy Morning Rebel」は、タイトルからして、朝の柔らかさと反抗心が同居する楽曲である。「easy morning」は穏やかな朝を、「rebel」は反逆者を意味する。この組み合わせは、My Morning Jacketらしい二面性を持っている。穏やかでありながら、内側には自由を求める衝動がある。

音楽的には、軽快なリズムとソウル/カントリー・ロック的な温かさが特徴である。ホーンの響きも加わり、曲には朝の光のような明るさがある。『It Still Moves』の中では比較的リラックスした曲調で、アルバムの重厚な流れの中に風通しを与えている。

歌詞では、自由でありたいという感覚や、何かに縛られない朝の心情が示唆される。反逆者という言葉は大げさな政治的反抗というより、日常の中で自分らしくあろうとする小さな抵抗として響く。穏やかな朝に、なおも心の中に反抗の火がある。そこに、この曲の魅力がある。

この曲は、My Morning Jacketの南部的なソウル感覚をよく示している。サイケデリックな残響や長いギター展開だけでなく、彼らはリズムとホーンを使って、温かいグルーヴも作ることができる。「Easy Morning Rebel」は、その柔軟さを示す楽曲である。

アルバムの中では派手な山場ではないが、非常に重要な色彩を持つ。My Morning Jacketの音楽には、夜の闇や広大な空だけでなく、朝の光と軽い足取りもあることを示している。

8. Run Thru

「Run Thru」は、『It Still Moves』の中でも最も重厚で、バンドのサイケデリック・ロック/ジャムロック的な側面が強く表れた楽曲である。タイトルは「突き抜ける」「走り抜ける」といった意味を持ち、曲そのものも、いくつかの展開を経ながら、大きな音のうねりへ進んでいく。

音楽的には、前半の歌パートから、後半の長いインストゥルメンタル展開へと進む構成が印象的である。ギターは重く、リズム隊は大きなうねりを作り、曲は徐々にロックの巨大な塊へ変化していく。My Morning Jacketのライブ・バンドとしての能力が、スタジオ録音の中でも強く感じられる曲である。

歌詞では、何かを走り抜ける感覚、困難や関係の中を突き進む感覚が示される。しかし、この曲において歌詞以上に重要なのは、演奏そのものの展開である。言葉が終わった後、バンドは長いインストゥルメンタルによって、感情をさらに先へ運ぶ。これはMy Morning Jacketの大きな特徴である。言葉では届かない場所へ、演奏が進んでいく。

この曲は、Neil Young & Crazy Horse的なギターの持続や、サザンロックのスケール、サイケデリックな反復を思わせる。しかし、My Morning Jacketの音は、単なる伝統の再現ではなく、リヴァーブと空間処理によって、より夢幻的に響く。土臭いロックでありながら、どこか宇宙的でもある。

「Run Thru」は、アルバム後半の大きな山場である。『It Still Moves』が長大な作品である理由は、このような曲が必要な時間をかけて展開するからである。短くまとめるのではなく、バンドが走り抜ける時間そのものを聴かせる。My Morning Jacketの初期の魅力が凝縮された大曲である。

9. Rollin Back

「Rollin Back」は、タイトル通り「戻っていく」「巻き戻る」感覚を持つ楽曲である。『It Still Moves』の中盤以降に置かれ、アルバムの旅の中で、過去や記憶へゆっくり戻っていくような雰囲気を作る。My Morning Jacketの音楽における時間感覚は、直線的な前進だけではなく、記憶の中を巡るような動きも含んでいる。

音楽的には、穏やかで、少し揺れるようなフォークロックである。ギターとリズムはゆったりしており、Jim Jamesの声が広い空間の中で漂う。曲には、夕暮れや長い旅の帰り道のような感覚がある。大きな爆発よりも、余韻と流れが重視されている。

歌詞では、過去へ戻ること、ある感情や関係が再び心の中に戻ってくることが示唆される。戻ることは、必ずしも後退ではない。記憶をたどることで、現在の自分を理解することができる。この感覚は、後の『Circuital』の円環的なテーマにも通じる。My Morning Jacketの作品には、時間が巡るという発想が一貫して存在している。

「Rollin Back」は、アルバムの流れの中では目立ちすぎない曲かもしれない。しかし、その穏やかな揺れは、『It Still Moves』の持つ旅の感覚を支えている。大きなロックの山場の後に、この曲が置かれることで、聴き手は再び内省的な空間へ戻される。

この曲は、My Morning Jacketの余白の使い方を示す楽曲である。強いサビや派手な展開がなくても、音の流れと声の響きによって、深い感情の場所を作ることができる。本作の広がりを支える重要な一曲である。

10. Just One Thing

「Just One Thing」は、タイトルが示すように、何か一つの大切なもの、言いたいこと、求めているものに焦点を当てた楽曲である。My Morning Jacketの歌詞はしばしば抽象的だが、この曲では「ただ一つ」という言葉によって、複雑な感情の中から本質を探ろうとする感覚がある。

音楽的には、落ち着いたテンポのフォークロックであり、Jim Jamesの声が中心に置かれている。ギターは柔らかく、リズムは控えめで、曲全体に静かな集中がある。大きく広がるというより、内側へ向かっていく曲である。

歌詞では、関係や人生の中で本当に必要なものは何かが問われる。多くのものを求め、多くの感情に揺れながらも、最終的に重要なのは一つだけかもしれない。その一つが愛なのか、真実なのか、許しなのか、自由なのかは明確にされない。だからこそ、曲は広い解釈を持つ。

この曲の魅力は、シンプルな言葉と静かな演奏によって、感情の核心へ近づいていく点にある。『It Still Moves』には大きな音の広がりが多いが、「Just One Thing」は、その広がりの中で、最も小さく、しかし重要なものを探す曲である。

「Just One Thing」は、アルバム終盤における内省的な楽曲として機能している。大きな旅の途中で、聴き手はここで立ち止まり、自分にとっての「一つのもの」を考えることになる。

11. Steam Engine

「Steam Engine」は、『It Still Moves』の中でも特に長大で、My Morning Jacketの初期を代表する名曲の一つである。タイトルは「蒸気機関」を意味し、古い機械、移動、力、反復、歴史、アメリカの鉄道的なイメージを呼び起こす。曲そのものも、ゆっくりと熱を帯び、巨大な機関のように動き出していく。

音楽的には、静かな導入から始まり、時間をかけて徐々に広がっていく。ギター、ドラム、ベース、声が少しずつ積み重なり、曲は大きな感情の波へ向かう。派手な展開を急がず、ゆっくりと圧力を高めていく構成が非常に印象的である。My Morning Jacketの「長さ」が単なる冗長さではなく、感情の蓄積であることを示す楽曲である。

歌詞では、存在の不思議、愛、孤独、人生の流れ、音楽そのものへの問いが断片的に現れる。蒸気機関というタイトルは、古い移動手段の象徴でありながら、心や身体の中で動き続けるエネルギーの比喩としても読める。人は止まっているように見えても、内部では何かが動き続けている。これはアルバムタイトル『It Still Moves』とも深く響き合う。

この曲の重要な点は、静けさと爆発の関係にある。My Morning Jacketは、いきなり大きな音を鳴らすのではなく、長い時間をかけて聴き手を曲の中へ引き込み、最後に感情を大きく開放する。この構成は、ライブ・バンドとしての彼らの本質そのものである。

「Steam Engine」は、本作の精神的な頂点の一つである。音楽は蒸気のように立ち上がり、機関のように動き、最後には広大な空間へ解き放たれる。My Morning Jacketの初期の美学が最も深く結晶化した大曲である。

12. One in the Same

アルバムを締めくくる「One in the Same」は、静かで穏やかな終曲である。タイトルは「同じ一つのもの」「結局は同一である」という意味を持ち、分離しているように見えるものが、実はつながっているという感覚を示している。『It Still Moves』の長い旅は、この曲で静かな統合へ向かう。

音楽的には、アコースティックで控えめなアレンジが中心である。大きなロックのクライマックスではなく、アルバムは柔らかい余韻の中で終わる。Jim Jamesの声は遠く、祈りのように響く。ここでは音の巨大さよりも、静かな受容が重要である。

歌詞では、違うもの、離れているもの、対立しているように見えるものが、最終的には同じものなのではないかという感覚が示される。愛と別れ、動きと静止、個人と世界、過去と現在。アルバム全体を通じて描かれてきた広大な風景や感情が、ここで一つの穏やかな理解へ収束するように感じられる。

この曲の終わり方は、『It Still Moves』というタイトルにふさわしい。アルバムは終わるが、動きは止まらない。音は静かになっても、余韻は残り続ける。人と人、音と空間、記憶と現在は、どこかでつながり続ける。My Morning Jacketは、最後にそのつながりを静かに示す。

「One in the Same」は、大きな旅の後の祈りのような曲である。壮大な『It Still Moves』を、過剰な結論ではなく、柔らかな統合感で閉じる。非常に美しい終曲である。

総評

『It Still Moves』は、My Morning Jacketの初期キャリアにおける最大の到達点であり、2000年代アメリカン・インディーロックにおける重要なアメリカーナ/サイケデリックロック作品である。本作は、バンドが『The Tennessee Fire』『At Dawn』で培った広大なリヴァーブ、南部的な土着性、フォークロックの温かさ、サイケデリックな浮遊感を、最も大きなスケールで結実させている。

本作の魅力は、空間の大きさにある。My Morning Jacketの音は、単に楽器が鳴っているだけではなく、場所そのものを作る。山間のホール、古い納屋、夜の野外ステージ、誰もいない道路、広い空。そうした場所が音の中に立ち上がる。Jim Jamesの声は、その空間に反響し、個人の感情を大きな風景へ変える。この声と空間の関係こそが、『It Still Moves』の最大の特徴である。

音楽的には、サザンロック、フォーク、カントリー、サイケデリック、ジャムロックが自然に混ざっている。『One Big Holiday』や「Run Thru」ではギター・ロックの力強さが前面に出る一方、「Golden」や「I Will Sing You Songs」「One in the Same」では静かなフォーク的美しさが表れる。「Dancefloors」や「Easy Morning Rebel」では、ホーンを交えた祝祭感もある。アルバムは長いが、その長さの中に多様な風景がある。

歌詞の面では、本作は抽象的で感覚的である。明確な物語よりも、愛、記憶、旅、孤独、時間、光、祈りの断片が重要になる。これは、具体的な地名や人物を中心にするアメリカーナとは異なるが、My Morning Jacketならではの精神的な広がりを生んでいる。Jim Jamesは、個人的な感情を、空や光や音のような大きなものへ変える作詞家である。

『It Still Moves』は、後の『Z』と比較すると、より長く、より土臭く、より自然発生的である。『Z』では曲の構成が引き締まり、音響的な洗練が増すが、本作には、バンドが自分たちの音を最大限に広げていく初期ならではの勢いがある。荒削りではあるが、その荒さが魅力になっている。音が広がりすぎる瞬間も含めて、このアルバムはMy Morning Jacketの大きな呼吸そのものである。

また、本作はライブ・バンドとしてのMy Morning Jacketの本質を強く示している。「One Big Holiday」「Run Thru」「Steam Engine」のような曲は、スタジオ録音でありながら、ライブでさらに伸びていく可能性を内包している。曲は固定された完成形というより、演奏されるたびに動き続けるものとして存在している。これもタイトル『It Still Moves』と深く関係している。

日本のリスナーにとって本作は、My Morning Jacketの初期の魅力を理解するうえで欠かせないアルバムである。『Z』の洗練されたインディーロック的な入口とは異なり、本作はよりアメリカ南部的で、広大で、時間をかけて味わう作品である。短いポップソングの即効性よりも、音の余韻、曲の長さ、空間の広がりに身を委ねることで、その魅力が見えてくる。

総じて『It Still Moves』は、広大なアメリカーナ・サイケデリックロックの名盤である。黄金色の光、踊る床、長い休日、歌を届ける約束、蒸気機関のように動き続ける心、そして最後にすべてが一つであるという静かな感覚。本作は、My Morning Jacketが自分たちの音楽を最も大きく、最も自然に鳴らした作品であり、彼らの原点を知るための決定的な一枚である。

おすすめアルバム

1. My Morning Jacket – At Dawn(2001)

『It Still Moves』の前作であり、My Morning Jacket初期のリヴァーブに包まれたフォークロック/アメリカーナの美学が濃く表れた作品である。本作よりも素朴で内省的だが、Jim Jamesの声と広い音響空間の原型を理解するうえで重要である。

2. My Morning Jacket – Z(2005)

『It Still Moves』の次作であり、バンドが初期の広大なサザン・サイケデリックから、より洗練された音響的インディーロックへ進化した代表作である。『It Still Moves』が自然に広がる作品だとすれば、『Z』はその広がりを凝縮し、再設計した作品である。

3. My Morning Jacket – Circuital(2011)

『Z』や『Evil Urges』での実験を経た後、バンドが再び大きなロック・サウンドとアメリカーナ的な温かさへ戻った作品である。『It Still Moves』の広がりを、より成熟した視点で再解釈したアルバムとして聴くことができる。

4. Neil Young & Crazy Horse – Everybody Knows This Is Nowhere(1969)

長いギターのうねり、素朴なメロディ、アメリカーナ的な風景、荒々しいバンド・サウンドという点で、My Morning Jacketの重要な源流として聴くことができる作品である。『It Still Moves』のギターの伸びやライブ的な感覚を理解するうえで関連性が高い。

5. The Flaming Lips – The Soft Bulletin(1999)

サイケデリックな音響、広大な空間、精神的な歌詞、インディーロックのスケール感という点で、『It Still Moves』と響き合う作品である。The Flaming Lipsはよりスタジオ的で幻想的だが、ロックを大きな感情と宇宙的な空間へ拡張する姿勢に共通点がある。

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