
1. 楽曲の概要
「Going for the One」は、イギリスのプログレッシブ・ロック・バンド、Yesによる楽曲である。1977年にリリースされた8作目のスタジオ・アルバム『Going for the One』のオープニング・トラックであり、同作のタイトル曲でもある。アルバムはAtlantic Recordsから発表され、Yesにとって1974年の『Relayer』以来となるスタジオ・アルバムとなった。
この時期のYesは、1970年代前半の長大な組曲路線を経た後、再び比較的コンパクトで明快な楽曲へ向かっていた。『Tales from Topographic Oceans』や『Relayer』では、アルバム全体を大きな構想でまとめる傾向が強かったが、『Going for the One』では「Awaken」のような大作を含みつつも、タイトル曲や「Wonderous Stories」のように、より短く、直接的な曲も配置されている。
「Going for the One」は、その変化を最初に示す曲である。演奏時間は約5分半で、Yesの1970年代中盤までの作品と比べると短い。だが、内容は単純ではない。Steve Howeのペダル・スティール・ギターを前面に出した高速のロックンロール的な推進力、Chris Squireの前に出るベース、Alan Whiteの直線的なドラム、Rick Wakemanのキーボード、Jon Andersonの高音ヴォーカルが密度高く組み合わされている。
アルバム『Going for the One』は、Rick Wakemanがバンドに復帰した作品でもある。『Relayer』ではPatrick Morazがキーボードを担当していたが、本作ではWakemanが戻り、Yesのクラシック期の代表的な編成に近い形が再び成立した。タイトル曲「Going for the One」は、その再始動の勢いを象徴する楽曲といえる。
2. 歌詞の概要
「Going for the One」の歌詞は、競争、挑戦、到達、自己超越をめぐる言葉を中心にしている。タイトルの「Going for the One」は、直訳すれば「一番を狙う」「頂点を目指す」といった意味になる。歌詞には、レースや競技を思わせる言葉が現れ、何かを追いかけ、そこへ到達しようとする力が描かれている。
ただし、この曲は単純な勝利の歌ではない。Yesの歌詞らしく、言葉は非常に抽象的で、スポーツや競争をそのまま説明しているわけではない。馬、トラック、追走、ポイント、アイデアといった断片が並び、身体的な競争と精神的な探求が重なっている。ここでの「one」は、順位の一番であると同時に、統一された目的、中心、理想の場所を示しているとも読める。
語り手は、何かを目指して前進している。だが、その前進は力任せではない。歌詞の中には、意識を広げること、別の見方を持つこと、直感的に進むことへの感覚がある。これはYesの作品にしばしば見られる、精神的な成長や高次の調和への志向とつながっている。
また、歌詞のリズムはサウンドと密接に結びついている。言葉は説明のためにゆっくり置かれるのではなく、速い演奏の中で跳ねるように配置される。意味を一つに絞るより、音の流れに乗せて、前へ進む感覚を作っている。抽象的な歌詞でありながら、曲全体から受ける印象は非常に運動的である。
3. 制作背景・時代背景
「Going for the One」が制作された1976年から1977年にかけて、Yesは一つの転換期にあった。『Close to the Edge』や『Tales from Topographic Oceans』でプログレッシブ・ロックの大作主義を極めた後、バンドは『Relayer』でより硬質でジャズ・ロック的な方向にも進んだ。その後、各メンバーはソロ・アルバムを制作し、Yesとしての活動には一時的な区切りが生じていた。
『Going for the One』の制作はスイスのモントルーにあるMountain Studiosで行われた。これまで長く関わってきたEddy Offordから離れ、バンド自身がプロデュースを担当した点も重要である。環境、スタッフ、音作りの面で変化があり、作品全体に新しい始まりの感覚がある。
Rick Wakemanの復帰も大きな出来事だった。彼は『Tales from Topographic Oceans』後に一度バンドを離れていたが、本作で再加入した。これにより、Jon Anderson、Steve Howe、Chris Squire、Alan White、Rick Wakemanという編成が成立し、Yesの持つ高い演奏力と華やかなキーボード・サウンドが再び一つにまとまった。
1977年という時代も重要である。イギリスではパンク・ロックが急速に台頭し、長尺で技巧的なプログレッシブ・ロックは批判の対象にもなっていた。そうした状況の中で、Yesがアルバムの冒頭に置いたのが、5分台の速いロック曲「Going for the One」だったことは興味深い。バンドは完全にパンクへ接近したわけではないが、少なくとも以前より直接的で引き締まった曲を作ろうとしていたと考えられる。
アルバム『Going for the One』は商業的にも成功した。イギリスではアルバム・チャート1位を記録し、アメリカでも高い順位に達した。タイトル曲はシングルとしても発表され、同じアルバムからは「Wonderous Stories」もヒットした。Yesが1970年代後半にも依然として強い支持を持っていたことを示す作品である。
4. 歌詞の抜粋と和訳
Going for the one
和訳:
一つの頂点を目指している
このフレーズは、曲の中心にある動きを示している。「one」は単なる順位の一番だけではなく、目標、中心、完成された状態としても読める。曲の速いテンポや前のめりな演奏と結びつくことで、到達への強い意志が音としても伝わる。
Get the idea cross around the track
和訳:
その考えをトラックの周りへ行き渡らせる
この一節には、競技場やレースを思わせる言葉が含まれている。ただし、ここで走っているのは身体だけではなく、思考や直感でもある。Yesの歌詞らしく、具体的なスポーツの描写と精神的なイメージが混ざっている。
Underneath the flank of a thoroughbred racing chaser
和訳:
競走馬の脇腹の下で、追走するように
この部分は、馬のレースを思わせる強い身体性を持つ表現である。スピード、筋肉、追走、競争のイメージが重なり、曲の激しい演奏とよく対応している。抽象的な歌詞の中でも、ここでは前へ走る感覚がかなり明確に出ている。
歌詞の引用は批評・解説に必要な最小限にとどめている。原詞の権利は権利者に帰属する。
5. サウンドと歌詞の考察
「Going for the One」のサウンドで最初に耳を引くのは、Steve Howeのペダル・スティール・ギターである。ペダル・スティールはカントリー音楽と結びつきやすい楽器だが、この曲では牧歌的な響きとしてではなく、鋭いロックの推進力として使われている。滑るような音程変化と硬いアタックが、曲全体に独特の高揚感を与えている。
冒頭から曲は非常に速い。Yesの長尺曲に見られるゆっくりした導入や複雑な場面設定はなく、すぐに演奏が前へ走り出す。この即時性が、アルバムのオープニングとして大きな効果を持っている。『Going for the One』というアルバムが、過去の大作主義だけに戻るのではなく、新しい速度と明快さを持つ作品であることを示している。
Alan Whiteのドラムは、曲を強く前へ押し出している。Bill Bruford時代のYesにあったジャズ的な軽さとは異なり、Whiteの演奏はよりロック的で、力強い。複雑なアクセントもあるが、曲の中心には直線的な推進力がある。この違いが「Going for the One」の身体的な勢いにつながっている。
Chris Squireのベースは、ここでも非常に存在感が大きい。Squireのベースは、単に低音を支えるだけでなく、ギターやヴォーカルと対等に動く。硬質で明るい音色が曲のスピード感をさらに強め、ベースラインそのものが楽曲の推進装置になっている。ペダル・スティールの滑る音と、ベースの硬い輪郭の対比が面白い。
Rick Wakemanのキーボードは、タイトル曲においては大作「Awaken」ほど前面に出続けるわけではない。しかし、ピアノやオルガンの響きが曲の背後で厚みを作り、Yesらしい華やかさを加えている。特に速いロック曲でありながら、単なるギター・バンドの音にならないのは、Wakemanのキーボードが空間を広げているためである。
Jon Andersonのヴォーカルは、曲のスピードの中で非常に高く、明るく響く。歌詞は抽象的だが、声の調子は前向きで、上昇する感覚がある。Andersonの声は、演奏の荒々しさを中和し、Yesらしい透明感を保っている。ロックンロール的な勢いと、精神的な高揚を同時に成立させている点が重要である。
コーラス・ワークも曲の印象を決定づけている。Yesの強みである複数声のハーモニーは、この曲でも演奏の密度の中に明るい輪郭を作る。速いテンポでありながら、声が重なる場面では一瞬視界が開けるような効果がある。これは「Roundabout」や「Siberian Khatru」にも通じる、Yes特有の合唱感である。
曲の構成は、1970年代前半のYesの大作と比べるとかなり引き締まっている。長い静寂や大きな組曲的展開はなく、楽曲はほぼ一貫して前進する。だが、その中には細かな変化が多い。ギターのフレーズ、ヴォーカルの入り方、キーボードの装飾、ベースの動きが絶えず変わり、単調なロックンロールにはならない。
歌詞との関係で見ると、この曲のサウンドは「目標へ向かって走る」感覚を非常に直接的に表している。レース、追走、頂点を目指すというイメージは、ペダル・スティールの鋭い走りとドラムの推進力によって音楽的に具体化される。Yesの歌詞は抽象的だが、この曲ではサウンドが意味を補っているため、聴き手は前進のエネルギーを直感的に受け取ることができる。
「Roundabout」と比較すると、「Going for the One」はよりロックンロール的である。「Roundabout」は複雑な構成とポップなフックを両立した曲だったが、タイトル曲はもっと直線的で、演奏の勢いが前に出ている。Yesが技巧的なバンドでありながら、ロックの身体性を失っていないことを示す楽曲である。
「Siberian Khatru」と比較しても興味深い。「Siberian Khatru」もリフとスピード感が強い曲だが、9分近い長尺の中で複数のセクションを展開する。「Going for the One」はその要素を圧縮し、5分台の曲として提示している。1977年のYesが、過去の複雑さを保ちながらも、より短い形で聴かせようとしていたことがわかる。
アルバム内では、「Going for the One」は非常に重要な役割を持つ。続く「Turn of the Century」は叙情的で繊細な曲であり、「Parallels」はオルガンを前面に出した力強い曲、「Wonderous Stories」はポップで幻想的な小品、「Awaken」は15分を超える大作である。タイトル曲はその入口として、まずバンドが力強く戻ってきたことを宣言している。
また、この曲はアルバム全体のテーマとも関係している。『Going for the One』には、到達、再生、精神的な目覚めといった感覚がある。タイトル曲はその中で最も身体的で、運動的な形を取っている。最後の「Awaken」がより荘厳で精神的な到達を描くのに対し、「Going for the One」は走り出す瞬間の曲である。
1977年という時代を考えると、この曲の意味はさらに明確になる。パンクがプログレッシブ・ロックの肥大化を批判していた時期に、Yesは大作を完全に放棄するのではなく、短く速い曲で自分たちの演奏力を示した。これは時代への迎合ではなく、バンド内部からの再整理だったといえる。「Going for the One」は、その再整理の最も明快な例である。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Siberian Khatru by Yes
1972年の『Close to the Edge』収録曲で、リフの推進力と複雑なアンサンブルが特徴である。「Going for the One」より長尺だが、ギター、ベース、ヴォーカルが絡み合いながら前へ進む感覚に共通点がある。Yesのロックンロール的な側面を深く聴きたい場合に適している。
- Roundabout by Yes
『Fragile』の代表曲であり、Yesの技巧とポップ性が高い水準で結びついた楽曲である。「Going for the One」より構成は複雑だが、ベース・リフの強さ、コーラスの明快さ、演奏の躍動感には共通点がある。Yesの代表的な入口としても聴きやすい。
- Parallels by Yes
同じ『Going for the One』に収録された曲で、Chris Squire作の力強いナンバーである。教会オルガンを含むキーボードの厚みと、前に出るベースが印象的で、アルバムのロック色を支えている。「Going for the One」の勢いが好きな人に合う。
- Sound Chaser by Yes
1974年の『Relayer』収録曲で、より硬質でジャズ・ロック的なYesを聴ける楽曲である。「Going for the One」より複雑で攻撃的だが、スピード、リズムの緊張、演奏の密度という点で比較できる。Alan White期のYesの激しい側面を知るうえで重要である。
- Karn Evil 9: 1st Impression, Part 2 by Emerson, Lake & Palmer
同時代のプログレッシブ・ロックにおける、技巧とロック的な推進力を両立した代表曲である。Yesとは音色や歌詞の方向性が異なるが、速いテンポ、派手なキーボード、ショー的な高揚感という点で「Going for the One」と並べて聴きやすい。
7. まとめ
「Going for the One」は、Yesの1977年のアルバム『Going for the One』の冒頭を飾るタイトル曲であり、バンドの再始動を象徴する楽曲である。Rick Wakemanの復帰、バンド自身によるプロデュース、スイスでの制作という新しい環境の中で、Yesは長大な組曲だけではない、短く速いロック曲として自分たちの力を示した。
歌詞では、競争、到達、精神的な目標をめぐる抽象的な言葉が並ぶ。レースや馬を思わせるイメージは、曲の強い推進力と結びついている。「one」は順位の一番であると同時に、理想や中心、統一された目標を示す言葉として機能している。
サウンド面では、Steve Howeのペダル・スティール・ギターが最も印象的である。カントリー由来の楽器を、Yesは鋭いロックの推進力として使っている。Chris Squireの前に出るベース、Alan Whiteの力強いドラム、Rick Wakemanのキーボード、Jon Andersonの高音ヴォーカルが密集し、5分台の中にYesらしい複雑さと勢いを詰め込んでいる。
「Going for the One」は、1977年のプログレッシブ・ロックが置かれていた状況の中で、Yesが自らを再定義した曲である。大作志向を捨てるのではなく、それを短いロック曲の中に圧縮する。そこに、この曲の重要性がある。Yesの技巧、明るい高揚感、ロックとしての身体性が一体になった、後期1970年代の代表的な楽曲といえる。
参照元
- Yes Official – Going for the One
- Rhino – Going for the One
- AllMusic – Going for the One by Yes
- Discogs – Yes – Going for the One
- Spotify – Going for the One by Yes
- YouTube – Yes – Going for the One
- Pitchfork – Yes: The Yes Album / Fragile / Close to the Edge / Tales from Topographic Oceans / Relayer / Going for the One Review
- Progarchy – Going for the One
- Wikipedia – Going for the One
- Wikipedia – Yes discography

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