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80年代カレッジ・ロックを知るなら、まず名盤から
1980年代のカレッジ・ロックは、のちのオルタナティブ・ロックやインディーロックへつながる重要な流れである。アメリカの大学ラジオ局を中心に、メインストリームのロックとは異なる音楽が支持され、R.E.M.やThe Replacements、Hüsker Dü、Pixiesといったバンドが存在感を高めていった。
ただし、カレッジ・ロックは特定の音楽様式だけを意味するジャンルではない。1960年代のフォークロックを思わせるギターから、ポストパンク、パンク、ハードコア、サイケデリアまで、バンドごとに音楽性は大きく異なる。
だからこそ、入口には代表的なアルバムを通して聴く方法が適している。1980年代前半から後半へ時系列で名盤を追えば、アメリカのアンダーグラウンドなロックが、1990年代のオルタナティブ・ロック隆盛へ向かっていく過程も見えてくる。
80年代カレッジ・ロックとはどんなジャンルか
カレッジ・ロックという呼称は、主に1980年代のアメリカで大学ラジオ局の放送を通して広まったロックを指して使われた。巨大レーベルや商業ラジオとは異なる経路で、新しいバンドやインディーレーベルの作品がリスナーへ届いていたことが背景にある。
音楽的には、R.E.M.のようなジャングリーなギターロック、The Replacementsのパンク由来のロックンロール、Hüsker Düのハードコア以降のサウンド、Pixiesの静と動を生かしたオルタナティブ・ロックなどが同じ文脈で語られる。つまり、共通するのはひとつの音色というより、既存のメインストリームとは異なる音楽を大学ラジオやインディーシーンが支えたという文化的背景なのである。
この流れは1990年代になると、より広い意味でのオルタナティブ・ロックへとつながっていく。
80年代カレッジ・ロックの名盤10選
1. Murmur by R.E.M.
1983年発表の『Murmur』は、80年代カレッジ・ロックを象徴する一枚である。ジョージア州アセンズから登場したR.E.M.は、大学ラジオを通じて支持を広げ、その後のアメリカン・オルタナティブ・ロックに大きな道筋を作った。
Peter Buckによるジャングリーなギター、Mike MillsとBill Berryによるリズムセクション、Michael Stipeのどこか曖昧さを残したヴォーカルが特徴だ。「Radio Free Europe」などでは、パンク以降の感覚と1960年代のフォークロックにも通じるギターサウンドが自然に結びついている。
カレッジ・ロックを一枚だけ聴くなら、まず候補にしたい作品である。派手なギターソロではなく、バンド全体のアンサンブルと楽曲のフックに注目すると魅力がわかりやすい。
2. Zen Arcade by Hüsker Dü
1984年発表の『Zen Arcade』は、ミネアポリスのHüsker Düがハードコア・パンクの枠を大きく押し広げた2枚組アルバムである。
高速で荒々しい演奏を残しながら、メロディアスなギターロック、アコースティックな楽曲、サイケデリックな実験などを取り込み、アメリカのインディーロックが向かう新しい可能性を提示した。Bob MouldとGrant Hartという二人のソングライターを擁していたこともバンドの強みである。
カレッジ・ロックのなかでもパンク寄りの作品を探している人に適している。1990年代のオルタナティブ・ロックが突然生まれたわけではないことを理解するうえでも重要な作品だ。
3. Let It Be by The Replacements
1984年発表。The Replacementsの『Let It Be』は、パンクの勢いと優れたポップソングを書く力が同居した80年代アメリカン・インディーの代表作である。
初期の荒々しいパンクから一歩進み、「I Will Dare」のような軽快なギターロック、「Androgynous」のようなピアノを中心とした曲まで収録している。Paul Westerbergのソングライティングが大きく成長した作品としても重要だ。
演奏には粗さが残る一方、曲そのものは驚くほど親しみやすい。パンクとオルタナティブ・ロックの間をつなぐカレッジ・ロックを知りたい初心者におすすめしやすい一枚である。
4. Reckoning by R.E.M.
1984年発表の『Reckoning』は、『Murmur』に続くR.E.M.のセカンドアルバムである。カレッジ・ロックの中心的存在だった彼らの初期サウンドを、よりストレートな形で楽しめる。
「So. Central Rain (I’m Sorry)」や「(Don’t Go Back To) Rockville」など、メロディの輪郭がつかみやすい楽曲が並ぶ。Peter Buckのギターは引き続き重要だが、フォークロックやカントリーにも通じるアメリカ的な感覚がより見えやすくなっている。
『Murmur』の独特な音像が少し取っつきにくいと感じる場合は、こちらから聴き始めるのもよい。R.E.M.が大学ラジオの人気バンドからさらに大きな存在へ成長していく過程を捉えた重要作である。
5. Tim by The Replacements
1985年の『Tim』は、The Replacementsがメジャーレーベルへ移籍して発表したアルバムであり、バンドの代表作のひとつである。
「Bastards of Young」のような荒々しいロックから、「Kiss Me on the Bus」のようなポップな楽曲、「Here Comes a Regular」のような抑制された曲まで、Paul Westerbergの作曲能力が幅広く発揮されている。
インディーシーンから登場したバンドが、個性を残しながらより大きなリスナー層へ届こうとした作品としても興味深い。カレッジ・ロックと後のオルタナティブ・ロックを結ぶ一枚として聴きたい。
6. The Queen Is Dead by The Smiths
1986年発表の『The Queen Is Dead』は英国のThe Smithsによる代表作であり、アメリカの大学ラジオでも支持された、カレッジ・ロック文化を語るうえで重要な作品である。
Johnny Marrの繊細で複雑なギターワークと、Morrisseyの特徴的なヴォーカル/歌詞によって、当時のメインストリームなハードロックとはまったく異なるギターミュージックを提示した。「There Is a Light That Never Goes Out」など、後世のインディーロックへ大きな影響を残した楽曲も収録されている。
アメリカのカレッジ・ロックが国内バンドだけで成立していたわけではなく、英国のポストパンクやインディーとも結びついていたことを理解するために押さえておきたい。
7. Document by R.E.M.
1987年発表の『Document』は、R.E.M.がカレッジ・ロックの代表格からメインストリームへ接近していく重要な転換点となった作品である。
「The One I Love」「It’s the End of the World as We Know It (And I Feel Fine)」といった代表曲を収録し、初期作品に比べてギターやドラムの輪郭が力強くなっている。プロデューサーのScott Littとの最初のアルバムでもあり、その後のR.E.M.の飛躍につながった。
初期のジャングリーな魅力と、後の大規模なロックバンドとしての姿をつなぐ一枚である。カレッジ・ロックが商業的にも影響力を増していった1980年代後半の空気を知ることができる。
8. You’re Living All Over Me by Dinosaur Jr.
1987年発表の『You’re Living All Over Me』は、Dinosaur Jr.の初期を代表する作品であり、インディーロックとノイズ、ハードコア、クラシックロック的なギタープレイを結びつけた重要作である。
J Mascisのファズを強くかけたギターと大音量のソロは、R.E.M.やThe Smithsのジャングリーなギターとは対照的だ。しかし、こうしたバンドも大学ラジオやインディーシーンを通して支持され、後のオルタナティブ・ロックへ大きな影響を与えた。
ノイズの多いギターロックが好きなら、カレッジ・ロックから1990年代オルタナティブへ進むための重要な一枚となる。
9. Surfer Rosa by Pixies
1988年発表の『Surfer Rosa』は、ボストンで結成されたPixiesの初期を代表するアルバムである。Steve Albiniによる生々しい録音も含め、1980年代末のアメリカン・オルタナティブを象徴する作品となった。
「Gigantic」「Where Is My Mind?」などを収録し、静かなパートから突然激しいギターへ切り替わるダイナミクス、Black FrancisとKim Dealのヴォーカル、Joey Santiagoの独特なギターが大きな特徴である。
後のオルタナティブ・ロックやグランジへの影響を考えるうえでも重要だ。80年代カレッジ・ロックが90年代へどうつながったのかを知るなら外せない。
10. Doolittle by Pixies
1989年発表の『Doolittle』は、Pixiesの代表作であると同時に、80年代カレッジ・ロックから90年代オルタナティブ・ロックへ向かう流れを象徴するアルバムである。
「Debaser」「Here Comes Your Man」「Monkey Gone to Heaven」など、短く強烈な楽曲が並ぶ。『Surfer Rosa』の荒々しさを残しながら、より整理されたプロダクションとキャッチーなメロディを獲得しているのが特徴だ。
ノイズとポップの両方を楽しめるため、現在のリスナーにも入りやすい。R.E.M.が80年代前半のカレッジ・ロックを象徴する存在だとすれば、『Doolittle』はその文化が次の時代へ接続する地点を示す一枚といえる。
初心者におすすめの3枚
最初の3枚としておすすめしたいのは、R.E.M.『Murmur』、The Replacements『Let It Be』、Pixies『Doolittle』である。
『Murmur』はカレッジ・ロックという言葉から連想される1980年代前半のギターバンド像を知るための基準点になる。派手なハードロックとは異なる、ジャングリーなギターとバンドアンサンブルを味わえる作品だ。
『Let It Be』では、パンクの荒々しさが優れたポップソングへ変化していく過程を聴くことができる。そして『Doolittle』まで進めば、ノイズ、ポップ、パンクを横断するサウンドが1990年代のオルタナティブ・ロックへ接続していく様子が見えてくる。
この3枚を年代順に聴くだけでも、80年代カレッジ・ロックの変化をかなり具体的につかめるはずである。
関連ジャンルへの広がり
カレッジ・ロックをさらに掘り下げるなら、インディーロックは最も自然な行き先である。大学ラジオとインディーレーベルが支えた1980年代の文化は、1990年代以降のインディーシーンへさまざまな形で受け継がれていった。
また、Hüsker DüやThe Replacementsの荒々しいサウンドが気に入った場合は、パンクやハードコア・パンクをさかのぼると背景が見えやすい。反対にR.E.M.やThe Smithsのギターを好むなら、ポストパンクや1960年代のフォークロックまで範囲を広げると、それぞれのルーツを理解できる。
まとめ
80年代カレッジ・ロックは、特定のサウンドだけで定義できるジャンルではない。R.E.M.のジャングリーなギター、Hüsker Düのハードコア由来の速度とノイズ、The Replacementsのロックンロール、The Smithsの英国インディー、Dinosaur Jr.のファズギター、Pixiesの大胆なダイナミクスまで、多様な音楽が大学ラジオという文化的な接点で結びついていた。
初心者なら、まずR.E.M.『Murmur』で1980年代前半のカレッジ・ロックを知り、The Replacements『Let It Be』でパンクとの接点を確認し、Pixies『Doolittle』で1980年代末まで進むと流れを理解しやすい。
その先にはインディーロックやオルタナティブ・ロック、グランジへと続く巨大な系譜がある。80年代の代表作を聴くことは、1990年代以降のギターロックがどこから生まれてきたのかを知るための格好の入口なのである。

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