発売日: 1977年11月18日
ジャンル: ポストパンク、パンクロック
1977年、ロンドンから登場したWireのデビューアルバムPink Flagは、パンクロックとポストパンクをつなぐ橋渡しとなった革新的な作品だ。当時のパンクバンドが放つ激しさや反骨精神を受け継ぎつつ、実験的でミニマルなアプローチが特徴的な本作は、後続のオルタナティブやポストパンクシーンに多大な影響を与えた。
全21曲というボリュームにもかかわらず、トータルで約36分という短さに収まる構成は、スピーディかつ無駄のない仕上がりを実現している。それぞれの曲が個性的でありながら、全体として統一感があるのもこのアルバムの魅力だ。荒々しいギターリフと冷徹なリズムセクション、そしてColin Newmanの無機質で風変わりなボーカルスタイルが特徴的で、1977年という時代においても異彩を放っていた。
トラックごとの解説
1. Reuters
アルバムの幕開けを飾る異様な雰囲気のトラック。緊張感のあるベースラインと不穏な歌詞がリスナーを圧倒する。「報道」をテーマにしたこの曲は、冷酷で暴力的な現実を描き出している。
2. Field Day for the Sundays
わずか28秒の短さながら、ギターの激しさと突き刺さるようなエネルギーが詰まった曲。パンクの短命な美学を体現している。
3. Three Girl Rhumba
リズミカルでシンプルなギターリフが印象的。後にElasticaがこのリフを“Connection”で引用するなど、長く影響を与え続けた。
4. Ex Lion Tamer
「テレビを見すぎるな」と歌う皮肉の効いた歌詞が特徴。パンク的な反骨精神を持ちながらも、メロディアスな要素が垣間見える。
5. Lowdown
ダークで重厚なベースラインが曲全体を支配する。ミニマルながらも深みのある構成が魅力的だ。
6. Start to Move
シンプルで直線的なパンクナンバー。疾走感があり、ライブ映えする楽曲だ。
7. Brazil
遊び心のあるリリックと奇妙な構成が特徴的。Wireの実験精神が詰まった楽曲の一つ。
8. It’s So Obvious
タイトル通り、ストレートで直接的なアプローチが印象的なトラック。Colin Newmanの冷静なボーカルが際立つ。
9. Surgeon’s Girl
曲の短さに反して、緊張感のある展開が印象的。物語性を感じさせる歌詞が魅力だ。
10. Pink Flag
アルバムのタイトル曲であり、シンプルなギターリフと反復的な構成が特徴。反権力の象徴として掲げられる「ピンクの旗」が印象的な一曲だ。
11. The Commercial
実験的で風変わりな楽曲。短いながらも、Wireのユニークな個性が詰まっている。
12. Straight Line
疾走感のあるエネルギッシュなパンクナンバー。シンプルだが飽きさせない。
13. 106 Beats That
無機質なギターリフとミステリアスな雰囲気が特徴。曲名が示すように、ビートの数やリズムにこだわりを感じる。
14. Mr. Suit
怒りと反骨精神に満ちたトラック。「スーツを着た偉い人たち」への皮肉が込められている。
15. Strange
中毒性のあるリフと不穏な歌詞が絡み合う一曲。R.E.M.がこの曲をカバーしたことで再評価された。
16. Fragile
繊細さと攻撃性が同居する楽曲。短いながらもインパクトがある。
17. Mannequin
ポップさとパンクのエネルギーが融合したキャッチーなトラック。歌詞は非人間性や空虚さを描いている。
18. Different to Me
ミニマルな構成の中に不穏なエネルギーが宿る一曲。短い中にも実験性が光る。
19. Champs
ギターリフが躍動感を生み出すエネルギッシュなトラック。ライブでも映えそうな楽曲だ。
20. Feeling Called Love
タイトルに反して、冷徹で無機質な雰囲気を持つ。皮肉の効いた歌詞が魅力的。
21. 12XU
アルバムを締めくくる疾走感あふれるトラック。わずか1分54秒の中にパンクのすべてが詰まっている。
パンクからポストパンクへの橋渡し
Pink Flagは、1977年というパンクロックの全盛期にリリースされたにもかかわらず、単なるパンクのアルバムにとどまらない実験的な作品だ。ミニマルなアプローチやリフの反復、非線形な構成が特徴的で、後のポストパンクムーブメントに大きな影響を与えた。このアルバムは、パンクのエネルギーを持ちながらも、独自の視点でその枠を押し広げた作品といえる。
アルバム総評
Pink Flagは、パンクロックの持つ破壊的なエネルギーと、ポストパンク的な知性が見事に融合した傑作だ。全21曲が短時間に凝縮されており、その密度の高さは驚異的である。Wireは、既存の音楽の型に挑戦し、新たな音楽の可能性を提示することに成功している。聴くたびに新たな発見があるアルバムであり、パンクやポストパンクの歴史に興味があるリスナーにとって必聴の一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Entertainment! by Gang of Four
鋭い政治的メッセージとミニマルなギターリフが特徴。Pink Flagのファンには必聴の一枚。
Marquee Moon by Television
ミニマルな構成と詩的な歌詞が魅力のアルバム。Wireの知的なアプローチと共通点が多い。
Metal Box by Public Image Ltd.
パンクの枠を超えた実験的なサウンドが、Wireの進化を彷彿とさせる。
The Modern Dance by Pere Ubu
アートパンクの名盤。実験精神とエネルギーがPink Flagと響き合う。
Unknown Pleasures by Joy Division
ポストパンクの名作で、Pink Flagが築いた音楽的基盤をさらに発展させた作品。
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