アルバムレビュー:Still Over It by Summer Walker

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2021年11月5日

ジャンル:R&B/コンテンポラリーR&B/オルタナティヴR&B/ネオ・ソウル

概要

Summer Walkerの2作目のスタジオ・アルバム『Still Over It』は、2019年のデビュー・アルバム『Over It』で提示された恋愛の疲弊、失望、欲望、依存、自己防衛といったテーマを、さらに私的で生々しい形へ押し進めた作品である。『Over It』は、現代R&Bのミニマルなビート、90年代R&Bへの敬意、囁くようなヴォーカル、赤裸々な歌詞によって、Summer Walkerを2010年代末以降のR&Bを代表する存在へ押し上げた。『Still Over It』はその続編であり、タイトルが示すように、彼女はまだ「over it」、つまり恋愛や関係の面倒ごとを乗り越えきれていない。しかし本作では、単なる未練ではなく、怒り、母性、裏切り、自己回復、女性同士の連帯がより強く描かれる。

本作の背景には、Summer WalkerとプロデューサーLondon on da Trackとの関係が色濃く反映されている。『Over It』の多くを手がけたLondonは、彼女の音楽的成功に大きく関わった人物である一方、私生活では複雑な関係を生んだ。本作は、その関係の終わり、その後の妊娠・出産、裏切りの感覚、共同養育への不信、そして自分を取り戻す過程を、アルバム全体の物語として構成している。したがって『Still Over It』は、単なる失恋アルバムではない。恋愛関係が女性の生活、身体、母性、精神、キャリアにどのような影響を与えるのかを描いた、非常に現代的なR&Bアルバムである。

音楽的には、前作同様にミニマルで空間の多いR&Bが中心である。派手なビートや大きな展開よりも、抑えたドラム、柔らかなギター、低く沈むベース、空気を多く含んだシンセサイザーが、Summer Walkerの声を前面に置く。彼女の歌唱は、力強く張り上げるタイプではなく、近距離で語りかけるような親密さが特徴である。その声は、怒りを叫ぶのではなく、疲れ切った声で言葉を落とすことで、かえって強いリアリティを生む。

本作には、SZA、Ari Lennox、JT、Lil Durk、Omarion、Pharrell Williams、Cardi B、Ciaraなど、多様なゲストが参加している。しかし、アルバムの中心はあくまでSummer Walkerの視点である。ゲストは彼女の物語を補強する役割を担う。Cardi Bの語りは冒頭で女性への忠告として機能し、Ciaraの祈りは終盤で癒やしと再生を象徴する。SZAやAri Lennoxは、女性R&Bアーティスト同士の連帯を示し、Lil DurkやOmarionは恋愛関係の別の角度を加える。

『Still Over It』の重要性は、現代R&Bにおける女性の語りをさらに率直にした点にある。1990年代のMary J. BligeやFaith Evans、2000年代のKeyshia Cole、2010年代以降のSZAやKehlani、Jhené Aikoらが築いてきた、恋愛の痛みを自分の言葉で歌うR&Bの系譜に、Summer Walkerは非常に個人的でSNS時代的な率直さを持ち込んだ。ここには、完璧に整えられたディーヴァ像ではなく、怒り、疲れ、嫉妬、不信、未練、母としての不安を抱えた生身の人物がいる。

日本のリスナーにとって本作は、英語圏R&Bの近年の流れを理解するうえで重要なアルバムである。派手なヒット・ソング集というより、ひとつの関係の始まりから崩壊、そして自己回復までを追う日記的な作品として聴くべきである。歌詞の具体性が非常に高いため、背景を知るほど深く響くが、同時に、相手に尽くしすぎた経験、信頼を裏切られた痛み、関係から抜け出した後も残る疲労感は、普遍的なテーマとして伝わる。

全曲レビュー

1. Bitter (Narration by Cardi B)

アルバム冒頭の「Bitter」は、Cardi Bによるナレーションであり、本作の序文として機能する。ここでCardi Bは、恋愛や男性関係で傷ついた女性に向けて、冷静でありながら率直な言葉を投げかける。歌ではなく語りで始まる構成は、『Still Over It』が単なる楽曲集ではなく、関係の後始末を語る物語であることを示している。

タイトルの「Bitter」は、「苦い」「恨みがましい」といった意味を持つ。恋愛の後に怒りや失望を抱える女性はしばしば「bitter」と見なされるが、この導入では、その感情が単なる未練ではなく、傷ついた人間が自分を守るために必要な反応として提示される。Cardi Bの語りは、友人が隣で忠告しているような親密さを持ち、アルバム全体の女性同士の会話的な性格を強めている。

2. Ex for a Reason feat. JT

「Ex for a Reason」は、City GirlsのJTを迎えたアップテンポ寄りのR&Bトラックで、元恋人や過去の女性関係に対する不信をテーマにしている。タイトルは「元恋人には元恋人である理由がある」という意味で、過去の関係が現在の恋愛に影を落とす状況を描く。

音楽的には、アルバムの中でも比較的軽快で、クラブ寄りのリズムを持つ。JTのラップは強気で、Summer Walkerの柔らかい歌唱と対照的である。この組み合わせによって、曲には怒りと自尊心の両方が生まれる。

歌詞では、相手の過去の恋人が関係に介入してくる不快感が描かれる。Summer Walkerは嫉妬を隠すのではなく、相手が境界線を曖昧にすることへの苛立ちを率直に表す。これは、恋愛における信頼の問題であり、相手が過去をきちんと終わらせていないことへの批判である。

3. No Love feat. SZA

「No Love」は、SZAを迎えた本作の代表曲のひとつであり、愛情が失われた後の関係を冷静に見つめる楽曲である。タイトル通り、ここでは「愛」はもはや中心にない。残っているのは身体的なつながり、未練、怒り、そして相手に期待しないという決意である。

音楽的には、滑らかなビートとメロディアスなフックが特徴で、現代R&Bとして非常に完成度が高い。Summer Walkerの声は疲れたように淡々としており、SZAの歌唱はより感情の揺れを含む。二人の声が重なることで、恋愛に傷ついた女性同士の共鳴が生まれる。

歌詞では、もし過去に戻れるなら、愛ではなくもっと軽い関係として扱うだろうという感覚が描かれる。これは単なる強がりではない。深く愛した結果、失望した人間が、自分を守るために「愛さない」という態度を選ぶ歌である。「No Love」は、『Still Over It』全体の核心である、愛の疲弊と自己防衛を象徴する楽曲である。

4. Throw It Away

「Throw It Away」は、関係を捨てること、あるいは相手が関係を粗末に扱ったことへの怒りをテーマにした楽曲である。タイトルには、せっかく築いたものを捨ててしまうという失望が込められている。

音楽的には、控えめなビートとメランコリックなコード進行が中心で、Summer Walkerの声が近くに置かれている。派手な展開はないが、その抑制が、関係の終わりに伴う疲労感を強めている。

歌詞では、相手が自分の愛や努力を当然のものとして扱い、結果的にすべてを台無しにしたことが描かれる。ここでの怒りは爆発的ではなく、呆れに近い。何度も期待し、何度も裏切られた末に、もう捨てるしかないという感情である。

5. Reciprocate

「Reciprocate」は、愛情や努力の相互性を求める楽曲である。タイトルは「返す」「報いる」という意味を持ち、Summer Walkerはここで、一方的に与える関係の不均衡を問い直す。恋愛は片方だけが尽くすものではなく、相手も同じだけの気持ちと行動を返すべきだという主張が中心にある。

音楽的には、柔らかなR&Bビートと、切ないメロディが特徴である。Summer Walkerの歌唱は控えめだが、言葉の一つひとつに疲労と期待がにじむ。彼女の声は、怒鳴らずに相手へ最後の要求を突きつけるように響く。

歌詞では、相手に対して「自分がした分だけ返してほしい」という願いが描かれる。これは贈り物や行為の見返りという単純な話ではなく、感情的な労働の問題である。相手のために気を配り、支え、許し続けてきた人物が、同じ深さで愛されたいと求めている。

6. You Don’t Know Me

「You Don’t Know Me」は、相手が自分を本当には理解していないという孤独をテーマにした楽曲である。恋愛関係にありながら、相手が自分の内面や痛み、努力を見ていないという感覚が曲全体を支配している。

音楽的には、非常に静かで、空間の多いアレンジが印象的である。Summer Walkerの声は、ほとんど独白のように響く。大きなサビで感情を爆発させるのではなく、低い温度のまま失望を伝える点が本作らしい。

歌詞では、相手が語り手を知っているつもりでいるが、実際には表面しか見ていないことが描かれる。これは恋愛における深い孤独である。近くにいる相手に理解されないことは、物理的な距離よりも痛みを伴う。「You Don’t Know Me」は、親密さの中にある断絶を静かに表現した曲である。

7. Circus

「Circus」は、恋愛関係の混乱や見世物のような状態を、サーカスのイメージで描いた楽曲である。サーカスは華やかでありながら、裏側には不安定さや危険がある。ここでは恋愛が、感情を振り回される見世物のように表現されている。

音楽的には、ゆったりとしたR&Bで、メロディにはどこか諦めのような感触がある。Summer Walkerの声は抑制され、関係の滑稽さと痛みを同時に伝える。

歌詞では、相手との関係が真剣な愛ではなく、混乱したパフォーマンスのようになってしまったことが描かれる。何度も同じ問題を繰り返し、周囲の視線も絡み、二人の関係は私的なものではなくなっていく。SNS時代の恋愛の公開性も、背景として感じられる。

8. Insane

「Insane」は、関係によって精神的に追い詰められる感覚をテーマにした楽曲である。タイトルの通り、相手の行動や不安定な関係が、自分を正気でいられなくするという感情が中心にある。

音楽的には、暗いコードと沈んだビートが、内面の不安を支えている。Summer Walkerの歌唱は大きく乱れないが、その落ち着きが逆に疲弊を感じさせる。感情が限界に近づいているにもかかわらず、声は静かである。この抑制が、曲にリアリティを与えている。

歌詞では、相手への愛や執着が、自己を不安定にしていく様子が描かれる。恋愛が安心を与えるのではなく、不安、疑念、怒りを生み続ける。その状態を「insane」と呼ぶことで、Summer Walkerは関係の有害さを明確に示している。

9. Constant Bullshit

「Constant Bullshit」は、相手の嘘、言い訳、繰り返される問題への怒りを非常に直接的に表現した楽曲である。タイトルが示すように、ここには飾った比喩よりも、うんざりした本音がある。

音楽的には、抑えたトラックの上で、Summer Walkerの声が淡々と不満を述べる。激しいビートではなく、低く沈んだサウンドが、長期間続く疲れを表現している。怒りは爆発ではなく、蓄積として響く。

歌詞では、同じ問題が何度も繰り返され、相手が変わらないことへの諦めが描かれる。恋愛の終わりは一度の大事件で決まるのではなく、小さな嘘や不誠実さが積み重なった結果として訪れる。この曲は、その積み重なった疲労を端的に表している。

10. Switch a Nigga Out

「Switch a Nigga Out」は、相手を入れ替える、つまり不誠実な相手に固執しないという強気な姿勢を示す曲である。タイトルからも分かるように、ここでは関係における主導権を取り戻す態度が前面に出る。

音楽的には、アルバムの中でも比較的リズムが立っており、気だるさの中に自信がある。Summer Walkerは、傷ついた女性としてだけでなく、相手に依存しない人物として自分を提示する。

歌詞では、相手が自分を大切にしないなら、別の相手に替えることもできるという態度が描かれる。これは単なる挑発ではなく、関係にしがみつくことで自分の価値を下げないという自己防衛である。『Still Over It』における怒りと自尊心の側面を担う楽曲である。

11. Unloyal feat. Ari Lennox

「Unloyal」は、Ari Lennoxを迎えたソウルフルなR&B曲であり、不誠実な相手から距離を取る女性の視点を描いている。Ari Lennoxの温かく豊かな声とSummer Walkerの繊細な声が重なり、曲にクラシックなR&Bの感触を与えている。

音楽的には、ジャジーで滑らかなアレンジが特徴で、アルバムの中でも特に大人びた雰囲気を持つ。メロディは美しく、歌詞の苦味との対比が効いている。

歌詞では、相手が不誠実であるなら、自分も忠実であり続ける必要はないという態度が描かれる。ここでの「unloyal」は、単なる裏切りではなく、不公平な関係への反応である。相手が誠実さを守らないなら、女性側だけが我慢する必要はない。R&Bの伝統的なソウル感と現代的な女性の自己決定が結びついた楽曲である。

12. Closure

「Closure」は、関係の終わりに必要な区切りを求める楽曲である。タイトルの「closure」は、心理的な決着や終結を意味する。しかし本作における関係は簡単には終わらず、説明されない言葉や未解決の感情が残り続ける。

音楽的には、静かで内省的なトラックであり、Summer Walkerの声が非常に近い距離で響く。大きなドラマよりも、終わった後の静けさが重視されている。

歌詞では、相手に対して明確な終わりや説明を求める感情が描かれる。人は関係が終わった後、単に相手がいなくなれば癒えるわけではない。何が起こったのか、なぜそうなったのか、自分がどう扱われたのかを理解したい。その欲求が「Closure」に込められている。

13. Toxic feat. Lil Durk

「Toxic」は、Lil Durkを迎えた楽曲で、有害な関係の中にある愛情と執着を描いている。タイトルの通り、二人の関係は健康的ではない。しかし、完全に断ち切ることもできない。その矛盾が曲の中心にある。

音楽的には、R&Bとヒップホップが自然に融合しており、Lil Durkのヴァースは男性側の視点を加える。Summer Walkerの繊細な歌唱とDurkのラップが交互に現れることで、有害な関係が一方だけの問題ではなく、双方の傷や未熟さを含むものとして描かれる。

歌詞では、惹かれ合いながらも傷つけ合う関係が描かれる。愛しているのに安心できない、離れたいのに戻ってしまう。その循環こそが「toxic」である。この曲は、『Still Over It』の中心テーマである、愛と自己破壊の結びつきを分かりやすく示している。

14. Dat Right There feat. Pharrell Williams

「Dat Right There」は、Pharrell Williamsを迎えた楽曲で、アルバム中盤以降に少し異なる軽さと色彩を加えている。Pharrellらしい柔らかいグルーヴと、Summer Walkerの甘い声が合わさり、重いテーマが続く本作の中で少し余白を作る。

音楽的には、ミニマルながらもファンキーな質感があり、他の曲よりもリズムの遊びが感じられる。Summer Walkerのヴォーカルはリラックスしており、曲全体にも柔らかな空気がある。

歌詞では、相手への欲望や親密さが描かれるが、本作全体の文脈では、それも完全に無邪気なものではない。関係の痛みを知っているからこそ、一時的な甘さや身体的な近さが複雑に響く。Pharrellの参加によって、アルバムに音色面での変化が加わっている。

15. Screwin feat. Omarion

「Screwin」は、Omarionを迎えた官能的なR&B曲で、身体的な関係と感情の曖昧さを扱う。Omarionの参加は、2000年代R&Bへの接続を感じさせ、Summer Walkerの音楽が90年代から2000年代のR&Bの延長線上にあることを示している。

音楽的には、スロウで艶のあるサウンドが中心で、ヴォーカルの掛け合いが曲の魅力になっている。Summer Walkerの声は控えめながらも官能的で、Omarionの滑らかな歌唱とよく合う。

歌詞では、身体的な親密さが描かれるが、アルバム全体の中では、それが必ずしも愛や安心と一致しない点が重要である。Summer Walkerの楽曲では、身体の関係はしばしば感情の複雑さを増幅する。この曲も、快楽と不安定さが重なる一曲である。

16. Broken Promises

「Broken Promises」は、破られた約束への失望をテーマにした楽曲である。タイトルは非常に明確で、相手が言ったことを守らず、語り手がその結果として傷ついたことが中心にある。

音楽的には、メランコリックなR&Bで、Summer Walkerの声が静かに沈む。派手な怒りではなく、何度も裏切られた後の疲れが強く感じられる。ビートは控えめで、歌詞の重さを支える。

歌詞では、約束が単なる言葉ではなく、信頼の土台であることが示される。約束が破られるたびに、関係の基盤は崩れていく。Summer Walkerは、相手の言葉を信じた自分への後悔と、相手への失望を同時に歌っている。

17. Session 33

「Session 33」は、短いながらも非常に親密な楽曲であり、Summer Walkerの「Session」シリーズに連なる作品である。セッションというタイトルが示すように、これは完成された大作というより、心のメモや短い告白のような性格を持つ。

音楽的には、非常にミニマルで、声とわずかな伴奏が中心である。Summer Walkerの魅力は、こうした短い曲でも感情の密度を保てる点にある。彼女は多くを歌いすぎず、言葉の隙間に感情を残す。

歌詞では、関係の痛みや相手への不信が簡潔に示される。短い曲であるからこそ、日記の一節のような生々しさがある。『Still Over It』が持つ私的な記録性を象徴するトラックである。

18. 4th Baby Mama

「4th Baby Mama」は、本作の中でも最も直接的で、最も告発的な楽曲である。タイトルは、相手が複数の子供の母親を持つ状況を示し、Summer Walker自身の立場と怒りが非常に具体的に表現される。これは単なる失恋ソングではなく、妊娠、出産、共同養育、責任の問題を含む重い楽曲である。

音楽的には、静かで長めの構成の中に、語りに近い歌唱が置かれている。Summer Walkerは感情を大げさに演出するのではなく、相手への不満、失望、怒りを淡々と並べる。その淡々とした語りが、逆に強いリアリティを生む。

歌詞では、相手の不誠実さ、家庭への責任不足、女性を傷つける行動が具体的に批判される。ここには、恋人としての失望だけでなく、子供の父親としての責任を果たさないことへの怒りがある。『Still Over It』の物語的な核心を担う、非常に重要な楽曲である。

19. Ciara’s Prayer

「Ciara’s Prayer」は、アルバムの終盤に置かれた祈りであり、Ciaraによる語りが中心となる。ここでアルバムは、怒りや告発から、癒やし、自己回復、良い愛への願いへと移行する。Ciaraは、健全な愛、自己価値、神への信頼を語り、作品に精神的な締めくくりを与える。

音楽というより祈りに近いこのトラックは、『Still Over It』全体を単なる復讐や愚痴のアルバムにしないために重要である。傷ついた後に何を願うのか、どのような愛を求めるのか、自分をどう守るのかという問いがここで示される。

「Ciara’s Prayer」は、女性同士の助言や精神的な連帯を象徴している。Cardi Bの語りで始まったアルバムが、Ciaraの祈りで閉じる構成は非常に意味深い。怒りの先に、癒やしと再生を置くためのトラックである。

20. 4th Baby Mama (Prelude) / No Love Extendedなどの補足的文脈

配信版やエディションによっては、「No Love」の拡張版などが後に展開され、SZAとの関係性や楽曲の人気をさらに広げた。アルバム本編の文脈では、「No Love」はすでに中心的な役割を持っているが、その後の展開によって、本作が単なる発売時点の作品にとどまらず、リスナーの反応やR&Bシーンの中で継続的に広がっていったことが分かる。

『Still Over It』は、曲単体のヒットだけでなく、SNS時代の共感、歌詞の引用、女性リスナー同士の感情共有によって強く受け止められたアルバムである。その意味で、本作の楽曲はアルバム内だけでなく、現代R&Bのリスニング文化の中でも重要な役割を果たした。

総評

『Still Over It』は、Summer Walkerのキャリアにおける決定的な作品であり、現代R&Bにおける女性の私的な語りを大きく拡張したアルバムである。前作『Over It』が、恋愛に疲れた女性の本音をミニマルなR&Bで描いた作品だったとすれば、本作はその後に残る怒り、母性、失望、共同養育の問題、自己回復への願いまでを含んだ、より重い続編である。

本作の強みは、感情の整理されていなさをそのまま音楽にしている点にある。ここには、完全に癒えた人物の視点はない。Summer Walkerは、まだ怒っており、まだ傷ついており、まだ相手に言いたいことがある。その未整理な感情が、アルバムに強いリアリティを与えている。タイトルの『Still Over It』は、乗り越えたようで乗り越えられていない状態を正確に表している。

音楽的には、大きな革新よりも、現代R&Bの親密な形式を徹底している。空間の多いビート、静かなギター、低く沈むベース、囁くようなヴォーカルが、歌詞の具体性を支える。Summer Walkerの声は、強く張り上げるタイプではないが、疲れ、諦め、怒り、未練を近距離で伝える力がある。彼女の歌唱は、日記を読んでいるようでありながら、R&Bとしてのメロディの美しさも保っている。

歌詞面では、恋愛の失敗を単なる感傷としてではなく、女性の生活全体に関わる問題として描いている点が重要である。相手の不誠実さは、心の傷だけでなく、妊娠、出産、子育て、責任、経済的・精神的負担へつながる。「4th Baby Mama」はその最も明確な例であり、恋愛の終わりが女性にとってどれほど現実的な問題を残すかを示している。

また、本作は女性同士の連帯のアルバムでもある。Cardi Bの語り、SZAとの共演、Ari Lennoxとの掛け合い、Ciaraの祈りは、Summer Walkerの物語を一人だけのものにしない。傷ついた経験、相手に尽くしすぎた経験、不誠実な関係から抜け出す必要性は、多くの女性の声と重なる。本作は、個人的な告白でありながら、共有される経験として機能している。

一方で、アルバムとしては長く、感情のトーンが似た曲も多い。そのため、聴き手によっては中盤以降に重さや単調さを感じる可能性がある。しかし、その反復性もまた本作の性格と合っている。傷ついた関係の感情は、きれいに整理されず、同じ怒りや失望が何度も戻ってくる。『Still Over It』の長さと反復は、そうした感情の抜け出しにくさを反映している。

日本のリスナーにとって本作は、現代R&Bがどれほど私的で具体的な語りを許容するジャンルになっているかを知るうえで非常に重要である。かつてのR&Bがロマンティックな愛や官能を中心に描いていたとすれば、Summer Walkerはその後の疲労、怒り、共同生活の現実、母としての痛みまで歌にしている。これはR&Bの成熟であり、同時にSNS時代の親密な告白文化とも結びついている。

総じて『Still Over It』は、恋愛の終わりを美しい物語に変えるのではなく、怒りと疲れを含んだまま提示した傑作である。完璧に整えられたアルバムではないが、その生々しさこそが作品の力である。Summer Walkerはここで、傷ついた女性の声を弱さとしてではなく、分析、告発、祈り、再生のための言葉として響かせている。2020年代R&Bを語るうえで欠かせない一枚である。

おすすめアルバム

1. Over It by Summer Walker

2019年発表のデビュー・アルバム。『Still Over It』の前編にあたる作品であり、「Playing Games」「Come Thru」「Girls Need Love」などを収録している。London on da Trackとの音楽的相性が強く表れ、ミニマルな現代R&Bと恋愛の疲弊を結びつけた重要作である。

2. Ctrl by SZA

2017年発表。現代R&Bにおける女性の不安、欲望、自己認識を率直に描いた重要作である。『Still Over It』に参加したSZAの代表作であり、恋愛における曖昧さや自己価値の揺れを、オルタナティヴR&Bの形で表現している。Summer Walkerの作風を理解するうえで関連性が高い。

3. Heaux Tales by Jazmine Sullivan

2021年発表。女性たちの語りを interlude と楽曲で構成し、欲望、恋愛、自己価値、社会的視線を描いたR&B作品である。『Still Over It』と同じく、女性の経験を複数の声で語る構成が特徴で、現代R&Bの物語性を理解するうえで重要なアルバムである。

4. Trip by Jhené Aiko

2017年発表。喪失、癒やし、精神的な旅、恋愛の痛みを、アンビエントでメロウなR&Bとして描いた作品である。Summer Walkerよりも内省的で幻想的な方向性だが、傷ついた感情を静かなサウンドで表現する点で関連性が高い。

5. Baduizm by Erykah Badu

1997年発表。ネオ・ソウルの歴史的名盤であり、R&Bに内省、女性の主体性、スピリチュアルな視点を持ち込んだ作品である。Summer Walkerの音楽とは時代もサウンドも異なるが、女性R&Bアーティストが自分の言葉で恋愛、自己、精神性を語る系譜を理解するうえで欠かせない一枚である。

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