
1. 楽曲の概要
「Substitute」は、Sex Pistolsが録音したThe Whoのカバー曲である。オリジナルはPete Townshend作詞・作曲によるThe Whoの1966年のシングルで、英国ロックにおける初期モッズ文化、若者の自己認識、階級意識を反映した代表曲のひとつである。Sex Pistols版は、公式には1979年のサウンドトラック・アルバム『The Great Rock ’n’ Roll Swindle』に収録されたことで広く知られるようになった。
Sex Pistolsの「Substitute」は、バンドの最初期のレパートリーに含まれていた曲でもある。1976年のライヴ音源集『Live ’76』では、マンチェスターのLesser Free Trade Hall公演、ロンドンのScreen on the Green公演、HM Prison Chelmsford公演、Burton on Trentの76 Club公演などで演奏されていることが確認できる。つまり、この曲は解散後の編集盤用に唐突に選ばれたカバーではなく、Sex Pistolsがクラブやライヴハウスで自分たちの演奏を固めていく時期から扱っていた素材だった。
スタジオ録音としては、1976年10月17日のWessex Studiosでのセッションに「Substitute」が含まれている。これは「Anarchy in the U.K.」や「Johnny B. Goode」「Road Runner」「(I’m Not Your) Stepping Stone」などと同じ時期の録音で、デビュー・アルバム『Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols』が完成する前のバンド像を伝える重要な音源である。
この曲をSex Pistolsの代表作として扱うことは少ない。しかし、彼らがどのようなロックンロールを参照し、それをどのようにパンクへ変換したのかを知るうえでは重要な録音である。The Whoの原曲にあったモッズ的な鋭さ、自己否定、皮肉は、Sex Pistolsの手にかかることで、より単純で荒いギター・ロックへ変わる。その変化に、1970年代半ばの英国ロックの世代交代がよく表れている。
2. 歌詞の概要
「Substitute」の歌詞は、語り手が自分を「代用品」として捉える内容である。恋愛、自己像、社会的な立場が混ざり合い、語り手は本物ではなく、誰かの代理や見せかけとして存在していると感じている。単純な失恋の歌ではなく、自分が周囲の期待や見た目によって定義されてしまうことへの違和感が中心にある。
The Whoの原曲では、この歌詞は1960年代半ばの若者文化と深く結びついていた。モッズ・ファッションや階級差、外見と内面のずれが背景にあり、Pete Townshendらしい自己分析的な視点が目立つ。語り手は強く自己主張しているようでありながら、実際には自信を失っている。そこに、The Whoの初期作品に特有の緊張感がある。
Sex Pistols版では、歌詞の細かな心理描写よりも、フレーズの攻撃性とリズムの推進力が前に出る。Johnny Rottenの歌唱は、語り手の不安を繊細に表現するというより、言葉を吐き捨てることで自己嫌悪や反発を一体化させている。原曲の「自分は代用品にすぎない」という複雑な屈折が、Sex Pistols版では「偽物扱いされることへの苛立ち」として聞こえやすくなる。
この変化は、カバーとして自然である。Sex PistolsはThe Whoの歌詞を忠実に再現するために演奏しているわけではない。むしろ、すでに存在していた英国ロックの言葉を、パンクのテンポ、音量、粗さの中へ入れ直している。その結果、「Substitute」は1960年代のモッズ・ソングであると同時に、1976年のパンク・バンドが自分たちの立場を試す曲にもなっている。
3. 制作背景・時代背景
The Whoの「Substitute」が発表された1966年は、英国ロックがビート・グループの時代から、より自己意識の強いバンド表現へ移行していた時期である。The Whoは、破壊的なステージ・アクション、鋭いリズム、Pete Townshendの作詞作曲によって、若者の不満や不安をロックの形式へ落とし込んだ。Sex Pistolsがこの曲を取り上げた背景には、The Whoが英国ロックに残した反抗的なイメージがあったと考えられる。
Sex Pistolsが本格的に活動を始めた1975年から1976年にかけて、彼らは完全に新しい音楽を無から作ったわけではなかった。初期のセットリストには、The Who、Small Faces、The Monkees、The Stooges、Chuck Berry、Jonathan Richman & The Modern Loversなどの曲が含まれていた。そこから分かるのは、Sex Pistolsのパンクが、1960年代のビート・ロック、ガレージ・ロック、ロックンロール、プロトパンクを素材として再構成されたものだったという点である。
1976年のSex Pistolsにとって、カバー曲は単なる穴埋めではなかった。オリジナル曲がまだ十分にそろっていない段階で、既存の曲を演奏することは、バンドの音を鍛える実践でもあった。スティーヴ・ジョーンズのギター、グレン・マトロックのベース、ポール・クックのドラム、ジョニー・ロットンのボーカルが、既存のロック曲をどう変形させるのか。その過程で、のちの「Anarchy in the U.K.」や「Pretty Vacant」に通じる演奏スタイルが形を取っていった。
『The Great Rock ’n’ Roll Swindle』への収録は、別の意味を持つ。同作は、Sex Pistols解散後にマルコム・マクラーレン主導で作られた映画およびサウンドトラックであり、バンドの歴史を事実と虚構、記録と宣伝、音楽と悪ふざけの混合物として提示した作品だった。「Substitute」はその中で、初期Sex Pistolsのライヴ・バンドとしての側面を示す素材として機能している。
重要なのは、この曲が『Never Mind the Bollocks』の完成されたサウンドとは異なる、より過渡期のSex Pistolsを記録していることである。公式アルバムの楽曲は、クリス・トーマスとビル・プライスのプロダクションによって、荒さと厚みを両立した強固な音像に仕上げられている。一方、「Substitute」は、よりデモ的で、演奏の勢いがそのまま前面に出ている。そこに、デビュー前のバンドが持っていた粗削りな実在感がある。
4. 歌詞の抜粋と和訳
I was born with a plastic spoon in my mouth
和訳:
俺は口にプラスチックのスプーンをくわえて生まれた
この一節は、英語圏の慣用句「silver spoon in one’s mouth」を踏まえている。銀のスプーンは裕福な家庭に生まれることを意味するが、ここではそれがプラスチックに置き換えられている。つまり、語り手は上流階級の特権を持たない存在として自己を位置づけている。
Substitute your lies for fact
和訳:
君は嘘を事実の代わりにしている
この部分では、「substitute」という言葉が、単なる代理や代用品ではなく、真実の置き換えとして使われている。人間関係の中で、相手が現実を正しく見ていない、あるいは都合よくすり替えているという不信感が表れている。
I look all white but my dad was black
和訳:
俺は白く見えるが、父は黒人だった
この一節は、The Whoの原曲が発表された1960年代の英国社会における人種、見た目、アイデンティティの緊張を含んでいる。ただし、現代の観点では扱いに注意が必要な表現でもある。Sex Pistols版では、この複雑な含みが深く掘り下げられるというより、挑発的な言葉として勢いの中に置かれている。
歌詞の引用は、批評・解説に必要な最小限にとどめている。「Substitute」の歌詞はPete Townshendによる著作物であり、全文掲載ではなく、文脈と意味の説明を中心に扱う必要がある。
5. サウンドと歌詞の考察
Sex Pistols版「Substitute」の最大の特徴は、原曲の跳ねるようなビート感を、より直線的なパンク・ロックへ変えている点にある。The Whoの原曲では、リズムに軽いスウィング感があり、ベースとドラムが細かく動くことで、モッズ的な切れ味を作っている。Sex Pistols版では、その細部が整理され、ギターの厚いコードと前進するリズムが中心になる。
スティーヴ・ジョーンズのギターは、原曲のリフを再現しながらも、音の粒立ちよりも圧力を優先している。The WhoのPete Townshendが持っていたコード・ワークの鋭さは、Sex Pistols版ではより鈍く、太く、押しつぶすような音に変わる。これにより、歌詞の皮肉は洗練された風刺ではなく、苛立ちを直接ぶつける言葉として聞こえる。
グレン・マトロックのベースは、この曲の解釈において重要である。Sex Pistolsの初期音源では、マトロックのベースが単なるルート音の補強にとどまらず、曲の輪郭を作っている場面が多い。「Substitute」でも、原曲のベースラインを意識しつつ、パンク・バンドとしての推進力を損なわない演奏になっている。Sid Vicious加入後のイメージだけでSex Pistolsを捉えると見落としやすいが、1976年のバンドは演奏面でかなり実用的なまとまりを持っていた。
ポール・クックのドラムは、The WhoのKeith Moon的な派手さを再現する方向には向かっていない。むしろ、ビートを安定させ、バンド全体を前に運ぶ役割に徹している。Sex Pistolsのサウンドは、演奏の崩壊ではなく、単純化によって強度を得るタイプのロックである。この曲でも、その性格がよく分かる。
Johnny Rottenのボーカルは、原曲のRoger Daltreyとはまったく異なる。Daltreyは、語り手の屈折を力強く歌い上げることで、若者の不満をロック・アンセムにしていた。一方、Rottenは、歌詞の中にある自己否定や嘘への不信を、より神経質で攻撃的な声に変えている。音程の正確さよりも、語尾の噛みつき方や言葉の歪ませ方が重要である。
この歌唱によって、「Substitute」の主人公像も変化する。The Who版の語り手は、自分が本物ではないことを意識し、その矛盾を言葉にしている。Sex Pistols版の語り手は、その矛盾を分析する前に、相手や社会へ投げ返しているように聞こえる。ここに、1960年代ロックと1970年代パンクの違いがある。
また、この曲はSex Pistolsのカバー選曲の中でも、比較的バンドの本質に近い。Chuck Berryの「Johnny B. Goode」やJonathan Richmanの「Road Runner」は、ロックンロールの原型や反復の快感を扱う曲である。それに対して「Substitute」は、英国的な階級意識、若者の自己像、見せかけへの不信を含んでいる。Sex Pistolsが自分たちのイメージを形成するうえで、この曲は相性のよい素材だった。
ただし、Sex Pistols版がThe Who版を超えたというより、曲の意味を別の時代へ移した録音と考えるほうが正確である。The Who版には、1960年代半ばの若者文化が持っていた複雑さと演奏のしなやかさがある。Sex Pistols版には、1976年のパンクが持っていた短絡的な力、速度、音量、そして過去のロックを自分たちのものとして乱暴に扱う姿勢がある。
『The Great Rock ’n’ Roll Swindle』の文脈で聴くと、「Substitute」はSex Pistolsの歴史の断片として響く。アルバム全体は、Johnny Rotten不在の曲、Sid Viciousのカバー、Steve JonesやPaul Cookが主導する録音、奇妙な企画曲が入り混じる混沌とした作品である。その中で「Substitute」は、バンドがまだ実際のライヴ・バンドとして機能していた時期を示す数少ない手がかりになっている。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Substitute by The Who
Sex Pistols版を理解するうえで最初に聴くべき原曲である。モッズ的なリズム感、Pete Townshendの言葉選び、Roger Daltreyの歌唱によって、自己否定と反抗がより複雑に表現されている。
- (I’m Not Your) Stepping Stone by Sex Pistols
The Monkeesで知られる曲をSex Pistolsがカバーした録音である。既存のポップ・ソングをパンクの演奏へ変換する方法が「Substitute」と近く、初期レパートリーの方向性を知ることができる。
- No Fun by Sex Pistols
The Stoogesの曲を取り上げたカバーで、Sex Pistolsがアメリカのプロトパンクから受けた影響を示している。原曲の倦怠感を、より英国パンク的な荒さへ置き換えている点が聴きどころである。
- Whatcha Gonna Do About It by Sex Pistols
Small Facesの曲を元にした初期カバーである。The Whoと同じく1960年代英国ロックの流れを参照しており、Sex Pistolsがパンク以前のモッズ/ビート・ロックを自分たちの音へ変換していたことが分かる。
- My Generation by The Who
「Substitute」と並んで、The Whoの若者文化への影響を示す代表曲である。Sex Pistolsの反抗的なイメージを考えるうえでも、The Whoが先に提示していた世代意識と攻撃性を確認できる。
7. まとめ
「Substitute」は、Sex Pistolsのオリジナル曲ではない。しかし、彼らの初期像を知るうえでは重要なカバーである。The Whoの1966年の楽曲を取り上げることで、Sex Pistolsが1960年代英国ロックの反抗性を継承しつつ、それをより荒く、単純で、攻撃的なパンク・サウンドへ変えていたことが見えてくる。
この曲には、『Never Mind the Bollocks』の完成度とは別の価値がある。公式デビュー前後のSex Pistolsが、既存曲を使いながら自分たちの演奏スタイルを作っていた過程が記録されているからである。スティーヴ・ジョーンズの厚いギター、グレン・マトロックの実用的なベース、ポール・クックの直線的なドラム、ジョニー・ロットンの鋭い歌唱が、The Whoの曲をパンクの形式へ引き寄せている。
「Substitute」は、Sex Pistolsを単なる破壊的なバンドとしてではなく、過去のロックを吸収し、短い期間で自分たちの語法へ変えたバンドとして見るための手がかりになる。オリジナル曲の影に隠れがちな録音ではあるが、1976年のSex Pistolsが何を聴き、何を壊し、何を受け継いだのかを考えるうえで、十分に聴く価値のある一曲である。
参照元
- Sex Pistols Official – The Great Rock n Roll Swindle (CD) (2012)
- Sex Pistols Official – Live ’76 4 CD & LP Box Sets (2016)
- Sex Pistols Official – Sex Pistols 76-77 (2021)
- Sex Pistols Official – Sex Pistols 76-77: Comprehensive 4 CD Demos and Outtakes Collection
- Sex Pistols Official Store – The Original Recordings CD
- SecondHandSongs – Substitute by Sex Pistols
- Cover.info – Sex Pistols – Substitute
- Discogs – Sex Pistols – The Great Rock ’N’ Roll Swindle

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