
発売日:1977年3月
ジャンル:Progressive Rock / Art Rock
概要
Something Magic は、Procol Harumが1977年に発表した9作目のスタジオ・アルバムであり、同年の活動停止前では最後のオリジナル作となった。1975年の Procol’s Ninth ではJerry LeiberとMike Stollerをプロデューサーに迎えて比較的簡潔なロックへ向かったが、本作では再び長い構成や幻想的な題材を取り入れている。制作はマイアミのCriteria Studiosで行われ、プロデュースにはRon AlbertとHowie Albertが参加した。
この時期の編成はGary Brooker、Keith Reid、B.J. Wilson、Chris Copping、Mick Grabhamを中心とするものだったが、録音中にCoppingが離脱し、ベースにはDee Murrayも参加している。サウンドはBrookerのピアノとGrabhamのギター、Wilsonの表情豊かなドラムを軸にしながら、シンセサイザーやオーケストラ的な色彩も加えたものだ。初期Procol Harumの荘厳さを思わせる部分がある一方、1970年代後半らしい硬く整えられたロックの音も聞こえる。
最大の特徴は、LPのB面の大半を占めた組曲「The Worm & the Tree」である。Keith Reidによる寓話的な物語をBrookerの音楽でつないだ長編で、短い独立曲を並べる通常のProcol Harumとは違う方向へ踏み込んだ。一方、A面側には表題曲をはじめ比較的独立性の高い楽曲が並ぶため、アルバムは「通常の曲」と「長編物語」という二部構成に近い。プログレッシブ・ロックの全盛期が終わりつつあった1977年に、あえて大規模な構成へ挑んだ作品でもある。
全曲レビュー
1. 「Something Magic」
静かな導入から徐々に音が広がり、アルバムの幻想的な入口を作る。Brookerのピアノと声にはProcol Harumらしい重みがある一方、シンセサイザーを含む背景の音は柔らかく、初期作品の教会的な響きをそのまま再現してはいない。Reidの歌詞は「魔法」を具体的な超自然現象として説明するのではなく、日常の理解を越えた何かが存在するという感覚を残す。抑制されたヴァースから大きな旋律へ移ることで、派手な演奏に頼らずスケールを作っている。
2. 「Skating on Thin Ice」
題名の「薄氷の上を滑る」という危うさを、比較的引き締まったロック・サウンドで表現する。Grabhamのギターが前へ出る一方、Brookerのピアノもリズムを支えるため、ギター・バンドだけにはならない。安定しているように見える状況の下に危険が潜んでいるという言葉の感覚と、前へ進み続ける演奏との組み合わせも効果的だ。表題曲の幻想性から現実的な緊張へ移り、アルバム序盤の輪郭を変えている。
3. 「Wizard Man」
比較的短く親しみやすい曲で、Brookerのメロディ・メーカーとしての側面が強く出る。タイトルには幻想的な人物が登場するが、大掛かりな物語を展開するより、人物の奇妙な魅力をコンパクトな歌の中で描いていく。軽快なピアノとリズム隊によって、前後の重い曲とは違う身軽さが生まれているのも特徴だ。後半に長大な組曲を控えるアルバムに、簡潔なポップ感覚がまだ残っていることを示す。
4. 「The Mark of the Claw」
GrabhamのギターとWilsonのドラムが強く押し出され、A面では特にロック色の濃い演奏になっている。ギターは単なる伴奏ではなく、ボーカルの隙間へ荒いフレーズを差し込み、ピアノ中心のProcol Harumに別の重量を与える。題名が示す傷跡や爪痕のイメージも、Reidらしい不穏な言葉遣いと結びつく。幻想的な表題曲とは違い、身体に残る傷のような具体的な感触を音にも持たせた曲である。
5. 「Strangers in Space」
宇宙という題材を扱いながら、SF的な物語を細かく描写するより、人間同士の隔たりを巨大な距離へ置き換えたように聞こえる。Brookerの歌は広い音域を誇示せず、ゆったりした旋律を重い声で運び、背景の鍵盤が空間を広げる。演奏にはA面を締める曲らしい余韻があり、ギターの攻撃性より雰囲気の変化が重視されている。ここで作られた非現実的な空気が、続く長編「The Worm & the Tree」への橋渡しにもなっている。
6. 「The Worm & the Tree」
アルバム後半の大部分を占める長編組曲で、Procol Harumのキャリアでも特に異例の試みである。Reidが書いた物語は一本の木と、それを脅かす虫を中心に進み、共同体、破壊、権力などを連想させる寓話として読むことができる。ただし意味を一つの政治的メッセージへ固定するより、単純な登場人物を使って繁栄と崩壊の循環を描くことに重点が置かれている。
音楽は一つのリフを長時間繰り返すのではなく、物語の進行に合わせてテンポ、旋律、楽器の密度を変えていく。Brookerは通常の歌唱だけでなく物語を導く役割を担い、ピアノやオーケストラ的なアレンジが場面転換を支える。Wilsonのドラムも一定のビートを刻むだけではなく、音量やフィルを変えながら物語の緊張を調節するため、ロック曲というより舞台作品に近い感触がある。
一方で、その構造は本作の長所と弱点を同時に生んでいる。個々の旋律にはBrookerらしい美しさがあるものの、物語を進めるための部分では通常のProcol Harumの曲ほど簡潔なフックがなく、ナレーション的な展開も長い。そのため「A Whiter Shade of Pale」以来の歌と演奏の凝縮を期待すると冗長にも感じられるが、アルバム一面を使って寓話を展開する大胆さは明確だ。1977年という時期に、彼らがなおアルバムという形式そのものを大きく使おうとしていたことが分かる。
終盤ではそれまで提示された音楽的な要素が再び結びつき、物語も一つの結末へ向かう。しかし勝利や救済を単純に祝うというより、寓話を語り終えた後の距離を残すため、感情的な大団円にはならない。独立した一曲というより、複数の場面を連続させた作品として聴く方が性格をつかみやすい。A面の比較的短い曲群と極端な対照を作り、Something Magic というアルバムを不均衡ながら忘れにくいものにしている。
総評
Something Magic は、Procol Harumの代表的な方法をきれいに総括したアルバムではない。Brookerのクラシックやソウルを背景に持つ旋律、Reidの意味を一つに限定しない言葉、ピアノとギターのせめぎ合い、Wilsonの劇的なドラムといった特徴は揃っているが、それらを簡潔な楽曲へ凝縮する方向と、長大な物語へ広げる方向が一枚の中で競合している。その不均衡さが、本作を評価する際の中心になる。
A面側では、表題曲の荘厳さ、「Wizard Man」の親しみやすさ、「The Mark of the Claw」の硬いロックなど、バンドが長年蓄積してきた複数の語彙を比較的短い曲で使い分けている。特にBrookerの声は、若い頃とは違う厚みを増しており、派手に高音を伸ばさなくても曲の中心を作れる。Wilsonも細かなフィルと強弱によって曲の展開を支え、単純なバックビートだけでは得られないドラマを生んでいる。
問題は「The Worm & the Tree」があまりにも大きな比重を占めることである。寓話をアルバム片面へ広げる発想は野心的だが、物語の説明と音楽的な流れが常に同じ強さで結びついているわけではない。1977年にはパンクやニューウェーブが英国ロックの価値観を急速に変えつつあり、長編組曲という形式自体も数年前ほど時代の中心ではなかった。その状況も含め、本作には1970年代前半型のアート・ロックをどこまで続けられるのかという難しさが刻まれている。
結果として、Something Magic はProcol Harumの最も完成度の高い作品というより、1970年代の活動末期に残された独特な作品として価値がある。簡潔な曲では依然としてBrookerとReidの作曲チームの強さが確認でき、長編では成功と過剰さの両方を含めてバンドの野心が露出する。発表後にProcol Harumが活動を停止したことを考えると結果的に一つの区切りとなったが、音楽自体は別れを意識した総括ではない。最後まで自分たちの形式を拡張しようとしていたバンドの、やや不格好だが個性の強い記録である。
おすすめアルバム
Procol Harum by Procol Harum
1967年のデビュー作。Brookerのピアノ、Reidの幻想的な言葉、クラシックとR&Bを横断する作曲という基本形が確認できる。Something Magic まで10年間で何が変わったのかを比較する出発点になる。
A Salty Dog by Procol Harum
オーケストラ的な広がりと物語性が特に豊かな1969年作。表題曲の劇的な構成や海をめぐるイメージは、Something Magic が再び大規模な物語表現へ向かった背景を理解するうえで重要である。
Grand Hotel by Procol Harum
1973年作で、壮麗なアレンジと退廃的な歌詞を高い密度でまとめている。大掛かりな音を使いながら各曲の独立性も強く、Something Magic の長編志向と比較するとバンドの構成力の違いがよく見える。
Procol’s Ninth by Procol Harum
直前の1975年作。LeiberとStollerのプロデュースによって演奏を比較的簡潔なロックへ整理しており、そこから Something Magic が長い構成と幻想的な題材へ戻った変化を最も直接的に確認できる。
Going for the One by Yes
同じ1977年に発表され、プログレッシブ・ロックの大規模な構成と簡潔な楽曲を一枚で共存させた作品。Yesの方が演奏技巧を前面に出すが、長編形式が時代の転換期にどう機能したかという点で Something Magic と興味深く比較できる。

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