
発売日: 1980年6月23日
ジャンル: アートロック、ソフィスティポップ、ニューウェーブ
概要
『Flesh and Blood』は、Roxy Music が1980年に発表した7作目のスタジオアルバムである。
前作『Manifesto』(1979)で“第二期ロキシー”が始動し、
本作ではその方向性がさらに明確かつ洗練された形へと進化した。
70年代前半のロキシーが持っていた
- 退廃的で艶やかな官能
- グラムの混沌
- アートロックの実験性
といった要素はだいぶ影を薄め、代わりに
都会的エレガンス、ソフィスティケーション、洗練されたミドルテンポのポップ
が中心となる。
つまり『Flesh and Blood』は、
“後期ロキシーの静かな美学”が本格スタートしたアルバム
と言ってよい。
柔らかなシンセ、クリーンで艶のあるギター、
フェリーの落ち着いた歌唱が三位一体となり、
のちの名盤『Avalon』(1982)に直結するスタイルがすでに形成されている。
全曲レビュー
1曲目:In the Midnight Hour
Wilson Pickett の名曲をロキシー風にアレンジしたカバー。
原曲のソウルフルな力強さを残しつつ、スタイリッシュに再構築している。
2曲目:Oh Yeah
本作でも屈指の名曲。
青春の追憶と都会の夜景が溶け合うような切ないメロディが美しい。
フェリーの成熟した歌声が胸に沁みる。
3曲目:Same Old Scene
クールに跳ねるカッティングギターと電子的ビート。
後期ロキシーの象徴ともいえるアーバンなダンスロックで、
のちにクラブミュージック文脈でも再評価される。
4曲目:Flesh and Blood
タイトル曲はミドルテンポの落ち着いたナンバー。
洗練されたプロダクションの中に、ほのかな憂いが漂う。
5曲目:My Only Love
幻想的なバラード。
シンセの柔らかい光の中でフェリーの声が溶けるように響く、
極めてロマンティックな楽曲。
6曲目:Over You
軽快で煌めきのあるポップ。
80年代ポップスの訪れを予感させる爽快さがある。
7曲目:Eight Miles High
The Byrds のカバーで、原曲のサイケ感をロキシー流にデリケートにアレンジ。
シンプルだが深い広がりを持つ仕上がり。
8曲目:Rain, Rain, Rain
憂いを帯びたメロディとミニマルなアレンジ。
“都会の孤独”が静かに浮かび上がる。
9曲目:No Strange Delight
ソフトフォーカスのような音像が美しい曲。
精神的な不安と甘い官能が同時に漂う。
10曲目:Running Wild
アルバムを静かに閉じる余韻のあるバラード。
日常の中の淡い痛みとロマンティシズムが溶け込む名ラスト。
総評
『Flesh and Blood』は、
Roxy Music が“80年代的エレガンス”へと完全に移行した作品
である。
その魅力は、
- クリーンで都会的なミドルテンポ
- 部屋に漂うようなアンビエンス
- シンプルながらも洗練された音の配置
- フェリーの成熟したロマンティックな歌唱
- “静かなドラマ”を生む上品なアレンジ
に集約される。
70年代のロキシーを求める層には物足りなさがあるかもしれないが、
後期ロキシーの美学を愛するファンにとっては
この移行期の静かな輝きこそ魅力 である。
特に “Oh Yeah” “Same Old Scene” “My Only Love” などは、
バンドの頂点『Avalon』につながる重要な布石であり、
80年代ポップ/ソフィスティポップの始まりを告げる名曲群といえる。
おすすめアルバム(5枚)
- Roxy Music / Avalon(1982)
後期ロキシーの完成形であり、本作の延長にある最重要作。 - Roxy Music / Manifesto(1979)
本作の“都会的転換”への一歩前の地点。 - Bryan Ferry / Boys and Girls(1985)
フェリーの都市的ロマンがさらに洗練されたソロ傑作。 - Japan / Quiet Life(1979)
アートポップの洗練という文脈で強く響き合う。 - Talk Talk / It’s My Life(1984)
静謐さとポップの融合という点で比較に最適。
歌詞の深読みと文化的背景
『Flesh and Blood』の歌詞には、
- 都会の孤独
- 思い出の残響
- 大人の恋の複雑さ
- ロマンティックな幻想
- 夜の静けさ
- 終わりゆく関係の影
が淡く流れている。
フェリーは70年代前半のアイロニカルで芝居がかった表現から、
より内省的で“静かな感情表現”へと移行しており、
都市生活者の寂しさと成熟がにじむ言葉が増えている。
1980年は、
- ディスコの終焉
- ニューウェーブの台頭
- エレクトロニック・ミュージックの浸透
という大きな変化が同時多発的に進んだ年であり、
『Flesh and Blood』はその時代の“クールで洗練された都会性”を象徴している。



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