
発売日: 1998年3月17日
ジャンル: ハードロック、オルタナティブロック、アダルトコンテンポラリー、実験的ロック
概要
『Van Halen III』は、Van Halen が1998年に発表した11作目のアルバムであり、
Gary Cherone(元 Extreme)をボーカルに迎えた“第三期 Van Halen”唯一の作品 である。
本作は、バンド史の中でも最も評価が割れるアルバム……
というより、長年 “問題作” とされ続けてきた。
というのも、
- ボーカルが一新(Cherone 期はこの1作のみ)
- Eddie Van Halen が史上最大級に主導権を握った作品
- ギター以外にもピアノやシンセ、アレンジ全体で Eddie が主役
- 曲が非常に長く、構成も複雑
- サミー期とはまるで別物の落ち着いたトーン
- Roth期のパーティ感は皆無
という、あまりにも異質な内容 だったためである。
とはいえ、近年になって再評価の流れが強まり、
“Eddie Van Halen の最もパーソナルで内省的なアルバム”
という視点から聴かれることが多くなっている。
バンド内では、
Alex の怪我、サミー脱退後の混乱、Gary の加入直後の不安定さ、
そして Eddie の当時の精神状態(アルコール依存や離婚問題)など、
不穏な空気が渦巻いていた。
その影響で音そのものは、
重い、暗い、長い、複雑、内向き
という、Van Halen らしからぬ方向へ進んだ。
しかしその一方で、
- Eddie のギターは驚異的にクリエイティブ
- 曲のドラマ性は深く
- Gary の歌唱力と表現力は実は非常に高い
など、“聴けば聴くほど味が出るアルバム”として
熱心なファンから強く支持されている。
全曲レビュー
1曲目:Neworld
静かなピアノとシンセのインスト。
“新世界”を示す序章だが、既に本作の暗いトーンが滲み出ている。
2曲目:Without You
シングルにもなった本作代表曲。
壮大なバラードロックで、Gary の伸びやかな声と Eddie のギタートーンが美しい。
アルバムの中ではもっとも“普通にVHらしい”曲。
3曲目:One I Want
ブルージーなロックナンバー。
ソロの構築が複雑で、Eddie の音作りへのこだわりが伝わる。
4曲目:From Afar
内向的で陰影のある名曲。
ヴォーカルメロディが憂鬱で、アルバム中でも特に深みのある曲。
5曲目:Dirty Water Dog
グルーヴを重視したミッドテンポ曲。
Gary の歌い回しが個性的で、Van Halen と Extreme の境界線が見える一曲。
6曲目:Once
AOR〜アダルトコンテンポラリー寄りのバラード。
Eddie のピアノが主役で、従来のVan Halen像から最も遠い曲とも言える。
7曲目:Fire in the Hole
『リーサル・ウェポン4』にも使用された曲。
久々にハードロックらしい疾走感とエッジを持つ。
8曲目:Josephina
哀愁と優しさが漂うアコースティック寄りの曲。
サミー期のバラードにも近い構成。
9曲目:Year to the Day
10分近い長尺のドラマティックな大曲。
Eddie の内面がそのまま音になったような、アルバムの核心。
10曲目:Primary
ノイズ的タッピングを用いた短いインスト。
11曲目:Ballot or the Bullet
攻撃性の高いロック曲で、アルバム後半のアクセントとなる。
12曲目:How Many Say I
Eddie Van Halen が自らメインボーカルを務めた唯一の曲。
賛否が極端に分かれるが、このアルバムを象徴する“内省の極致”。
Eddie という人間の孤独が露骨に滲み出る。
総評
『Van Halen III』は、
バンドの歴史の中でも最も複雑で、最も誤解され、最も内省的な作品
である。
“Van Halen らしくない”
という批判は当然だが、逆に言えば本作は
“Eddie Van Halen の個人的な芸術表現”
として聴いたときに圧倒的な深みを持つ。
- 派手なパーティロックではない
- ポップでもない
- ハードロックとしても変化球
- しかし Eddie の作曲力と音響設計は異常なほど緻密
- Gary Cherone のボーカルは実は非常に良い
- バンドの精神状態が生々しく記録されている
だからこそ本作は、
一度きりの特別な時間を切り取った、
“ドキュメント的アルバム”
として強い価値を持つ。
Van Halen を深く掘るリスナーにとって、
避けて通れない一枚。
おすすめアルバム(5枚)
- Balance (1995)
本作の“ダークさ”の源流。 - For Unlawful Carnal Knowledge (1991)
サミー期の重厚さを代表する作品。 - 5150 (1986)
“明るいサミー期”との対比で III の特異性が浮き彫りになる。 - Extreme / Waiting for the Punchline (1995)
Gary Cherone がEVHと合う理由がよく分かる、暗く内省的な名盤。 - Van Halen (1978)
原点に戻ることで、III の異質さがより理解できる。



コメント