
発売日: 1998年2月3日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、グランジ、ハードロック、フォークロック
『Yield』は、Pearl Jam が1998年に発表した5作目のアルバムである。
『No Code』(1996)でグランジ的イメージから距離を置き、
内省と試行錯誤の時期を経た彼らは、ここで
“再び外へ向かって開く” という大きな転機を迎える。
アルバムタイトルの Yield(ゆだねる/受け入れる)は象徴的で、
「世界に対して自分を開く」
「抗うばかりではなく、流れを受け入れて前に進む」
という精神状態を表すものだ。
前作の精神的混乱や孤独から一歩抜け出し、
Pearl Jam はここで
穏やかで広がりのある“第二章”
へと進化する。
サウンドは、
商業的にも批評的にも高く評価され、
「最もバランスの良い Pearl Jam」
として挙げられることが多い。
全曲レビュー
1曲目:Brain of J.
勢いのあるギターリフとタイトなバンドアンサンブル。
アルバムの開放感を象徴する力強いロックナンバー。
2曲目:Faithfull
優しさと切なさを含むミドルテンポ。
人生の“信頼”と“揺らぎ”をテーマにした歌詞が美しい。
エディの声が深い余韻を残す。
3曲目:No Way
どこか不穏で、しかし躍動的。
中期パールジャムらしいシンプルなギターロック。
“決断と拒絶”をめぐる歌詞が印象的。
4曲目:Given to Fly
本作の代表曲にして、バンド後期を象徴する名曲。
海風のようなギターアルペジオ、
大空へ舞い上がるようなメロディ展開。
“飛ぶこと(自由)”をテーマにしたスピリチュアルな一曲。
ライブでも常にハイライト。
5曲目:Wishlist
願い事の列挙という独特の歌詞構造。
シンプルだが深い余韻を残すフォークロック。
エディの詩的感性が柔らかく広がる。
6曲目:Pilate
Jeff Ament が書いたベース主導の楽曲。
荘厳かつ浮遊感のある、アルバム中でも異色の一曲。
7曲目:Do the Evolution
激しさと皮肉に満ちた、Pearl Jam 屈指のアッパーチューン。
人類の進化と暴走をテーマにした社会批評曲。
Ed O’Brien のMVと共に象徴的存在となった。
8曲目:MFC
Road movie 的スピード感のある短いロック。
旅の疾走感と自由な空気が詰まった曲。
9曲目:Low Light
アコースティックでやさしいサウンド。
黄昏時のような静けさが心を包む。
10曲目:In Hiding
アルバム最大級の名曲。
“隠れることで救われる”という逆説的テーマ。
感情の爆発がドラマティックに広がる、後期の代表曲。
11曲目:Push Me, Pull Me
スポークンワードと実験的な音像。
アルバムのアクセントとなる前衛的トラック。
12曲目:All Those Yesterdays
やわらかく穏やかな締めくくり。
過去を振り返りながら前に進むバンドの姿が重なる魂のラスト曲。
総評
『Yield』は Pearl Jam のキャリアにおいて、
“最も整った精神状態で作られたアルバム” と言ってよい。
特徴を整理すると、
- 『No Code』での混乱を乗り越えた“開放の音”
- フォーク/グランジ/ハードロックの自然な混合
- 歌詞は哲学的かつ普遍的
- エディ・ヴェダーの歌唱が最も安定し、柔らかい
- バンドメンバー全員の貢献度が高まった成熟の作品
同時代の視点では、
・R.E.M.『New Adventures in Hi-Fi』
・Foo Fighters のメロディアスなロック進化
・Soundgarden 解散前の叙情性
などとつながり、
90年代ロックが“内省から精神性へ”変わる流れの中に位置づけられる。
Pearl Jam ファンの間では、
ハードな初期三部作と、壮大な後期の中間にある
“バンドの真の姿がもっとも素直に出た作品”
として根強い人気を誇る。
おすすめアルバム(5枚)
- No Code / Pearl Jam (1996)
直接の前段階。内省から開放へ向かう変化が見える。 - Vs. / Pearl Jam (1993)
バンドのパワーと衝動の原点。 - Vitalogy / Pearl Jam (1994)
混乱と創造が渦巻く中期の重要作。 - Into the Wild / Eddie Vedder (2007)
フォーク志向の精神性をより深く味わえる。 - R.E.M. / New Adventures in Hi-Fi
90年代後半の“成熟したロック”の対照作品として。
制作の裏側(任意セクション)
『Yield』の制作は、
Pearl Jam 史上もっとも“民主的”だったと言われている。
それぞれのメンバーが作曲やアイデアを積極的に持ち寄り、
エディの独裁感が薄れたことで、
バンド全体の空気が非常に良くなった。
また、製作中のバンドには
「完璧を求めすぎない」
「自然発生的な曲展開を尊重する」
という意識が共有され、
その“余白の美しさ”がアルバムの開放感につながっている。
ツアーでもメンバーはリラックスし、
ファンとの距離も徐々に縮まっていく。
Pearl Jam が“戦うバンド”から
“受け入れるバンド”へ変化する、その重要な境目が
『Yield』に刻まれている。



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