
発売日: 2006年5月2日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ガレージロック、ハードロック、パンクロック
『Pearl Jam』(通称:Avocado)は、2006年に発表されたバンドの8作目である。
2000年代初頭、Pearl Jam は『Binaural』(2000)『Riot Act』(2002)を通して、
精神的な深淵を探り、喪失と政治、孤独と再生といった重いテーマを扱ってきた。
その流れから大きく舵を切り、
本作は “力強さ・明快さ・外向きのエネルギー” を取り戻した作品となった。
サウンドは、
- ストレートなギターロック
- 70年代ハードロック的な重量感
- パンクの衝動
- 直線的で骨太なバンドアンサンブル
と、これまでの内省・実験路線とは大きく異なる方向を見せる。
2000年代アメリカの政治状況へのFrustration、
バンド内の士気の向上、
新しいレーベル契約の影響など、
さまざまな要素が“強く、速く、明確なPearl Jam”を生んだ。
結果として本作は、
“バンドが再び生き返ったアルバム” として広く認識されている。
全曲レビュー
1曲目:Life Wasted
アルバムの方向性を一発で示す、直線的なロックバンガー。
死と再生をテーマにしつつ、強い前向きなエネルギーが貫く。
2曲目:World Wide Suicide
大統領府・戦争政策への直接的批判を込めた政治曲。
鋭いリフと切迫した歌唱が、バンドの怒りを鮮烈に刻む。
本作最大の象徴曲。
3曲目:Comatose
パンク的テンションの高いショートチューン。
焦燥と攻撃性をそのまま吐き出すような勢いがある。
4曲目:Severed Hand
ドラマティックなギターワークが特徴。
サイケ的な響きとハードロックが溶け合うエネルギッシュな曲。
5曲目:Marker in the Sand
宗教と戦争をめぐる重いテーマ。
叙情性と激しさが共存し、バンドの“知性と激情”が表れる。
6曲目:Parachutes
フォーキーで美しい休息のような曲。
エディの声が柔らかく広がる。
7曲目:Unemployable
アメリカの労働者層の苦境を描く物語曲。
社会批評とポップ性が良いバランスで成り立つ。
8曲目:Big Wave
サーフロックの軽快さと豪快さ。
中期Pearl Jamにして珍しい“海風ロック”。
9曲目:Gone
走り続ける人生からの逃避、再出発を描いた曲。
ロードムービー的な広がりがある。
10曲目:Wasted Reprise
短いインタールード的曲。
“Life Wasted”のテーマを静かに回収する。
11曲目:Army Reserve
Mike McCready のギターと美しいコーラスが主役。
国家と個人の距離を描く、陰影の深いソングライティング。
12曲目:Come Back
アルバム随一のスロウバラッド。
魂のこもったエディの歌が胸を打つ、感情的な名曲。
13曲目:Inside Job
Ed Vedder ではなく、Mike McCready が作詞・作曲した曲。
精神的解放と自己回復をテーマにした壮大な終曲。
アルバム全体を静かに、しかし強くまとめ上げる。
総評
『Pearl Jam』(Avocado)は、
バンドが “内省の森から外へ出た瞬間” を記録したアルバムである。
特徴を整理すると、
- ストレートなロック回帰
- 政治的怒りと個人的再生の並立
- エネルギッシュで外向きのアレンジ
- バンドとしての結束の強まり
- “迷いのないPearl Jam”という珍しい姿
『No Code』『Yield』『Binaural』『Riot Act』と続いた
“精神性主体の4部作”のあとに訪れた、
分かりやすく強いロックへの帰還。
その変化が非常に鮮烈で、
ファンの間で根強い人気を持つ理由になっている。
同時期のバンドと比較するなら、
・Foo Fighters の直球ロック
・Audioslave の硬質なギターサウンド
・R.E.M. の社会批評的ロック
などと響き合う。
しかし Pearl Jam はより人間味と誠実さが強く、
“社会に対して正面から向き合う姿勢”が際立つ。
おすすめアルバム(5枚)
- Yield / Pearl Jam
精神性と開放感のバランスが近い前作。 - Backspacer / Pearl Jam (2009)
さらに軽やかで前向きなロックへの継続進化。 - Into the Wild / Eddie Vedder
エディの思想と声の深みが理解しやすくなる。 - Foo Fighters / The Colour and the Shape
同時代の直球ロック文脈での比較に最適。 - Audioslave / Audioslave
政治的・情動的な緊張感の共有。
制作の裏側(任意セクション)
本作は、バンドが“再出発”を実感した時期に作られた。
Roskilde の悲劇を乗り越えた後、
メンバーは音楽の喜びを再認識し、
ライブ時の空気も以前より軽やかになったという。
また制作では、
「複雑にしすぎない」
「本能的に演奏する」
という方針が共有され、
結果としてアルバム全体が
“原点回帰しつつも進化している音”
になった。
政治的怒りを真正面から歌いながら、
同時に“生きることへのやさしさ”が滲む。
Pearl Jam の人間性とバンドとしての強さが
もっともストレートな形で表れた一枚——
それが『Pearl Jam(Avocado)』である。



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