発売日: 2023年2月17日
ジャンル: ポップロック、シンセポップ、アダルト・ポップ、ダンスポップ
概要
『Trustfall』は、P!nk が2023年に発表した9作目のスタジオアルバムであり、
“信じて、飛び込む” というテーマを軸にした、
キャリア後期の成熟と挑戦が同居する作品である。
パンデミック後、世界の不安定さが強まる中、
P!nk は “怖がりながらも前に進む” という、
極めて人間的で普遍的なテーマに向き合った。
サウンドは、
– シンセポップ
– モダンなダンスビート
– アコースティックバラード
– ポップロック
と幅広く、近年のP!nkの作品の中でも特にカラフル。
プロデューサー陣には Max Martin、Shellback、Greg Kurstin、Fred again..、
さらに Chris Stapleton や The Lumineers とのコラボも実現し、
“温度のあるポップ” が多層的に構築されている。
本作の軸となるのは、
恐れ・不安・喪失・希望・回復・そして信頼。
P!nkが50歳を前に迎えた“人生の折り返し”ならではの視点が色濃く、
感情の深みと普遍的メッセージが同居した作品となっている。
全曲レビュー
1. When I Get There
亡くなった父への想いを綴った感動的なバラード。
“そっちはどう？また会えたら教えて”という切実な歌詞が胸に迫る。
アルバム全体の“傷と再生”のテーマを静かに提示する名曲。
2. Trustfall
アルバムの象徴となる大ヒット曲。
シンセポップ×ダンスビートの高揚感と、
“飛び込む勇気”というテーマが完璧に融合したアンセム。
P!nkのボーカルがドラマチックに上昇し、圧巻の完成度。
3. Turbulence
不安定な日々の揺れを、飛行機の乱気流に例えるバラード。
支え合う関係の温かさがじんわりと滲み出る。
4. Long Way to Go (feat. The Lumineers)
フォークロックの質感を持つデュエット。
The Lumineers の温かな音色が加わり、優しく包み込むような世界が広がる。
5. Kids in Love (feat. First Aid Kit)
ノスタルジックで爽やかなポップソング。
淡い光のようなメロディと、First Aid Kit の美しいハーモニーが魅力。
6. Never Gonna Not Dance Again
アルバムでもっとも明るく、躍動感のあるダンスポップ。
人生の辛さを抱えながらも“でも私は踊り続ける”という前向きさが最高にP!nkらしい。
7. Runaway
キャッチーで軽く弾むポップチューン。
“逃げ出す衝動”と“前に進む意思”が同時に描かれる。
8. Last Call
アコースティック寄りの優しい曲。
夜の静けさの中で、心を整えていくような雰囲気がある。
9. Hate Me
攻撃的なタイトルとは裏腹に、自己防衛と他者への苛立ちの狭間を描く深い一曲。
感情の複雑さがP!nkらしくて美しい。
10. Lost Cause
疲れ果てた関係の終わりを静かに受け入れる曲。
メロディの哀愁が深く残る。
11. Feel Something
“もう一度ちゃんと感じたい”という切実な心情を綴ったスロウ。
内省の深さがアルバムの陰影を強調する。
12. Our Song
失われた愛の残滓を拾い上げるような優しいナンバー。
P!nkの声の温度が心に沁みる。
13. Just Say I’m Sorry (feat. Chris Stapleton)
“ごめんと言ってほしいだけ”という、
シンプルで強烈な感情を歌ったカントリーバラード。
Chris Stapleton との掛け合いが圧倒的な深みを生む。
総評
『Trustfall』は、P!nk のキャリア後期を象徴する
成熟・痛み・希望・人間性 の結晶のような作品である。
これまでのような強烈な反骨精神や毒気は控えめだが、
代わりに “恐れと信頼の間で揺れるリアルな大人の感情” が中心にある。
派手に走るのではなく、深く沈んでまた上がるような、
静と動のバランスが非常に美しい。
サウンドは近年のP!nk作品の中でも特に多彩で、
シンセポップもアコースティックもフォークもダンスも、
すべてが自然な形で一枚にまとまっている。
とりわけ
「When I Get There」
「Trustfall」
「Hurts 2B Human」
「Love Me Anyway」
といった近年の代表曲群と並べると、
“成熟したP!nkの世界観”がより鮮明に浮かび上がる。
おすすめアルバム（5枚）
- Hurts 2B Human / P!nk
感情的な深さや成熟したテーマが近い。 - Beautiful Trauma / P!nk
ポップとアコースティックのバランスの良い前作。 - Funhouse / P!nk
痛みと回復の物語を描く、精神性の高い作品。 - Kelly Clarkson / Chemistry
大人の複雑な感情を描くポップ作品として相性が良い。 - Sia / This Is Acting
ドラマティックで普遍的なポップ表現が共鳴する。
制作の裏側
『Trustfall』はパンデミック中〜後期に制作が進み、
P!nk 自身も家族の問題や喪失、世界の不安に直面していた。
そのため曲の多くには、
“恐れながらも前進する勇気”
“愛する人を信じることの難しさと美しさ”
が強く反映されている。
また、プロデューサー陣にはポップ最前線の才能が並び、
Fred again.. のシンセパッド、Greg Kurstin のアコースティックセンス、
Max Martin のメロディ構築力が統合され、
“現代のP!nkサウンド”がアップデートされた。
『Trustfall』は、
P!nk が成熟した人生のフェーズを迎え、
それでも希望を手放さずに進む姿を描いた、
温かく深いポップアルバムである。
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