発売日: 1977年6月
ジャンル: ポップ、ソフトロック、カントリーポップ
概要
『Making a Good Thing Better』は、Olivia Newton-John が1977年にリリースしたアルバムであり、70年代中期の“メロウで穏やかなポップ路線”を締めくくるような位置づけにある。
前作『Don’t Stop Believin’』までの静かな癒しと、カントリーポップを基調とした柔らかい世界観は本作でも継続されているが、同時に少しだけドラマ性や華やかさが加わり、“より都会的で洗練されたポップ”への橋渡し的性格が強い作品となっている。
特に興味深いのは、1977年というタイミングである。
この年は、Olivia が後に世界的ブレイクを果たす『Grease』（1978）の準備段階にあり、彼女のサウンドとイメージが微妙に変化しつつある時期にあたる。
『Making a Good Thing Better』では、これまでの牧歌的なソフトロックから少し距離を取り、ストリングスの華やかさや軽やかなディスコ的リズムを控えめに導入し、“次の時代”のOliviaを予感させる要素が散りばめられている。
しかし全体としては、彼女本来の穏やかで透明な声を中心に据えたメロウポップの延長線上にあり、心に優しく触れる歌がアルバムの核を成している。
“日常の揺れ”、“恋の綻び”、“前に進むための明るさ”——そういった小さな感情が丁寧に描かれ、聴く者を包み込む作品となっている。
全曲レビュー
1. Making a Good Thing Better
タイトル曲にして、アルバムの空気感を象徴するナンバー。
軽やかなストリングスとソフトロックのニュアンスが混ざり合い、“良いことをもっと良くする”という前向きなテーマを優しく運んでくる。
声の柔らかい広がりが印象的で、温かい幕開けだ。
2. Slow Dancing
優雅なスローダンスを描いた甘いバラード。
ゆったりしたテンポに漂うロマンティックさが、Olivia の透明な声と完璧に合っている。
夜の静けさに似合う一曲である。
3. Ring of Fire
Johnny Cash の名曲を大胆に再解釈したカバー。
原曲の情熱と荒々しさを抑え、柔らかく丸いカントリーポップへと変換している。
彼女独自の清潔な色彩が宿る興味深いアプローチだ。
4. Coolin’ Down
夏の夕暮れのような涼しさを感じさせるポップス。
軽く弾むリズムと、爽やかなアコースティックの質感が心地よい。
アルバム中でも明るいトーンを担う楽曲である。
5. So Easy to Begin
Eric Kaz の繊細な名曲をカバー。
別れを静かに受け止めるような淡いメロディが、Olivia の声と驚くほど相性がいい。
寂しさのニュアンスがそっと胸に滲む一曲。
6. Don’t Ask A Friend
前作から続く楽曲で、恋の迷いにユーモアを添える。
テンポは軽快だが、歌詞はリアルで小さな痛みを内包しているのが面白い。
自然体な歌唱が魅力だ。
7. You Won’t See Me Cry
切ない別れを描くソフトロック寄りのバラード。
“泣いている姿は見せない”という静かな誇りと傷心の混ざる表現が美しい。
メロディラインの滑らかさも際立っている。
8. Lovers
穏やかな愛をテーマにした柔らかいカントリーポップ。
アコースティックギターの響きが心地よく、優しい午後の光のような一曲である。
9. Good Life
人生の明るい側面に目を向ける前向きな曲。
軽やかなノリで、アルバムに緩やかな温度上昇を与えている。
10. Borrowed Time
“借り物の時間を生きているようだ”という詩的なテーマを持つ美しいバラード。
余白の多いアレンジが、Olivia の声をより近く感じさせる。
11. The Last Time You Loved Me
恋の終わりを見つめる静かなラストナンバー。
声の透明感が、寂しさを柔らかい情景として捉え直す。
アルバムを静かに締めくくる余韻が素晴らしい。
総評
『Making a Good Thing Better』は、Olivia Newton-John の70年代中期ソフトロック／カントリーポップ期の“集大成的”作品であり、同時に“次の時代への前触れ”を含んだアルバムである。
本作には、これまでの柔らかな癒しと恋の余韻を描くバラード群が詰め込まれているが、一方でアレンジには少しだけモダンで洗練された質感が増し、都会的な風が吹き始めている。
同時代の Linda Ronstadt がロック色を強めていくのに対し、Olivia はあくまで温かいメロウネスを中心に据え、ソフトな情緒表現を深化させている。
その特徴は本作でも明確で、声の透明感と優しさが楽曲を柔らかく包み込み、すべてを“心地よさ”へと変換してしまう。
また、選曲にはカバーとオリジナルが自然に混ざり、アルバムの統一感は非常に高い。
派手さを避けた制作方針、余白を活かしたアレンジ、静かな心の揺れを描く歌詞——いずれも彼女の強みを最大限に生かしている。
今日改めて聴くと、『Making a Good Thing Better』は時代の境界に立つ興味深い作品でありながら、普遍的な温かさを持つ“メロウポップの宝石”のように響く。
Olivia Newton-John の声が持つ癒しの力を存分に味わえる一枚なのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- Come On Over / Olivia Newton-John
直前作であり、本作の音楽性と強い連続性を持つ。 - Don’t Stop Believin’ / Olivia Newton-John
静かで穏やかな表現の成熟が味わえる。 - Have You Never Been Mellow / Olivia Newton-John
メロウポップの基盤を確立した彼女の代表作。 - Linda Ronstadt / Hasten Down the Wind
70年代後半の女性ポップ／カントリーの文脈を知る比較対象として最適。 - Anne Murray / Let’s Keep It That Way
柔らかい声質と穏やかなアレンジという点で近い。
制作の裏側
本作の制作では、“メロウで都会的な質感”を意識したサウンドが追求されている。
アコースティック楽器、スチールギター、温かいストリングスが中心だが、控えめなパーカッションや軽いグルーヴ要素が導入され、70年代後半へ向かうポップスの動きを反映している。
演奏は緻密だが主張しすぎず、あくまでOlivia の声を包む“やわらかい布”のように機能している。
プロデューサーは声の親密さを重視し、ミックスでは余白を丁寧に扱い、過剰にならないエモーションを保つよう設計されたと考えられる。
その結果、『Making a Good Thing Better』は、Olivia Newton-John のメロウポップ期の締めくくりとしてふさわしく、彼女の声が最も美しく響く空気感を持った作品に仕上がったのである。
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