
発売日: 2008年7月22日
ジャンル: ポップ・ロック、ティーン・ポップ
概要
『Breakout』は、マイリー・サイラスがディズニーの人気ドラマ『ハンナ・モンタナ』の名を離れ、
本格的なソロアーティストとしての第一歩を刻んだアルバムである。
当時15歳であった彼女は、子ども向けスターから“自立する若き女性”へと変貌を遂げる途上にあり、
その心情がタイトルの“Breakout(脱出・解放)”に象徴されている。
アルバムのサウンドは、アメリカン・ポップロックの王道。
軽快なギターリフ、明るいメロディ、ティーンらしい感情の揺らぎが満ちている。
だが、その中には**“自分で考え、自分で選ぶ”という強い意志**が宿っており、
後のマイリーのアーティスト像(反逆と再生)を予告している。
全曲レビュー
1. Breakout
タイトル曲であり、アルバムのテーマをそのまま体現した1曲。
「ルールを壊して、自分の生き方を探す」という宣言が清々しい。
ギターサウンドが爽快で、青春映画の冒頭のような勢いがある。
2. 7 Things
元恋人ニック・ジョナスを暗に歌ったとされる失恋ソング。
「あなたの嫌いな7つのこと、でもまだ好きな1つのこともある」という構成が秀逸。
ティーンポップにしては異常にリアルな感情の描写が、多くの共感を呼んだ。
3. The Driveway
アコースティックな質感で、別れと成長を描くバラード。
“車道に立って、あなたが去るのを見ている”という映像的表現が印象的。
この時点ですでに、マイリーのシンガーソングライター的感性が芽生えている。
4. Girls Just Wanna Have Fun
シンディ・ローパーの名曲カバー。
80年代ポップの名残をキュートに再構築し、
世代を超えた“ガールズ・アンセム”として再び輝かせた。
5. Full Circle
恋の終わりをサーカスの輪にたとえたアップテンポ曲。
ポップなメロディの裏に切なさが漂う。
青春の不安と希望が交錯する、アルバムの中でも最もバランスの取れた一曲。
6. Fly on the Wall
スパイ映画のようなリズムとメロディが特徴的な異色作。
“私のことを見張るパパラッチたち”への風刺が込められている。
メディアとの戦いというテーマは、後の『Bangerz』時代にも通じる。
7. Bottom of the Ocean
しっとりとしたバラードで、恋人を失った悲しみを“海の底”に喩える。
繊細なボーカルコントロールが光り、
この若さでここまで感情表現ができることに驚かされる。
8. Wake Up America
環境問題への関心を示した社会派ソング。
マイリーの初期作品の中でも、最も意識的なメッセージを持つ曲である。
「地球を救うために立ち上がろう」という直球の呼びかけが、ティーンの良心を刺激した。
9. These Four Walls
静謐なピアノ・バラード。
“この四つの壁の中で、あなたを忘れようとする”――孤独と喪失の詩。
マイリーの成熟を感じさせる美しいトラック。
10. Simple Song
“音楽があれば私は生きていける”という彼女の原点的メッセージ。
タイトルどおりシンプルでありながら、音楽と自己表現の必然性を描く。
11. Goodbye
アルバム終盤のハイライト。
別れの痛みと感謝が交錯する叙情的ナンバー。
歌声には、すでに少女ではないマイリーの“芯の強さ”が宿っている。
12. See You Again (Rock Mafia Remix)
デビュー期の人気曲をリミックスしたボーナストラック。
当時のマイリーらしいエネルギッシュなカラフルさで締めくくる。
総評
『Breakout』は、マイリー・サイラスの“脱・ハンナ・モンタナ宣言”であり、
彼女が初めて自分自身の声を獲得した瞬間である。
ポップで明るい旋律の裏に、10代特有の葛藤――「愛されたい」「自由でいたい」「理解されたい」――が隠されている。
そしてそれを歌として昇華する力こそ、マイリーの本質だ。
この作品で彼女は“子ども向けスター”から“自立した女性アーティスト”へと脱皮し、
後の『Bangerz』(2013)の挑発的進化へとつながっていく。
ポップロックとしての完成度も高く、
ミドルテンポ曲の表情豊かさは、当時のティーンポップの中でも際立っている。
マイリーのキャリアを振り返ると、『Breakout』は自由の最初の一歩であり、
今なお“純粋に前を向くポップス”として輝きを放っている。
おすすめアルバム
- Can’t Be Tamed / Miley Cyrus (2010)
自己解放の第2章。ロック色を強めた進化作。 - Bangerz / Miley Cyrus (2013)
アダルトなポップと反逆精神が融合した転換点。 - Teenage Dream / Katy Perry (2010)
同時期の女性ポップ代表作。時代のムードを共有。 - Fearless / Taylor Swift (2008)
同年リリース。青春と自立を描いたカントリー・ポップの傑作。 - Future Nostalgia / Dua Lipa (2020)
マイリーのポップス路線を現代に継承する作品。
制作の裏側
アルバムの制作にはジョン・シャンクスや**ロック・マフィア(Rock Mafia)**といったヒットメイカーが参加。
マイリーはボーカル・メロディや歌詞にも積極的に関与し、
“自分の意志を持つアーティスト”としての姿勢を明確に示した。
当時のマイリーはツアーとテレビ撮影を並行してこなしており、
このアルバムは彼女の多忙な10代の記録でもある。
それでも彼女は、自分の言葉で“自由”“成長”“痛み”を歌った。
『Breakout』は、まだ少女のように無垢で、しかし確かに自分の翼を広げ始めた瞬間を切り取っている。
それは、彼女が後にどれほど過激に進化しても失われない“純粋な初期衝動”の証として、今も鮮烈に輝いている。



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