
1. 歌詞の概要
「Rhiannon」は、Fleetwood Macが1975年に発表した楽曲である。
同年リリースのアルバム『Fleetwood Mac』に収録され、翌1976年にシングルとしてリリースされた。作詞作曲はStevie Nicks。プロデュースはFleetwood MacとKeith Olsenが担当している。アメリカではBillboard Hot 100で最高11位を記録し、Stevie Nicks加入後のFleetwood Macを象徴する代表曲のひとつとなった。
タイトルの「Rhiannon」は、女性の名前である。
この名前には、神話的な響きがある。
そして実際に、この曲の魅力は、その名前が放つ魔法のような力にある。
「Rhiannon」で描かれる女性は、現実の恋人のようでもあり、夢の中の存在のようでもあり、魔女のようでもあり、女神のようでもある。
彼女は鳥のように飛ぶ。
風のように現れる。
誰にも完全には捕まえられない。
男たちは彼女を愛するが、彼女はひとつの場所にとどまらない。
この曲は、単なるラブソングではない。
むしろ、自由な女性像への賛歌である。
同時に、その自由に惹かれ、振り回され、追いかけずにはいられない人々の歌でもある。
「Rhiannon」の主人公は、恋愛対象というより、ひとつの現象に近い。
彼女が部屋に入ると空気が変わる。
彼女が歌うと、人々は耳を傾ける。
彼女が去ると、そこに残された人たちは、何か大切なものを見失ったような気持ちになる。
Stevie Nicksの声は、この曲で特別な力を持っている。
彼女はRhiannonを説明しない。
演じる。
あるいは、呼び出す。
歌っているうちに、Stevie自身がRhiannonになっていくように聴こえる。
スタジオ録音でもその気配はあるが、ライブではさらに強い。
70年代のライブ映像や録音での「Rhiannon」は、しばしば呪術的な熱を帯びる。
曲が進むにつれて、声が高まり、バンドが加速し、Rhiannonという名前がただの名前ではなくなる。
それは呼び声になる。
祈りになる。
あるいは、何かを解き放つ呪文になる。
サウンドは、Fleetwood Macらしい洗練と緊張が同居している。
Lindsey Buckinghamのギターは、鋭くも流れるように鳴る。
Christine McVieのキーボードは、幻想的な光を加える。
John McVieのベースとMick Fleetwoodのドラムは、曲をしなやかに支えながら、内側に不穏な推進力を宿している。
そして、その上にStevie Nicksの声が舞う。
「Rhiannon」は、Fleetwood Macの新しい時代を告げる曲だった。
同時に、Stevie Nicksというアーティストが持つ神秘性を、世界へ最初にはっきり刻みつけた曲でもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Rhiannon」は、Stevie NicksがまだFleetwood Macに加入する前に書いた曲である。
彼女はMary Bartlet Leaderの小説『Triad』を読んだ際に、そこに登場する「Rhiannon」という名前に強く惹かれた。
その時点でStevieは、ウェールズ神話のRhiannonについて深く知っていたわけではなかった。
しかし、その名前の響き、魔法めいた存在感、女性の神秘性に強く反応し、曲を書いた。
のちに彼女は、Rhiannonがウェールズ神話に登場する重要な女性像であることを知る。
中世ウェールズ文学『マビノギオン』に登場するRhiannonは、馬や鳥、異界、王妃、試練と結びついた存在であり、非常に神話的な広がりを持つ。
興味深いのは、Stevie Nicksが最初から神話を研究して曲を書いたわけではないことだ。
まず名前に惹かれた。
その名前から、自分の中に女性像が立ち上がった。
そして後から、その女性像が神話上のRhiannonとも不思議に重なっていたことを知った。
この流れが、とてもStevie Nicksらしい。
彼女のソングライティングには、しばしば直感が先にある。
言葉や名前、夢、風景、人物の気配が、まず彼女の中に入ってくる。
それが曲になり、あとから意味が追いついてくる。
「Rhiannon」もそうした曲である。
Fleetwood Macにとっても、この曲は転機だった。
1975年のアルバム『Fleetwood Mac』は、Lindsey BuckinghamとStevie Nicksが加入して初めてのアルバムである。
それ以前のFleetwood Macは、Peter Greenを中心としたブルース・ロック・バンドとして出発し、メンバー交代を繰り返しながら音楽性を変えてきた。
そこに、Buckingham Nicksとして活動していたLindseyとStevieが加わることで、バンドはまったく新しい色を得る。
Lindseyの精密で鋭いギターとアレンジ感覚。
Stevieの神秘的な声とソングライティング。
Christine McVieの温かく洗練されたポップセンス。
そして、Mick FleetwoodとJohn McVieのリズム隊。
この組み合わせによって、Fleetwood Macは70年代後半のロック/ポップを代表するバンドへ変貌していく。
「Rhiannon」は、その新生Fleetwood Macの魔法を象徴する曲だった。
シングルとしては1976年にリリースされ、アメリカで大きな成功を収めた。
しかし、この曲の本当の力は、ライブでさらに大きくなった。
Stevie Nicksは当時、この曲を「ウェールズの魔女についての歌」と紹介することがあった。
その言葉は、厳密な神話解説というより、ステージ上でのイメージ作りとして非常に効果的だった。
黒い衣装、流れる袖、金色の髪、回転するような身体の動き。
Stevieが「Rhiannon」を歌う姿は、ロック・シンガーでありながら、儀式の中心に立つ巫女のようでもあった。
この曲は、Stevie Nicksのステージ・ペルソナを決定づけた。
彼女はただ歌う人ではなく、物語をまとって現れる人になった。
女性の自由、孤独、魔力、傷つきやすさ、強さ。
それらを一人の姿に集める存在になった。
「Rhiannon」は、その出発点である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の引用は、著作権に配慮し、批評と解説に必要な短い範囲にとどめる。
Rhiannon rings like a bell
和訳:
リアノンは鐘のように鳴り響く
この一節は、曲の世界を一瞬で開く。
普通なら、人の名前は「呼ばれる」ものだ。
しかしここでは、Rhiannonという名前そのものが「鳴る」。
鐘のように響く。
空気を震わせる。
遠くまで届く。
そして、人を呼び寄せる。
この表現によって、Rhiannonは単なる女性ではなく、音そのもの、あるいは現象のように描かれる。
彼女は存在しているだけで響く。
その響きに、人々は引き寄せられる。
もうひとつ、曲の核心にある短いフレーズがある。
She rules her life like a bird in flight
和訳:
彼女は飛ぶ鳥のように、自分の人生を支配している
この一節は、Rhiannonという女性像を最も美しく示している。
彼女は誰かに所有されない。
誰かの期待に従って生きるわけでもない。
鳥のように飛び、自分の動きで空を選ぶ。
ここでの「rules her life」という表現は重要である。
彼女は人生に流されているのではない。
自分の人生を自分で支配している。
それが、周囲の人々には神秘的にも、危険にも、魅力的にも見える。
Rhiannonは自由な女性である。
しかし、その自由はやさしいだけではない。
捕まえられない自由。
誰かを置き去りにする自由。
愛されながらも、完全には属さない自由。
そこに、この曲の甘さと痛みがある。
さらに印象的な一節がある。
Would you stay if she promised you heaven?
和訳:
彼女が天国を約束したら、あなたはとどまるだろうか
この問いは、Rhiannonの魅力と危うさをよく表している。
彼女は天国を約束できる存在のように見える。
しかし、その約束は本当に信じられるのか。
彼女についていけば救われるのか。
それとも、さらに深く迷い込むのか。
この曲は、Rhiannonを完全な救いの存在として描かない。
むしろ、彼女は誘惑であり、謎であり、自由そのものなのだ。
引用した歌詞の権利は、各権利者に帰属する。引用は批評・解説を目的とした最小限の範囲で行っている。
4. 歌詞の考察
「Rhiannon」は、自由な女性をめぐる曲である。
ただし、その自由は明るいだけではない。
Rhiannonは魅力的だ。
人を惹きつける。
名前は鐘のように鳴り、彼女の存在は空気を変える。
男たちは彼女を愛し、追いかけ、天国のようなものを夢見る。
しかし、彼女は誰のものにもならない。
ここが重要である。
多くのラブソングでは、愛の対象は「手に入れたいもの」として描かれる。
好きな人を振り向かせたい。
そばにいてほしい。
自分だけを見てほしい。
しかし「Rhiannon」では、彼女を捕まえることができない。
彼女は鳥のように飛ぶ。
風のように現れる。
そして、去っていく。
この不可侵性が、Rhiannonの力である。
Stevie Nicksは、Rhiannonを単なる男性目線のミステリアスな女性として描いているわけではない。
むしろ、彼女自身がRhiannonに深く同化している。
この曲を歌うStevieは、Rhiannonを外から説明する語り手であると同時に、Rhiannonそのものでもある。
だから、曲は不思議な二重構造を持つ。
彼女について歌っている。
でも、歌っているうちに彼女になっていく。
この二重性が、ライブでの「Rhiannon」を特別なものにした。
スタジオ録音では、曲は比較的抑制されている。
ギターとキーボードが繊細に絡み、リズムはしなやかに進む。
Stevieの声も、神秘的でありながら整っている。
しかしライブでは、曲はしばしば激しく変貌する。
Stevieの声は叫びに近づき、Rhiannonの名前は何度も呼ばれ、曲は徐々に儀式のような熱を帯びる。
そこでは、歌詞の中の魔女や女神のイメージが、単なる比喩ではなくステージ上の現実になる。
Fleetwood Macというバンドの中で、この曲が重要なのは、Stevie Nicksの神話的な側面を最初に大きく示したからである。
Christine McVieは、より地に足のついた温かいポップ・ソングを得意とした。
Lindsey Buckinghamは、緻密な構築力と神経質なエネルギーを持ち込んだ。
Stevie Nicksは、そこに夢、神話、霧、女性的な魔力を持ち込んだ。
「Rhiannon」は、その役割を明確にした曲だ。
この曲のRhiannonは、恋愛の相手でありながら、同時にひとつのアーキタイプでもある。
アーキタイプとは、神話や夢の中に繰り返し現れる原型のようなものだ。
自由な女。
魔女。
女神。
鳥。
風。
運命を変える存在。
Rhiannonには、それらが重なっている。
だからこそ、この曲は特定の物語を知らなくても響く。
ウェールズ神話を知らなくても、Mary Bartlet Leaderの『Triad』を読んでいなくても、Rhiannonという存在の気配は伝わる。
この女性は普通ではない。
彼女には何かがある。
そう感じさせるだけの力が、メロディと声にある。
音楽的には、Lindsey Buckinghamのギターが大きな役割を果たしている。
彼のギターは、ブルース・ロック的に太く押すのではなく、細かく刻み、曲に不穏な推進力を与える。
リズムは軽いが、どこか急かされるような感じがある。
それが、Rhiannonを追いかける感覚に合っている。
Christine McVieのキーボードは、曲に幻想的な色を加える。
特にライブでのフェンダー・ローズの響きは、鐘や水晶のような質感を持ち、Rhiannonの名前が鳴る世界を音で支えている。
リズム隊も見事である。
John McVieのベースは、曲を地面につなぎ止める。
Mick Fleetwoodのドラムは、抑えられているが、内側にじわじわと熱をためている。
そのため、曲は浮遊しながらも、完全には宙に消えない。
このバランスが素晴らしい。
Rhiannonは鳥のように飛ぶ。
だが、曲そのものには大地のグルーヴがある。
そのため、神話的なイメージがただのファンタジーにならず、身体を持ったロック・ソングとして響く。
また、「Rhiannon」はStevie Nicksの女性像を考えるうえでも重要である。
彼女の曲には、強く、自由で、傷つきやすく、孤独な女性が何度も登場する。
「Landslide」では変化を怖がる若い女性がいる。
「Dreams」では別れを受け入れながら相手を見つめる女性がいる。
「Gold Dust Woman」では名声と破壊の中にいる女性がいる。
「Gypsy」では失われた自由を思い出す女性がいる。
その系譜の最初に、「Rhiannon」がいる。
彼女はStevie Nicksの内側にある自由と魔力の象徴なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Dreams by Fleetwood Mac
Stevie Nicksが書いたFleetwood Mac最大の代表曲のひとつである。「Rhiannon」が神話的で捕まえられない女性像を描く曲だとすれば、「Dreams」は別れの中で冷静に相手を見つめる女性の曲である。
どちらもStevieの声が持つ浮遊感と強さがよく出ており、彼女のソングライターとしての魅力を知るには欠かせない。
- Gold Dust Woman by Fleetwood Mac
『Rumours』収録曲で、Stevie Nicksの暗く妖しい側面が最も濃く出た楽曲である。「Rhiannon」の魔女的な魅力が好きなら、「Gold Dust Woman」のドラッグ、名声、疲弊、女性的な呪術性が混ざった世界も深く刺さるはずだ。
「Rhiannon」が空を飛ぶ鳥なら、「Gold Dust Woman」は夜の砂漠に立つ幻のような曲である。
- Sisters of the Moon by Fleetwood Mac
『Tusk』収録曲で、Stevie Nicksの神秘的なイメージをさらに濃くした一曲である。
「Rhiannon」で提示された月、夜、女性の魔力といった要素が、より暗く、よりドラマチックに展開されている。ライブでの迫力も含めて、Stevieの巫女的な魅力を味わえる。
- The Chain by Fleetwood Mac
Fleetwood Macのバンドとしての緊張感を象徴する曲である。「Rhiannon」はStevie Nicksの神話性を中心にした曲だが、「The Chain」はメンバー全員の関係性、怒り、結束、崩壊寸前の力が一体化している。
Fleetwood Macが単なる美しいポップ・バンドではなく、人間関係の火花を音楽に変えたバンドであることがよくわかる。
- Edge of Seventeen by Stevie Nicks
Stevie Nicksのソロ代表曲で、死と喪失を白い翼の鳩のイメージに重ねた力強いロック・ナンバーである。
「Rhiannon」の鳥や飛翔のイメージが好きな人には、この曲の白い翼、鋭いギター、そしてStevieの強烈なヴォーカルも響くだろう。Fleetwood Mac時代の神秘性が、よりソロ・アーティストとしての強さへ変わっている。
6. 魔女、鳥、女神、そしてStevie Nicks自身が重なるロックの儀式
「Rhiannon」は、Fleetwood Macの代表曲であると同時に、Stevie Nicksという存在の誕生を告げる曲である。
もちろん、彼女はこの曲以前にも優れたソングライターだった。
「Landslide」も同じアルバムに収録されているし、Buckingham Nicks時代から彼女の才能はすでに表れていた。
しかし、「Rhiannon」は違う。
この曲は、Stevie Nicksの神話を作った。
黒い衣装。
流れる袖。
回転する身体。
かすれた声。
魔女のようで、女神のようで、傷ついた人間のようでもある女性像。
そのすべてが、「Rhiannon」とともに立ち上がった。
この曲の魅力は、説明しきれないところにある。
歌詞だけを読むと、Rhiannonという女性についての幻想的な歌である。
しかし、実際に聴くと、それ以上のものがある。
名前の響き。
ギターの動き。
キーボードの光。
リズムのうねり。
そしてStevieの声。
それらが合わさることで、Rhiannonは実在する人物ではなく、ひとつの力になる。
彼女は自由の象徴だ。
でも、その自由は優しいだけではない。
誰かを置き去りにする。
誰にも所有されない。
愛されても、ひとつの場所には留まらない。
この女性像は、1970年代のロックの中で非常に強かった。
女性シンガーが、ただ男性に愛される存在としてではなく、自分自身の神話を作る存在として立つ。
その意味で、「Rhiannon」はフェミニンなロック・アイコンの重要な曲でもある。
Stevie Nicksは、Rhiannonを歌うことで、ロックの舞台に魔法を持ち込んだ。
それは現実逃避の魔法ではない。
むしろ、女性の自由や孤独、欲望、不可解さを、現実よりもはっきり見せるための魔法である。
「Rhiannon」は、聴くたびに少し違う顔を見せる。
あるときは恋の歌に聴こえる。
あるときは自由への歌に聴こえる。
あるときは、Stevie Nicks自身の自己宣言に聴こえる。
あるときは、古い神話の女神がロック・バンドを通じて現れたようにも感じる。
この多層性が、曲を長生きさせている。
また、Fleetwood Macというバンドの演奏も、この曲を単なるStevie Nicksの個人世界に閉じ込めない。
Lindsey Buckinghamのギターが緊張を作り、Christine McVieの鍵盤が神秘性を加え、リズム隊が曲を地上につなぐ。
その上でStevieが舞う。
つまり、「Rhiannon」はバンド全体の魔法でもある。
ひとりの女性の声と、バンドのアンサンブルが、完璧なバランスで合わさっている。
この曲が1976年にヒットしたことは、Fleetwood Macの新時代にとって大きかった。
そして、その後の『Rumours』へ向かう流れの中で、Stevie Nicksがバンドの中でどれほど特別な物語を担う存在だったかを示した。
「Rhiannon」は、今聴いても古びない。
サウンドには70年代の温度がある。
しかし、Rhiannonという存在は今も生きている。
自由で、謎めいていて、捕まえられない女性。
名前が鐘のように鳴り、鳥のように飛び、誰かに天国を約束しながら、決して完全には属さない存在。
そのイメージは、時代を越えて強い。
Stevie Nicksは、この曲でただひとりの架空の女性を描いたのではない。
自分自身の中にある、そして多くの人の中にある、自由で魔法的な部分を呼び出したのだ。
だから「Rhiannon」は、ロック・ソングでありながら、儀式のようにも響く。
名前を呼ぶ。
声が高まる。
バンドが熱を帯びる。
聴き手は、その渦に巻き込まれる。
そして気づけば、Rhiannonは曲の中だけではなく、こちらの想像の中にもいる。
それこそが、この曲の魔法である。
参照情報
- Wikipedia – Rhiannon
- Billboard – Hot 100 1976年6月5日付
- Pitchfork – Stevie Nicks: Her Art and Life in 33 Songs
- MusicRadar – Stevie Nicks on writing Rhiannon
- Discogs – Fleetwood Mac / Fleetwood Mac

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