
1. 歌詞の概要
Los Endosは、Genesisが1976年に発表したアルバムA Trick of the Tailのラストを飾る楽曲である。アルバムは1976年2月13日にリリースされ、Peter Gabriel脱退後、Phil Collinsがリード・ボーカルを担う新体制で作られた最初のGenesis作品となった。A Trick of the Tailは英国アルバム・チャートで3位、米国Billboard 200で31位を記録し、バンドがGabriel不在でも創造力を失っていないことを示した重要作である。(Wikipedia)
Los Endosは基本的にインストゥルメンタル曲である。
つまり、一般的な意味での歌詞を中心にした曲ではない。
物語を言葉で説明する曲でもない。
登場人物の心情を歌い上げる曲でもない。
しかし、だからこそこの曲はGenesisにとって特別である。
Los Endosは、A Trick of the Tailというアルバム全体を音で締めくくるエンディングであり、同時に新生Genesisの決意表明でもある。
曲名のLos Endosは、スペイン語風の冗談めいた造語として受け取れる。
The Endを少しふざけて言い換えたような響きだ。
アルバムの最後に置かれる曲として、まさに終わりの曲である。
だが、実際に聴こえてくるのは終わりというより、再始動の高揚だ。
曲は、複数のリズムとテーマが絡み合いながら進む。
冒頭からドラムとパーカッションが躍動し、キーボード、ギター、ベースが次々と加わっていく。
音楽は徐々に巨大な渦になり、アルバム冒頭曲Dance on a Volcanoのテーマや、Squonkの要素も再び現れる。
つまりLos Endosは、アルバムの最後に置かれた総集編のような曲でもある。
ただし、単なるメドレーではない。
アルバムの中で一度聴いた要素が、別の形で戻ってくる。
それによって、A Trick of the Tail全体がひとつの円環になる。
最後に向かうほど、音は高揚し、祝祭的になり、しかしどこか切ない。
Phil Collinsはフェードアウト近くでSupper’s Readyの一節を短く歌う。これは1972年のアルバムFoxtrotに収録されたGenesisの大作を思わせるものであり、Peter Gabriel時代への静かな別れのようにも響く。(Wikipedia)
Los Endosは、言葉の少ない曲でありながら、非常に多くのことを語っている。
Gabrielが去った後のGenesis。
残された4人の演奏力。
過去への敬意。
新しい未来への前進。
そして、プログレッシブ・ロックが持つ構築美と身体的なグルーヴ。
この曲は、アルバムの終わりであると同時に、Genesisの新しい章の始まりなのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
Los Endosを理解するには、A Trick of the Tailというアルバムが置かれた状況を知る必要がある。
1974年のThe Lamb Lies Down on Broadwayを最後に、Peter GabrielはGenesisを脱退した。
Gabrielはバンドの顔であり、演劇的なステージング、奇妙な衣装、物語性の強い歌詞でGenesisのイメージを大きく作っていた人物である。
彼が抜けたことは、バンドにとって大きな危機だった。
多くのリスナーは、Genesisは終わったと思ったかもしれない。
あの声、あの仮装、あの奇妙な物語性がなくなったら、Genesisではないのではないか。
そんな疑問が当然あったはずだ。
しかし、残されたTony Banks、Mike Rutherford、Steve Hackett、Phil Collinsは続けることを選んだ。
A Trick of the Tailの制作は、まさにその証明のための作業でもあった。バンドはGabriel脱退後も自分たちは曲を書けるし、作品を作れるということを示そうとしていた。アルバムはTrident Studiosで1975年10月から11月に録音され、David HentschelとGenesisがプロデュースを担当している。(Wikipedia)
当初、バンドは新しいボーカリストを探していた。
Phil CollinsはすでにMore Fool Meなどで歌った経験があったが、正式なフロントマンになるつもりは強くなかったとされる。
しかし、最終的にCollinsがリード・ボーカルを担当することになる。
この選択は、後のGenesisの歴史を大きく変えた。
Los Endosは、そんなA Trick of the Tailの最後に置かれたインストゥルメンタルである。
この配置には強い意味がある。
アルバムを締めくくる曲でありながら、歌詞で説明しない。
つまり、最後にものを言うのはボーカルではなく、バンド全体の演奏なのだ。
これは、Gabriel脱退後のGenesisにとって非常に象徴的である。
Peter Gabrielの演劇性がなくても、Genesisはバンドとして語れる。
声だけでなく、演奏そのものが物語を作れる。
Los Endosは、それをはっきり示している。
曲の作曲はバンド全員によるものとされる。A Trick of the Tailは、それ以前のGenesis作品のように全曲バンド名義ではなく、個別クレジットが用いられた初のGenesisアルバムであり、Los EndosはPhil Collins、Steve Hackett、Mike Rutherford、Tony Banksの共作として位置づけられている。(Wikipedia)
この全員参加の性格も重要だ。
Los Endosは、誰か一人のソングライターの曲というより、バンド全体の力が結晶した曲である。
基本的なリズム構造はPhil Collinsの発想から始まったとされる。Collinsはサイド・プロジェクトBrand Xでの活動や、SantanaのPromise of a Fishermanに影響を受け、よりルーズでジャズ・ロック的な演奏感をGenesisに取り入れたいと考えていた。そこにBanksやHackettがテーマを書き加え、Dance on a VolcanoやSquonkの要素が組み込まれていったとされる。(Wikipedia)
この背景を知ると、Los Endosのリズムがなぜこれほど生き生きしているのかが分かる。
Genesisは複雑な構成を得意とするバンドだった。
だが、Los Endosには机上の構築だけではない身体性がある。
ドラムが前へ進み、パーカッションが跳ね、ベースとギターとキーボードが渦を作る。
これは、プログレッシブ・ロックの頭脳と、ジャズ・ロックやラテン的な身体感覚が混ざった曲なのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Los Endosは基本的にインストゥルメンタル曲であり、通常の意味での歌詞はほとんど存在しない。
そのため、ここでは曲中に短く現れる声の要素と、楽曲の構造に触れる。
フェードアウト付近でPhil Collinsが短く歌うフレーズは、Genesisの過去作Supper’s Readyを思わせるものであり、Peter Gabriel時代への敬意と別れのサインのように機能している。A Trick of the Tailの解説でも、CollinsがフェードアウトでSupper’s Readyの一節を歌い、それがGabrielへの最後の別れ、あるいはトリビュートとして扱われていることが紹介されている。(Wikipedia)
ここでは著作権保護のため、具体的な歌詞の引用は行わない。
代わりに、曲名そのものを訳すなら、以下のようになる。
Los Endos
和訳:
終わりたち
あるいは
ザ・エンド風の冗談めいた言い方
Los Endosというタイトルは、真面目な荘厳さと、Genesisらしい少しひねったユーモアの両方を持っている。
アルバムの最後に置かれた終曲。
でも、The Endとまっすぐ言わない。
少しラテン風に、少し冗談めかしてLos Endos。
この軽いユーモアが、曲の中にある壮大さを重苦しくしすぎない。
Genesisは、非常に複雑で知的な音楽を作るバンドである一方、どこかに英国的な皮肉や遊び心を残している。
Los Endosというタイトルには、その感覚がよく表れている。
4. 歌詞の考察
Los Endosは歌詞の曲ではない。
しかし、歌詞がないから意味がないわけではない。
むしろ、言葉が少ないからこそ、音楽そのものが意味を背負っている。
この曲を考えるとき、重要なのは再帰である。
アルバムの冒頭にあるDance on a Volcanoのテーマが戻ってくる。
Squonkのモチーフも戻ってくる。
未発表的な流れを持つIt’s Yourselfの要素も関係している。
そして最後には、さらに過去のSupper’s Readyの影が現れる。
つまりLos Endosは、アルバム内の記憶と、バンド史の記憶を同時に呼び戻す曲である。
A Trick of the Tailは、新しいGenesisの始まりである。
しかし、過去を完全に断ち切って始まるわけではない。
むしろ、過去のテーマを抱えたまま、新しいリズムで前へ進む。
ここがLos Endosの感動的なところだ。
Peter Gabrielが去った。
だが、Genesisの音楽は続く。
過去は終わった。
でも、完全に消えたわけではない。
その記憶を音の中に残しながら、新しいバンドは進み出す。
この曲の構成は、まるで記憶が走馬灯のように戻ってくる終幕である。
Dance on a Volcanoの緊張感。
Squonkの重い幻想。
Supper’s Readyの遠い余韻。
それらが一つの演奏の中へ吸い込まれていく。
しかし、曲調は単なる回想ではない。
むしろ、非常に前向きで、エネルギッシュだ。
これは、過去を懐かしんで泣く曲ではない。
過去を燃料にして進む曲である。
Phil Collinsのドラムは、この曲の心臓である。
Gabriel脱退後、Collinsはリード・ボーカルとして注目されることになるが、Los Endosではまずドラマーとしての彼の凄さが前面に出る。
細かく動き、力強く押し、リズムをただ支えるだけでなく、曲全体を牽引する。
この曲の躍動は、Collinsがただの代役ボーカリストではなかったことを示している。
彼はGenesisのグルーヴの中心だった。
その身体性があったからこそ、新生Genesisは知的で構築的なプログレッシブ・ロックに、より生きた推進力を加えることができた。
Tony Banksのキーボードは、曲に壮大な建築感を与える。
Genesisの音楽において、Banksの役割は非常に大きい。
彼のコード感、メロディの厚み、キーボードの重ね方は、Genesisの荘厳さを作る。
Los Endosでも、キーボードは単なる伴奏ではなく、曲全体の天井と壁を作っている。
Steve Hackettのギターは、鋭さと幻想性を加える。
Hackettのギターは、ブルース・ロック的な押し出しとは違う。
もっと線が細く、しかし切れ味がある。
空間に光を入れるようなフレーズを弾く。
Los Endosでも、ギターは曲の中に緊張と美しさを差し込む。
Mike Rutherfordのベースと12弦ギター、そしてベース・ペダル的な低音の感覚も、曲の土台を支えている。
Genesisの音は、ときに空中に浮かぶようだが、Rutherfordの低音があるから地面を失わない。
Los Endosでは、その低音がリズムの複雑さを支え、曲に重心を与えている。
この4人が一体となったとき、Los Endosは単なる技巧の披露ではなくなる。
それは、バンドがまだ生きていることの証明になる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
A Trick of the Tailの冒頭曲であり、Los Endosに再登場する重要なテーマを含む楽曲である。Phil Collins体制のGenesisが最初に提示した緊張感のあるプログレッシブ・ロックであり、Los Endosをより深く理解するには必ず聴きたい曲だ。
- Squonk by Genesis
同じくA Trick of the Tail収録曲。北米の伝説上の生き物Squonkを題材にした重く幻想的な曲で、Los Endosにそのモチーフが再利用される。Mike RutherfordとTony Banksの作曲感覚、そしてPhil Collinsの力強いボーカルを味わえる。
- Supper’s Ready by Genesis
1972年のアルバムFoxtrotに収録されたGenesisの大作。Los Endosの終盤でこの曲を思わせる要素が現れるため、Genesisの過去と新体制のつながりを感じるうえで重要である。Peter Gabriel時代の演劇性と構築美を代表する曲でもある。
- Afterglow by Genesis
1976年の次作Wind & Wutheringに収録された楽曲。Los Endosのようなインストゥルメンタルの複雑さとは違うが、Genesisが終盤に感情を大きく解放する美しさを味わえる曲である。ライブではインストゥルメンタル・メドレーの後に演奏されることも多く、Genesisの終幕美学を知るには欠かせない。
1973年のSelling England by the Pound収録曲。ピアノの導入、緻密な構成、Steve Hackettの美しいギター・ソロなど、Genesisのプログレッシブ・ロックとしての建築美が詰まっている。Los Endosの構成美と演奏力に惹かれる人には強く響く。
6. Gabriel後のGenesisがバンドとして鳴らした、新しい終幕と出発
Los Endosは、Genesisの歴史の中で非常に象徴的な曲である。
なぜなら、この曲はA Trick of the Tailの最後に置かれた、言葉ではなく演奏による宣言だからだ。
Peter Gabrielが去った。
それでもGenesisは終わらない。
このことを、バンドはインタビューや声明ではなく、音楽で示した。
それがLos Endosである。
曲は、歌詞で私は大丈夫だとは言わない。
新しい時代が始まるとも言わない。
ただ、演奏する。
複雑なリズム。
重なるテーマ。
過去曲の再帰。
ドラムの推進力。
キーボードの荘厳さ。
ギターの鋭い光。
ベースの重心。
それらが、Genesisはまだここにいると語っている。
この曲の感動は、そこにある。
A Trick of the Tailは、Gabriel脱退後の不安の中で作られたアルバムだった。
しかし、完成した作品は弱々しくない。
むしろ、非常に自信に満ちている。
その自信を最後に凝縮したのがLos Endosである。
インストゥルメンタルでアルバムを閉じるという選択も、非常にGenesisらしい。
普通なら、新ボーカリストとなったPhil Collinsの歌を印象づけるバラードや大曲で終えることもできたはずだ。
しかし彼らは、バンド全体の演奏力で締めた。
これは、Genesisが個人のカリスマだけに依存するバンドではないことを示している。
Gabrielは確かに巨大な存在だった。
だがGenesisの本質は、それだけではなかった。
Banks、Rutherford、Hackett、Collinsが作る複雑で美しい音の建築もまた、Genesisそのものだった。
Los Endosは、それを証明する曲である。
そして同時に、Phil Collinsの新しい存在感も強く刻まれている。
彼はここで、まずドラマーとして曲を牽引する。
Brand Xで磨いたジャズ・ロック的な感覚を持ち込み、Genesisの演奏に新しい身体性を与えた。
その上で、フェードアウト近くに声を添える。
その声は、まだ後年のポップ・スターPhil Collinsの声ではない。
もっと控えめで、バンドの一部としての声だ。
しかし、その声が過去のSupper’s Readyへ触れる瞬間、曲は単なるインストゥルメンタル以上の意味を持つ。
それは、Gabriel時代への別れであり、Genesisという物語の継続でもある。
別れと継続。
Los Endosには、その両方がある。
過去を否定しない。
だが、そこに留まらない。
過去のテーマをもう一度鳴らし、別のリズムで前へ進む。
この姿勢は、バンドが長く生き残るために必要なものだった。
Genesisはこの後、Wind & Wutheringを経て、Steve Hackett脱退後には3人編成となり、さらに80年代にはポップ・ロックの巨大バンドへ変化していく。
その変化をどう評価するかは人によって違うだろう。
しかし、Los Endosの時点で重要なのは、Genesisが変化を恐れず、音楽そのものの力で自分たちを更新したことだ。
曲名は終わりを示す。
でも、実際には始まりの音がする。
アルバムの最後に鳴る終曲でありながら、聴き終わるとバンドの未来が開けているように感じる。
これがLos Endosの不思議な力である。
普通、終曲は物語を閉じる。
Los Endosも確かに閉じる。
A Trick of the Tailのテーマを回収し、アルバムをきれいに結ぶ。
しかし同時に、ドラムの躍動と演奏の熱が、次のページをめくらせる。
Genesisは終わったのではない。
むしろ、ここからまた始まる。
Los Endos by Genesisは、Peter Gabriel脱退後の不安を乗り越えたバンドが、言葉ではなく演奏で新しい生命力を示した、A Trick of the Tailの決定的な終幕である。
それは、アルバムの終わり。
過去への別れ。
テーマの回帰。
そして、新生Genesisの出発。
複雑で、熱く、知的で、身体的。
Genesisというバンドが持つ魅力が、このインストゥルメンタルの中でひとつに結晶している。



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