1. 歌詞の概要
INXSの「Listen Like Thieves」は、1985年の同名アルバムのタイトル曲としてリリースされた楽曲であり、バンドのキャリアにおいて重要な位置を占める一曲である。歌詞は「世界は常に変化し、真実は隠されがちである。だからこそ耳を澄まし、見逃さないようにしなければならない」という警句的なテーマを持っている。単なる恋愛や享楽を歌うのではなく、社会や個人の在り方に対して鋭い感性を促すような内容が特徴である。
「Listen Like Thieves」というタイトルは、盗人のように注意深く、貪欲に、そして鋭敏に耳を傾けろという比喩である。メディアの喧噪や日常の雑音にかき消されそうな「真実の声」を拾い上げる姿勢を示しており、リスナーに対して批判的思考を持つことを呼びかけているようにも受け取れる。言葉は抽象的だが、その分メッセージは幅広く解釈できる余地があり、ポップ・ロックでありながらどこか哲学的な響きを持つ楽曲なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
1985年の『Listen Like Thieves』は、INXSにとって飛躍のきっかけとなったアルバムである。それまでの作品では、ニューウェーブやファンク、パンク的な要素を持ちつつも、世界的な注目を得るには至っていなかった。しかし、プロデューサーのクリス・トーマスが関与することで、サウンドは一気に洗練され、ラジオフレンドリーでありながら鋭さを失わないバランスを獲得した。
タイトル曲「Listen Like Thieves」は、そのアルバム全体の姿勢を象徴している。つまり「ただ音楽を消費するのではなく、耳を澄まし、隠された声や時代の息遣いを掴め」という姿勢である。当時、1980年代半ばの世界は冷戦の緊張や経済的格差の拡大など、複雑な社会情勢に包まれていた。MTV世代の若者たちは煌びやかなポップカルチャーに熱中しながらも、その裏で揺れる現実をどう受け止めるかを問われていた時代であった。
そうした背景を踏まえれば、この曲の「盗人のように聞け」という言葉は、社会的な欺瞞や権力の支配の中で、見落とされがちな真実を自らの感性で掴めというメッセージとも読める。マイケル・ハッチェンスのヴォーカルは、単なるエンターテインメントの枠を超え、どこか切迫した響きを帯びている。音楽的にも、INXS特有のファンキーなリズムとロックの推進力を兼ね備え、バンドのアイデンティティを確立する役割を果たしたのだ。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（歌詞引用元：INXS – Listen Like Thieves Lyrics | Genius）
On the talk back show
トーク番組の中で
On the radio
ラジオの声に
At the local bar
地元のバーで
In the hot traffic by the red tail lights
赤いテールライトが渋滞の中で光るとき
Everybody’s down on their knees
誰もがひざまずき
Listen like thieves
盗人のように耳を澄ませる
But who needs that, when it’s all in your hands?
だがそんなもの必要か？ 本当の答えはすでに君の手の中にあるのだから
歌詞は日常にあふれる「情報の断片」を列挙しながら、その中に潜む真実をつかみ取れと呼びかける。日常の風景描写を通して、現代社会に生きる人々の混乱や欲望を切り取る手法が用いられている。
4. 歌詞の考察
「Listen Like Thieves」の歌詞を考察すると、まず「盗人」という比喩の大胆さが目を引く。盗人は通常否定的な存在だが、この曲では「敏感さ」「素早さ」「人目を忍んで本質を掴む姿勢」の象徴として用いられている。つまり「他者が見逃すような真実を盗み取る」行為が、ここでは生き抜くための知恵として肯定的に捉えられているのだ。
また「すでに答えは君の手の中にある」というフレーズは、真理は外部の権威や情報源から与えられるものではなく、自らの内面や感覚にこそ存在するという思想を示している。この点においては、自己決定や主体性の重要性を説く80年代的なメッセージソングとも言える。
音楽的にも、この曲はリズムの強調が特徴であり、反復するビートが歌詞の「耳を澄ませ」というテーマと響き合っている。聴き手は自然とそのリズムに導かれ、注意深く「聴く」姿勢に誘導される構造になっているのだ。マイケル・ハッチェンスの声が持つセクシュアリティとスピリチュアリティが、この抽象的な歌詞を説得力あるものへと変えている。
さらに、この曲はバンドにとって「自己の立ち位置」を示す役割も果たした。彼らは決して単なるダンスロック・バンドではなく、社会的文脈や思想性を持った存在であることを示したのである。それは後の「Kick」期に見られるポップ化とも矛盾せず、むしろINXSの幅広さを示す重要な一歩だったのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- What You Need by INXS
同アルバム収録の代表曲で、ファンキーでありながらキャッチーな世界的ヒット。 - New Sensation by INXS
ダンスロックの完成形とも言える軽快な一曲で、ポジティブなエネルギーを感じさせる。 - Shout by Tears for Fears
社会的メッセージとポップなサウンドが融合した80年代のアンセム的楽曲。 - Once in a Lifetime by Talking Heads
日常と哲学を重ね合わせるような歌詞が「Listen Like Thieves」と共鳴する。 - Don’t You (Forget About Me) by Simple Minds
同時代のニューウェーブ的メッセージソングで、INXSとの共通した空気感を持つ。
6. タイトル曲としての意義
「Listen Like Thieves」が特筆すべきなのは、アルバムのタイトル曲としてその作品全体のコンセプトを凝縮している点である。アルバムは「What You Need」の成功によって商業的評価を得たが、批評的な側面から見れば、このタイトル曲こそがバンドの姿勢を象徴していた。つまり、ポップでありながら鋭さを失わず、時代に流されない批判的感性を持つ姿勢である。
この曲は、INXSが世界的ロックバンドとして自らを定義する過程において「理念」として機能した楽曲であったと言える。洗練と野心が交差する1980年代半ばの空気を鮮やかに映し出した一曲であり、今なおバンドの核心を理解するために欠かせない存在なのだ。
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