1. 歌詞の概要
Iron Maidenの「Flight of Icarus」は、1983年にリリースされたアルバム『Piece of Mind』に収録された楽曲であり、同年シングルとしても発表された。歌詞はギリシャ神話の「イカロス伝説」を下敷きにしている。イカロスは、父ダイダロスと共にクレタ島からの脱出を試み、蝋で固めた翼で空を飛ぶが、太陽に近づきすぎて翼が溶け、墜落して命を落としたとされる。
この古典的な物語をIron Maidenは独自に再解釈し、「父の警告を無視し、自らの欲望と野心に突き動かされる若者の姿」として描いている。歌詞は、イカロスの視点というよりも「父の視点」から息子を見つめる形で語られており、「お前は自分の欲望に燃え尽きるだろう」と予言する。神話を題材にしながらも、若者の反逆と自己破壊をテーマにした普遍的な物語として昇華しているのが特徴である。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Piece of Mind』はIron Maidenの4作目のスタジオアルバムで、ブルース・ディッキンソンとエイドリアン・スミスのソングライティングが本格的に反映された最初の作品である。「Flight of Icarus」は、ディッキンソンとスミスの共作であり、ブルース自身がイカロスの物語に強い関心を持ち、「若者が父の言葉に従わず、野望に突き動かされる姿」として描いた。
シングルとしてはアメリカでヒットし、Billboard Hot 100にもチャートインした。特にアメリカ市場で人気を博した理由は、この曲が従来のメイデンの疾走感ではなく、ミドルテンポで力強い構成を持っていたため、ラジオ向けに親和性が高かったことにある。一方でイギリス本国のファンからは「ライブで演奏するとテンポが遅すぎて迫力に欠ける」と評されることもあった。
ライブでは長年演奏されなかったが、近年のツアーで復活し、改めてファンに再評価されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
(歌詞引用元:Iron Maiden – Flight of Icarus Lyrics | Genius)
As the sun breaks, above the ground
太陽が地平線を越えて昇るとき
An old man stands on the hill
丘の上に一人の老人が立っている
As the ground warms to the first rays of light
大地がその最初の光で温まるころ
A bird song shatters the still
鳥の歌が静けさを破る
With eyes of fire, seeing flight of the young boy
炎のような目で、若者の飛翔を見つめる
歌詞は父親が息子の飛翔を見つめる場面から始まり、その先に待つ破滅を暗示している。
4. 歌詞の考察
「Flight of Icarus」は、単なる神話の再話ではなく「父と子」「経験と若さ」「理性と衝動」といった対立を描いた寓話として解釈できる。父は息子に「高く飛びすぎるな」と忠告するが、息子はその声を無視して自らの欲望のままに太陽へ向かう。その姿は、自由と野望を求める若者の象徴であり、同時に破滅へと至る愚かさを示している。
ブルース・ディッキンソンはこの歌詞を通して「若者の反逆の力」を肯定的に描いているともいわれる。つまり、破滅を恐れず突き進む姿こそが人間の成長であり、冒険であるという解釈だ。これは当時のメタルシーンが持つ「反抗精神」とも重なり、聴き手に強い共感を呼んだ。
音楽的には、他のメイデン楽曲に比べてテンポが抑えられ、リフが重厚に響く。これにより、物語の緊張感と悲劇性がより強調されている。特にサビの「Fly on your way, like an eagle…」という高らかなメロディは、イカロスの飛翔とその悲劇的結末を象徴する力強いクライマックスとなっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Revelations by Iron Maiden
同じ『Piece of Mind』収録曲で、宗教的・哲学的テーマを扱う。 - Rime of the Ancient Mariner by Iron Maiden
文学作品を題材にした長編大作で、叙事詩的展開が共通する。 - Children of the Damned by Iron Maiden
神話的・黙示録的イメージを持つ楽曲で、同じく寓話的な側面を持つ。 - Heaven and Hell by Black Sabbath
人間の善悪や欲望をテーマにした哲学的メタルの古典。 - Holy Diver by Dio
神話的イメージと力強い歌唱で、イカロスの物語と共鳴する。
6. メタルが描いた神話の再解釈
「Flight of Icarus」は、Iron Maidenが神話を現代的に読み替え、哲学的・寓話的な楽曲へと昇華させた代表例である。若者の反抗と破滅を描きながら、それを単なる悲劇ではなく「人間が自由を求めて挑戦する姿」として肯定している点に、この曲の普遍的魅力がある。
『Piece of Mind』というアルバム全体が「精神」「思想」「叙事詩性」をテーマにしている中で、「Flight of Icarus」は特にわかりやすく、壮大な寓話としてリスナーを引き込む。シングルとしての成功もあり、Iron Maidenが世界的な存在へと飛翔する大きな翼となった楽曲なのである。
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