1. 歌詞の概要
「Mongoloid」は、Devoが1977年にシングルとして発表した楽曲であり、後にデビュー・アルバム『Q: Are We Not Men? A: We Are Devo!』（1978年）にも収録された。歌詞の内容は挑発的で、一見すると差別的に聞こえるタイトルを冠しながらも、実際には「異形とされる存在が、社会の規範に従い“普通”に生きている」という逆説的な状況を描いている。
主人公は「Mongoloid（ダウン症の蔑称として使われていた言葉）」と呼ばれる人物だが、彼は職を持ち、家庭を持ち、酒を飲み、社会の枠組みに適応している。その姿は「健常者」と変わらない。つまりこの曲は「誰もが同じように社会のシステムに組み込まれている」という皮肉を示している。表面的には差異を強調しているようで、実際は「均質化された現代社会の風刺」なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
Devoの中心理念である「De-evolution（人類は進化ではなく退化している）」がもっとも端的に表れた楽曲のひとつが「Mongoloid」である。ジェラルド・カセールが作詞・作曲し、1977年にインディペンデント・シングルとして発表された。当時はアンダーグラウンドな存在だったDevoにとって、この曲は彼らの世界観を鮮烈に提示する名刺代わりのような楽曲となった。
また、この曲のミュージック・ビデオは、バンド自身が制作した初期の映像作品として知られており、1950年代の教育映画の断片やスーパーマーケットの映像をコラージュ的に組み合わせ、皮肉と不条理を強調した実験的作品であった。これは後のMTV時代を先取りするもので、Devoが「映像と音楽を融合させた表現」の先駆者であることを示している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（歌詞引用元：Devo – Mongoloid Lyrics | Genius）
Mongoloid, he was a mongoloid
モンゴロイド、彼は“モンゴロイド”と呼ばれていた
Happier than you and me
彼は僕や君よりも幸せそうだった
Mongoloid, he was a mongoloid
モンゴロイド、彼は“モンゴロイド”と呼ばれていた
And it determined what he could see
そしてそれが、彼の見る世界を決めていた
He wore a hat, and he had a job
彼は帽子をかぶり、仕事を持ち
And he brought home the bacon so that no one knew
給料を家に持ち帰り、誰にも気づかれなかった
歌詞は淡々とした叙述によって、主人公の「普通の生活」を描き出している。表現はシンプルだが、その裏に込められた皮肉は深い。
4. 歌詞の考察
「Mongoloid」は、差異や異質性を表向きのテーマに据えながら、実際には「誰もが同じように社会の規範に従っている」というアイロニーを暴き出す。歌詞の主人公は「違う」とされながら、実際には「同じ」である。ここにDevoの批評性が凝縮されている。
特に「And he brought home the bacon so that no one knew（彼は給料を家に持ち帰り、誰にも気づかれなかった）」という一節は、表向きの差異が消費社会において無意味であることを示している。誰であっても、働き、消費し、家庭を維持するというルーティンに組み込まれているのだ。
また、タイトルに含まれる差別的表現は、当時の社会で「異質」とされてきた存在をあえて前面に出し、それを皮肉な形で「正常性」へと結びつけることで、「そもそも正常とは何か？」という問いを突きつけている。これはまさにDevoのコンセプト「De-evolution＝退化」の象徴であり、人類が進化どころか均質化と機械化に向かっていることを痛烈に示している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Jocko Homo by Devo
人類の退化をテーマにしたDevoの代表曲で、哲学的メッセージが共通する。 - (I Can’t Get No) Satisfaction by Devo
既存のロックを解体・再構築したカバーで、社会風刺的意味合いを持つ。 - Warm Leatherette by The Normal
冷徹なエレクトロ・パンクで、人間性の喪失を描く。 - Being Boiled by The Human League
初期シンセポップによる社会批判的楽曲。Devo的精神に近い。 - Psycho Killer by Talking Heads
異質な心理と社会規範をめぐるアイロニカルな視点を持つニューウェイヴの代表曲。
6. 「Mongoloid」の象徴性
「Mongoloid」は、Devoの世界観を端的に体現する初期の代表曲であり、彼らが単なる奇抜なニューウェイヴ・バンドではなく、深い社会批評性を持った存在であることを示した作品である。表向きにはシンプルで繰り返しの多い歌詞だが、その背後には「人類の退化」「社会の均質化」「正常性の虚構」といった哲学的テーマが潜んでいる。
また、この曲は映像作品と共に発表されることで、のちのMTVカルチャーを先取りする革新性を示した。ライブでも観客に強烈な印象を与え続け、今なおDevoを語るうえで外せないナンバーである。
結果として「Mongoloid」は、ニューウェイヴの枠を超えて、社会風刺とポップ・カルチャーの融合を果たした画期的な作品であり、Devoのコンセプト「退化論」をもっともわかりやすく提示した象徴的楽曲なのである。
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