1. 歌詞の概要
「(I Can’t Get No) Satisfaction」は、もともとThe Rolling Stonesが1965年に発表したロック史に残る代表曲であるが、Devoは1978年のデビュー・アルバム『Q: Are We Not Men? A: We Are Devo!』でこの曲を大胆にカバーした。歌詞自体はオリジナルと同じく「満たされない欲望と消費社会への苛立ち」をテーマにしている。ラジオやテレビから流れる広告に対する不満、女性との関係で感じる虚無感が語られ、「満足できない（Satisfactionが得られない）」というフレーズが繰り返される。
しかし、Devoの解釈ではこの虚無感がさらに強調され、ロボットのようなヴォーカルやぎこちないリズムが「人間性の喪失」そのものを表現している。結果として、この曲はオリジナルの反抗心を受け継ぎつつも、全く新しい文脈での「不満の表明」となっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Devoの「Satisfaction」は、ブライアン・イーノをプロデューサーに迎えたデビュー作で披露され、バンドが掲げる「退化（De-evolution）」というコンセプトを象徴するカバーである。メンバーのマーク・マザーズボーとジェラルド・カセールは、オリジナルのストーンズ版をあえて崩し、不協和音的でリズミカルなアレンジに置き換えることで、消費社会の無意味さを冷徹に突きつける作品へと変貌させた。
当初、ストーンズのミック・ジャガーにデモを聴かせたところ、彼は爆笑しながら踊り出したと伝えられている。これは揶揄ではなく、オリジナルを破壊的に再構築したDevoのアプローチに強いインパクトを受けた証拠でもあった。結果的に、Devo版「Satisfaction」はパンクやニューウェイヴの文脈で高く評価され、バンドがカルト的な支持を集めるきっかけとなった。
リリース当時、この曲はラジオでのオンエアも話題となり、オリジナルを知る世代からは賛否を巻き起こしたが、次世代のリスナーには「時代を象徴する新しい不満の叫び」として響いた。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（歌詞引用元：Devo – (I Can’t Get No) Satisfaction Lyrics | Genius）
I can’t get no satisfaction
満足なんて得られやしない
I can’t get me no satisfaction
僕には満足なんて手に入らない
And I try, and I try, and I try, and I try
僕は何度も、何度も、何度も、何度も試すけれど
I can’t get no, I can’t get no
それでも得られないんだ、満足なんて
When I’m ridin’ in my car
車を運転しているときでさえ
And the man come on the radio
ラジオから男の声が流れてきて
He’s tellin’ me more and more
彼は次から次へと語り続ける
About some useless information
どうでもいい情報ばかり
Supposed to fire my imagination
僕の想像力をかき立てるはずのものを
歌詞はストーンズ版と同じだが、Devoが演奏するとその意味合いが「現代社会における情報過多と人間性の劣化」へとシフトして聞こえる。
4. 歌詞の考察
ストーンズ版「Satisfaction」は1960年代の若者の欲望と消費文化への苛立ちを象徴するロック・アンセムであったが、Devo版は1970年代後半のポストモダン的な風刺として新たに成立している。Devoは歌詞をそのまま残しつつ、機械的でぎこちないリズムと不安定なヴォーカルを用いることで、「満足できない」という感情を人間の欲望ではなく「システムに取り込まれた存在の苦悩」として再解釈したのだ。
特に「I try and I try…」という部分の機械的反復は、オリジナルの情熱的な叫びとは対照的に、「無限に繰り返される不毛な努力」の象徴となっている。ここにDevoのコンセプト「De-evolution＝人類は進化ではなく退化している」という思想が色濃く反映されている。
つまり、Devo版「Satisfaction」はオリジナルの意味を否定するのではなく、それを拡張して「現代社会の閉塞感」へと接続させた作品であり、ポスト・パンクやニューウェイヴの時代精神を表す実験的カバーなのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Jocko Homo by Devo
彼らの代表曲。人類の退化をテーマにしたコンセプト・ソング。 - Mongoloid by Devo
社会規範と「異質な存在」を風刺的に描いた初期の代表作。 - Psycho Killer by Talking Heads
ニューウェイヴの代表曲で、神経質で不安定な社会感覚を共有する。 - Once in a Lifetime by Talking Heads
消費社会の無意味さを風刺する点で共通する名曲。 - Warm Leatherette by The Normal
機械的なリズムと冷徹な表現を用いたエレクトロ・パンク。
6. 「Devo版 Satisfaction」の象徴性
Devoによる「(I Can’t Get No) Satisfaction」は、単なるカバーではなく「解体と再構築」の実験的試みとしてロック史に残る作品である。オリジナルが持つブルース・ロックのエネルギーを捨て去り、代わりに神経質で機械的なサウンドを導入することで、時代の不安や人間疎外を表現することに成功した。
この曲はDevoの世界観「退化する人類」をわかりやすく提示した象徴であり、ニューウェイヴ／ポスト・パンク時代の幕開けを告げるアンセムでもあった。ストーンズ版が「60年代の若者の叫び」だったとすれば、Devo版は「70年代後半のシステム化された社会への冷笑的な応答」であり、両者が補完しあうことで「Satisfaction」という曲は時代を超える普遍性を得たのである。
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