Not Too Late by Norah Jones（2007）楽曲解説

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. タイトル曲としての意義

1. 歌詞の概要

「Not Too Late」は、ノラ・ジョーンズのサード・アルバム『Not Too Late』（2007年）のタイトル曲であり、アルバム全体を象徴するような静けさと余韻を持つ作品である。前2作と比べるとより内省的で、彼女自身がソングライティングとプロデュースに深く関わったこともあり、個人的で親密な表現が色濃く表れている。

この曲の歌詞は、別れやすれ違いといった関係の終わりを前提としながら、それでも「まだ遅くはない」という希望をわずかに残している。諦めと望みの狭間で揺れる心情が、淡々としたトーンで描かれることによって、むしろ切実さを増しているのだ。静けさの中に漂う哀しみは、聴き手に自身の過去の感情を思い起こさせるように作用する。

2. 歌詞のバックグラウンド

『Not Too Late』はノラ・ジョーンズにとって非常に重要なアルバムであった。大ヒットしたデビュー作『Come Away With Me』（2002年）と続く『Feels Like Home』（2004年）で、彼女はすでに世界的な成功を収めていた。しかし、その大きな成功が逆にプレッシャーとなり、音楽的な進化が問われる局面に立たされていた。

このアルバムでノラは、商業的な成功よりも「自分の心に正直であること」を選んだ。外部の著名ソングライターに頼らず、自らのペンを中心に楽曲を構築し、長年の音楽的パートナーであるリー・アレクサンダーと共にプロデュースを行った。その結果、サウンドはさらにミニマルで素朴になり、ジャズやカントリーの要素が彼女本来の声と自然に溶け合ったアルバムとなった。

「Not Too Late」は、その姿勢を象徴するかのように、シンプルで飾り気のないアレンジで進む。ストリングスや派手な楽器はなく、アコースティックギターと彼女の声が中心に据えられている。まるで深夜の静寂の中で一人歌っているかのような親密さを持ち、聴く者を彼女の内面へと引き込んでいくのだ。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元：Norah Jones – Not Too Late Lyrics | Genius Lyrics

Come away with me again
もう一度、私と一緒に来てほしい

It’s not too late for you, my friend
まだ遅くはないのよ、私の友よ

Though we tried and failed before
私たちはこれまでに試して、失敗してきたけれど

Maybe we could try once more
もう一度だけ、試せるかもしれない

Don’t you know that it’s not too late?
わかっているでしょう、まだ遅くはないのだと

Not too late, for love to mend
愛が修復されるには、まだ遅くはないのだと

歌詞は非常にシンプルだが、そこに込められた余白が聴き手の感情を呼び覚ます。言葉数が少ない分、沈黙の中にある感情の重さが強調されている。

4. 歌詞の考察

「Not Too Late」は、一見するとラブソングのように聴こえるが、より深いテーマを抱えている。それは「人生や関係のやり直しは遅くはない」という普遍的なメッセージである。過去の失敗や喪失があったとしても、再び希望を見いだすことはできる——この曲はそのささやかな光を提示している。

興味深いのは、希望が提示されつつも、曲全体に漂うトーンが決して明るくはない点だ。むしろ諦念や静かな哀しみが色濃くにじんでいる。それでもなお「Not Too Late」と歌うことで、かすかな希望が逆にリアリティを持つ。ここには、ノラ・ジョーンズの音楽の核心ともいえる「現実と夢のあいだにある真実」が表れているのだ。

また、この曲の持つ「余白」は彼女の音楽に特有の魅力でもある。音数の少なさ、シンプルなコード進行、感情を過剰に表現しないヴォーカル——これらすべてが、聴き手に想像力を働かせ、自分自身の体験を重ねる余地を残している。だからこそ、この曲は人によって「失恋の歌」にも「希望の歌」にも聴こえるのである。